著者
辻村 康彦 平松 哲夫 小島 英嗣 田平 一行
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.48-53, 2017-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
14

【目的】短時間作用性β2刺激薬(SABA)によるアシストユースがCOPD患者の身体活動量に及ぼす影響を検討した.【対象】長時間作用性気管支拡張薬を使用しているにもかかわらず,日常生活において強い呼吸困難と活動制限があり,SABAのアシストユース未経験の男性10例.【方法】身体活動量の測定には加速度センサー付歩数計を用い,吸入前,吸入後4・12週で評価し比較検討した.また,息切れとHRQOLもあわせて評価した.【結果】アシストユースにより身体活動量は有意な向上を認めた.また,息切れやHRQOLも有意な改善を認めた.【考察】動作前にSABAを吸入することで得られる労作時息切れの改善により,身体活動量は向上し,HRQOLも改善したと考えられた.SABAのアシストユースはCOPD治療において考慮されるべき治療方法であることが示唆された.
著者
田平 一行
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.79-85, 2022-12-26 (Released:2022-12-26)
参考文献数
20

運動(療法)は,身体に適度な負荷を与えることで身体機能の維持・向上を図るもので,主に骨格筋や心循環機能を向上させ,運動耐容能を改善する.アスリートは運動パフォーマンスの向上,一般健常者は生活習慣病の予防や健康増進が主な目的となり,その効果と方法については確立されている.呼吸器疾患患者でも同様に運動耐容能の向上や息切れの軽減,ADL,QOL等の改善などが得られることは多くの文献で証明されている.呼吸器疾患では,低酸素血症や換気不全,低栄養状態など特有のリスクが存在するが,運動療法は身体に負荷をかけるため,健常者でもリスク管理は必須である.従って,疾患特有のリスクを管理した上での運動療法の実施は,十分にエビデンスのある有効な治療法であり,強く推奨すべきである.
著者
武田 広道 山科 吉弘 田平 一行
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.20-26, 2020 (Released:2020-02-20)
参考文献数
30

【目的】円背姿勢が咳嗽力に与える影響を明らかにすること。【方法】若年男性16 名を対象とし,非円背,軽度,中等度,重度円背の4 条件で咳嗽時最大呼気流量(以下,CPF),肺機能,呼吸筋力,胸郭拡張差,最長発声持続時間(以下,MPT),呼吸抵抗(R5,Fres)を測定した。条件間の比較には一元配置分散分析および多重比較検定(Bonferroni)を行った。また円背程度による各測定項目の変化率を算出し,ピアソンの相関分析を行った。【結果】CPF,肺活量(以下,VC),胸郭拡張差(剣状突起部),MPT は非円背と比較し,中等度以上の円背で,呼吸筋力,Fres は重度円背で有意に低値を示した。また,CPF とVC,呼気筋力,胸郭拡張差(剣状突起部)との間に有意な正の相関を認めた(r=0.27,0.33,0.37,p<0.05)。【結論】円背が中等度以上になると胸郭拡張差,呼吸筋力,VC が低下し,CPF を低下させることが示唆された。
著者
田口 飛雄馬 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101113, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに,目的】全身持久力評価は,最も客観的な心肺運動負荷テスト(CPX)やフィールド歩行テストである漸増シャトルウォーキングテスト(ISWT),6 分間歩行テスト(6MWT)を用いられることが多いが,これらの評価法は高価な機器や,広いスペースが必要であり,また高負荷であるためリスクの観点からも通所施設や在宅分野では使用しにくい問題がある.一方,CS-30 はJanesらによって考案された下肢筋力評価法であり,片麻痺患者の最速歩行速度や排泄自立度,転倒予測などとの関連も報告されている.また,試験は椅子から立ち座りを繰り返すことから,全身持久力の評価になり得る可能性がある.