著者
田平 一行 原田 鉄也 山本 純志郎 岡田 哲明 前村 優子 山本 みさき
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ae0083-Ae0083, 2012

【はじめに、目的】 運動耐容能の評価として,自転車エルゴメータやトレッドミルを用いた心肺運動負荷試験が行われ,最大酸素摂取量が最も良い指標とされている.これに加えて近年,自転車エルゴメータの漸増負荷試験から得られた最大仕事率(WRpeak)の80%の運動強度での定常負荷試験が実施されている.この試験における運動持続時間(ET)は,薬物や運動療法介入後の効果の反応性が良いとされている.実際の日常生活においても,強い運動よりも長時間運動できることが重要であると思われる.しかしこのETは相対的な運動強度で実施されるため,最大酸素摂取量やWRpeakの影響は受けにくく,影響する因子は明らかになっていない.そこで今回,ramp負荷と定常負荷試験の2種類の運動負荷試験を実施し,ETに影響する因子について検討したので報告する.【方法】 健常男子大学生13名(年齢21.9±0.8歳) を対象に自転車エルゴメータを用いて2種類の運動負荷(ramp負荷,定常負荷)試験を実施した.ペダルの回転数は60回/分を維持させた.その間,呼気ガス分析器(Metamax 3B, Cortex社)を用いて酸素摂取量(VO2),二酸化炭素排出量(VCO2),分時換気量(VE),換気当量(VE/VCO2),死腔換気率(VD/VT)を,組織血液酸素モニター(BOM-L1TRW,オメガウェーブ社)を用いて大腿四頭筋外側広筋部の酸素化ヘモグロビン,脱酸素化ヘモグロビン,総ヘモグロビン(Total Hb),組織酸素飽和度を,非侵襲的血圧測定器(Portapres, FMS社)を用いて収縮期血圧,1回心拍出量,心拍数を測定した.また運動終了時は修正Borg scaleを用いて,呼吸困難感と下肢疲労感を測定した.ramp負荷試験:3分間の安静座位の後,20w/minのramp負荷にて運動を行わせ,症候限界まで実施した.定常負荷試験:3分間の安静座位の後,ramp負荷試験にて得られたWRpeakの80%の運動強度にて症候限界まで運動を行わせた.運動の中止基準は,85%予測最大心拍数,自覚症状,ペダルの回転数が60回/分維持できない場合などとした.解析方法:ramp負荷試験における各指標のpeak値(運動終了直前の30秒間の平均値)とV-slope法により求めた無酸素性作業閾値AT(VO2)および定常負荷試験における運動持続時間(ET)を解析に用いた.統計処理は,ETと各指標との間の関係についてピアソンの積率相関係数を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した.【結果】 ETと死腔換気率との間に有意な負の相関関係が認められた(r=-0.654, p=0.013).有意ではなかったが,ETはAT(VO2)(r=0.562),換気当量(r=-0.429),下肢疲労感(r=-0.368),Total Hb(r=0.393)と関係する傾向が認められた.しかしその他の指標とは関連を認めなかった.【考察】 同じ最大酸素摂取量を持つ者でも,ETは異なり,ETが高い方がより持久性があると考えられる.今回の結果,ETとAT(VO2),骨格筋のTotal Hbとは正の,死腔換気率,換気当量,下肢疲労感とは負の関係が認められた.AT(VO2)との相関は,定常負荷試験の場合は,ramp負荷のWRpeakよりも負荷量が低いことから,より有酸素的なエネルギー代謝の影響を受けるためと考えられた.Total Hbは末梢において十分に血管が拡張しているかを反映していると考えられ,下肢疲労感との負の相関は最大運動時に下肢筋に余裕を残していることが考えられ,ETは下肢筋の有酸素能の影響を受けるものと考えられた.また死腔換気率,換気当量との関係は,肺内でのガス交換の影響を示しており,呼吸パターンや肺内の換気-血流比に影響を受けると考えられた.以上より,骨格筋の有酸素能を高めるトレーニングや呼吸パターンの修正,また静脈還流量を増やすような水中負荷,弾性ストッキングの使用などにより,同じ最大酸素摂取量を持つ対象者であっても運動時間を延長できる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 定常負荷試験におけるETは運動療法の介入効果を反映しやすい指標であるとともに,運動の持久性はADL上も重要な要因である.ETの要因を明らかにすることにより,効果的に持久性を高めるためのトレーニング方法など,運動療法のアプローチの再考につながると考える.

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