そこで今回,健常者を対象にCS-30 とCPXを行い,CS-30 から最高酸素摂取量(VO2peak)を予測可能であるか,またCS-30 の運動強度や呼吸循環器系・筋酸素動態への影響を検証することを研究目的とした.【方法】健常大学生20 名(男性10 名,女性10 名,年齢21.0 ± 1.1 歳)を対象に,2 種類の負荷試験(CS-30,CPX)を実施した.その間,血圧監視装置tango(Sun teck社)を用いて収縮期血圧(SBP),心拍数(HR)を,呼気ガス分析装置(MataMax, Cortex社)を用いて分時換気量(VE),酸素摂取量(VO2)を,組織血液酸素モニター(BOM-L1TRM,オメガウェーブ社)を用いて右外側広筋の骨格筋酸素動態{総ヘモグロビン量(totalHb),脱酸素化ヘモグロビン量(deoxyHb)}を,自覚的運動強度は旧Borgスケールを用い呼吸困難感,下肢疲労感を測定した.またCS-30 は立ち上がりの回数も測定した.負荷プロトコル:CS-30 は高さ40cmの椅子に腰掛け,両下肢を肩幅程度に広げて両腕は胸の前で組ませ,30 秒間で可能な限り立ち座りを繰り返させ,その回数を数えた.CPXは自転車エルゴメーターを用い,ランプ負荷(男性:20W/min,女性:15W/min)で,ペダル回転数60rpmを維持させ症候限界まで運動させた.CPXとCS-30 の測定は1 日以上を空けランダムに実施し,中止基準は目標心拍数・自覚症状などとした.解析方法:1)CS-30 とCPXの各測定項目の比較:安静時を基準とした100 分率を用い,最大値(max),回復1 分(rec1),2 分(rec2)の値を算出した.解析は二元配置分散分析を用い,同時間における比較には対応のあるt検定を用いた.2)CS-30 の回数とVO2peakとの関係:従属変数VO2peak,独立変数をCS-30 の回数とする単回帰分析を行った.いずれも有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者の保護には十分留意して実施した.全対象者には本研究の趣旨と目的を説明し,自署による同意が得られた後に実施した.また研究は,事前に本学倫理委員会の承認を得た.【結果】1.CS-30 とCPXの各測定項目の比較:totalHb,deoxyHbを除く全ての指標でCS-30 の方がCPXよりも有意に低値であったが,全てにおいて時間要因との交互作用を認めた.また各時間における比較は,SBP,HR,呼吸困難感,下肢疲労感,VEで,全ての時間帯で有意差を認めた.また,最大値におけるCS-30 のCPXに対する割合は,SBP:83%,HR:84%,VO2:49%,VE:38%,呼吸困難感:74%,下肢疲労感:71%,totalHb:94%,deoxyHb:91%であった.2.CS-30 の回数とCPXのVO2peakとの関係:相関係数0.484(p<0.05)の有意な相関が得られ,VO2peak=-0.58+0.928 ×CS-30(回数)の予測式が得られた.【考察】CPXに対するCS-30の割合では,VO2maxで49%であった.これは運動強度がCPXの49%であることを意味している.また循環器系,呼吸器系の各パラメーター,呼吸困難感,下肢疲労感もCPXに対して有意に低値を示したことより,CS-30はCPXに対して負荷の少ない評価法であることが確認された.一方, deoxyHbは有意差がなく,骨格筋にはCPXと同等の脱酸素化が起こっていると考えられた.更にrec1:129%・rec2:126%と高く,CS-30 で回復が遅延することを示しており,これは骨格筋への負荷はCPX以上であることが推察された.また,CS-30 の起立回数とVO2peakには有意な相関があったが,決定係数は低いため,大まかな予測は可能であるが,精度を高めるには他の要因も考慮する必要があると思われた.【理学療法学研究としての意義】症候限界まで運動を行うCPX に対して, CS-30 は短時間で終了し,安全で理解しやすい利点がある.また本研究から,CS-30 は低負荷であり,全身持久力(VO2peak)との相関が確認された.CS-30 による全身持久力予測が可能となれば,通所リハビリテーション施設・在宅分野など,測定環境が不十分な施設で有用であると考える.しかし,下肢筋への負担は大きいことから実施後の転倒には十分気をつけなければならない.
著者
乾 亮介 森 清子 中島 敏貴 西守 隆 田平 一行
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第51回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.19, 2011 (Released:2011-10-12)

【目的】摂食・嚥下機能障害患者に対してのリハビリテーションにおいて理学療法は一般的に嚥下に関わる舌骨上筋群の強化や姿勢管理などを担当する。嚥下筋は頸部の角度や脊柱を介して姿勢アライメント等から影響を受けることが指摘されており、頸部のポジショニングにおいていわゆる顎引き姿勢(chin-down)や頸部回旋による誤嚥予防や嚥下量の増大などの口腔咽頭の解剖学的変化による有効性については緒家らの報告がある。しかしいずれも体位や、嚥下する物性を変えた研究が殆どであり、頸部角度に注目した報告は少ない。そこで今回は頸部角度の違いが嚥下時の舌骨上下筋群及び頸部筋の筋活動に与える影響について検討した。【方法】対象者は口腔・咽頭系及び顎の形態と機能に問題がなく、頚椎疾患を有さない健常男性5名(年齢29.8±4.4歳)とした。被験者の口腔にシリンジにて5ccの水を注いだ後、端座位姿勢で頸部正中位、屈曲40°、屈曲20°、伸展20°、伸展40°の各姿勢で検者の合図で水嚥下を指示した。この時飲み込むタイミングは被験者に任せ、検者は被験者の嚥下に伴う喉頭隆起の移動が終了したことを確認し、測定を終了した。また嚥下後に嚥下困難感をRating Scale(0=difficult to swallow 10=easy to swallow)で評価した。表面筋電図は嚥下筋として舌骨上筋、舌骨下筋を、頸部筋として胸鎖乳突筋で記録した。記録電極はメッツ社製ブルーセンサーを電極幅20mmで各筋に貼付し使用した。 筋電計はノラクソン社製Myosystem1200を用い、A/Dコンバータを介してサンプリング周期1msにてパーソナルコンピューターにデータ信号を取り込んだ。取り込んだ信号はソフトウェア(Myo Research XP Master Edition1.07.25)にて全波整流したのちLow-passフィルター(5Hz)処理を行い、その基線の平均振幅+2SD以上になった波形の最初の点を筋活動開始点、最後の点を筋活動終了点とし、嚥下時の各筋のタイミング及び筋活動持続時間(以下持続時間)と筋積分値を求めた。解析方法は持続時間と筋積分値の頸部位置における比較は反復測定分散分析を用い、多重比較はTukey-Kramer法を用いた。またRating Scaleと頸部位置における関係についてはFriedmanの検定を用い、有意水準はいずれも5%未満とした。【説明と同意】全ての被験者に対して研究依頼を書面にて行い、本人より同意書を得た後に実施した。【結果】舌骨上筋では屈曲40°、20°、と比較して伸展40°で有意に持続時間、筋積分値は高値を示したが(p<0.05)、が舌骨下筋、胸鎖乳突筋では有意差を認めなかった。またRating Scaleにおいては頸部角度により有意差(p<0.05)を認め、頸部が伸展位になるほど嚥下困難感が増強する傾向がみられた。【考察】嚥下における表面筋電図測定については各筋の持続時間が評価の指標として有用であるとVimanらが報告しており、加齢とともに嚥下時の持続時間は延長するとしている。またSakumaらの報告では嚥下時の舌骨上筋と舌骨下筋の持続時間と嚥下困難感(Rating Scale)には有意な負の相関があると報告しており、嚥下筋の持続時間の延長は嚥下困難の指標になると考えられている。従来、頸部伸展位は咽頭と気管が直線になり解剖学的位置関係により誤嚥しやすくなると言われており嚥下には不利とされてきた。今回は筋活動において伸展40°で持続時間の延長を認め、自覚的にも嚥下が困難であった。また筋積分値においても有意に高値であったことは努力性の嚥下になっていることが考えられ、頸部伸展位は筋活動の点からも嚥下に不利であることが示唆された。このことより、摂食・嚥下機能障害患者に対して頸部屈曲・伸展の可動域評価及び介入が有用であると考えられた。【理学療法研究としての意義】頸部の屈曲・伸展の位置により嚥下時の筋活動は影響を受けることから摂食・嚥下機能障害のある患者において 頸部可動域評価及び介入の有用性が示唆された。
著者
増田 崇 田平 一行 北村 亨 東村 美枝 鴨川 久美子 吉村 淳
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.308-312, 2008-12-20
参考文献数
13
被引用文献数
3

【目的】本研究の目的は開腹手術後の咳嗽時最大呼気流速(peak cough flow:PCF),肺活量(vital capacity:VC),創部痛の経時的変化とこれらの関係を明らかにすることである。【方法】待機的に開腹手術を行った30症例を対象にPCF,VC,安静時痛,咳嗽時痛を術前および術後13日目まで測定した。PCFはピークフローメーターを,VCはライトレスピロメーターを,疼痛はvisual analog scale (VAS)を用いて測定した。各項目間の関係はPearsonの相関分析を用いた。項目ごとの経時的変化の比較は一元配置分散分析を行い,多重比較はTamhane法を用いた。【結果】術後のPCFは術前値に対し術後1日目に46.4%まで低下し,術後5日目まで有意に低下していた。VCは術後1日目に47.8%まで低下し,術後6日目まで有意に低下した状態が続いた。術前PCFに対する回復率とVCの回復率,安静時・咳嗽時痛との間に有意な相関関係を認めた。またPCFとVCの間にも有意な相関が認められた。【結論】開腹手術患者に対しては,肺活量を上昇するような呼吸練習や痛みを軽減するための咳嗽介助など,周術期における理学療法士の積極的な関与の必要性が示唆された。
著者
武田 広道 山科 吉弘 田平 一行
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.217-222, 2022-04-28 (Released:2022-04-28)
参考文献数
20

【目的】要支援・要介護後期高齢者の咳嗽力と呼吸機能,身体機能の関連を明らかにすること.【方法】要支援・要介護後期高齢者33名を対象とし,咳嗽時最大呼気流量(以下,CPF),肺機能,呼吸筋力,胸郭拡張差,最長発声持続時間,5 m歩行時間,握力,膝関節伸展筋力,片脚立位時間,Timed up & go test(以下,TUG)を測定した.統計解析ではCPFと呼吸・身体機能との相関分析を行った.また,CPFを従属変数,呼吸・身体機能を独立変数として重回帰分析を行った.【結果】CPFと肺活量,吸気筋力,胸郭拡張差,最長発声持続時間,5 m歩行時間,握力,TUGで有意な相関がみられた.重回帰分析では,吸気筋力,胸郭拡張差が有意な関連因子として抽出された.【結論】要支援・要介護後期高齢者の咳嗽力には胸郭可動性,吸気筋力との関連が認められた.
著者
辻村 康彦 秋山 歩夢 平松 哲夫 三川 浩太郎 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】COPD患者が実施する歩行トレーニングを中心とした在宅呼吸リハビリテーションにおいて,歩数計を用いた活動目標設定と歩数の自己管理が,身体活動量に与える影響を検討すること。【方法】対象は,外来呼吸リハを開始するCOPD患者のうち,GOLDIII・IVで,かつm-MRC2以上,CAT10以上,計画された評価を完遂できた6例(男性4例,女性2例,平均年齢75.5±3.9歳,BMI 19.7±3.9kg・m<sup>2</sup>,m-MRCII/III:3/3例,CAT18.5±2.5,%VC75.1±19.2,%FEV<sub>1</sub>40.1±8.5,GOLDIII/IV:5/1例)とした。呼吸リハプログラムは歩行トレーニングを中心として,口すぼめ呼吸などのコンディショニングや筋力トレーニングを在宅中心で12週間継続した。この中で歩行トレーニングは,第1段階として最初の4週間は従来通りの指導(歩行スピードや時間)のみを行い,第2段階として以後8週間は,歩数計を用いた目標歩数の設定と歩数の自己確認を行い,目標に達するように努力を求めた。目標歩数は各評価時点に算出した1日の平均歩数に1000~2000歩プラスとし,患者と相談した上で決定した。歩数計の使用に関しては,呼吸リハ開始前評価時および第1段階は歩数計をパッキングし歩数を確認できないようにした。第2段階では,自己管理として午前1回,午後2回,就寝時の計4回歩数を確認するよう指示した。これら歩数計の使用に関しては,書面を用いて十分に説明を行った。プログラムの実施状況は,来院時や電話を用いて2回/月で確認を行った。検討項目は,1.息切れ問診票,2.生活のひろがり(Life-Space Assessment),3.歩数(ライフコーダー(スズケン))とし,呼吸リハ開始前,リハ後4・8・12週に評価を実施した。さらに開始時およびリハ後12週の変化につき,1.MNAフルバージョン,2.6分間歩行距離にて検討を加えた。解析は2元配置分散分析法および多重比較検定を用いて経時的変化を検討した。【結果】各項目の経時的変化は(開始前/リハ後4/8/12w),息切れ問診票:32.8/28.6/22.5/20.5,生活のひろがり:45.3/55.8/66/77,歩数:1941/2744/3903/4282歩,であり呼吸リハ開始により,全例がすべての項目・評価時点において向上を示し,開始前とリハ後8/12wおよびリハ後4wと12wに統計学的有意差を認めた。さらに,MNAフルバージョン:20/25.2,6分間歩行距離:231/320mと有意な向上を認めた。【結論】歩数計による目標設定や活動量の自己管理が,身体活動性を高めたことから,活動には明確目標を持つことが重要であることが認められた。また,長期的に見た場合,息切れや生活空間だけではなく,運動耐容能や栄養にも効果を与えることが示唆された。さらに,12wで一定の効果を示したことから,歩数計を加えた在宅トレーニングは,単に治療効果を高めるだけではなく,治療効果を得るまでの時間を短縮できる可能性があると思われた。今回の方法は,活動量の少ないCOPD患者にも有効であったことから,幅広い患者に適応できると思われる。ただし,今後症例数を増やし,さらなる検証が必要である。
著者
増田 崇 鴨川 久美子 北村 亨 東村 美枝 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O3073, 2010

【目的】腹部外科手術により、肺活量、咳嗽力などの呼吸機能が低下することが知られている。手術後低下した呼吸機能は徐々に回復し、術後一週間で約80%まで回復することが報告されている。これらのことを踏まえ、当院では術前術後の肺活量、咳嗽力を継続的に評価している。今回、術後肺合併症を起こした症例2例を経験し、肺活量の回復過程で合併症を起こさなかった群と特徴的な違いがみられた。術後肺活量の変化をとらえることで肺合併症の早期発見につながる可能性があるのではないかと考えたので、報告する。<BR>【方法】対象:全身麻酔下で待機的に開腹手術を行い合併症を起こさなかった30症例(男性22例、女性8例、平均年齢73.5±7.4歳)と肺合併症を起こした2症例を対象とした。合併症を起こさなかった群をコントロール群とし、合併症を起こした2症例をコントロール群と比較した。コントロール群の診断名は胃癌13例、S状結腸癌3例、直腸癌3例、上行結腸癌2例、下行結腸癌2例、胆管癌2例、腸閉塞2例、総胆管結石、膵頭部癌、胃癌とS状結腸癌の併発がそれぞれ1例ずつであった。合併症を起こした2症例(86歳女性、76歳男性)はいずれも胃癌で、合併症は肺炎であった。<BR>方法:対象者の手術前後に肺活量(vital capacity:VC )及び咳嗽力の指標として咳嗽時最大呼気流速(cough peak flow:CPF)、安静時痛、咳嗽時痛のvisual analog scale(VAS)を測定した。測定は手術前と手術後1日目から9日目までと13日目に実施し、測定に同意した日のみ行い、疼痛や発熱、倦怠感などの理由で対象者の同意を得られない日は測定を行わなかった。<BR>解析方法:術前・術後のVC、CPF、安静時痛、運動時痛を比較した。<BR>【説明と同意】全症例に対しこの検査の意義・目的を説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR>1)術前値の比較<BR> コントロール群の術前値はVC:2652±738ml、CPF:297±110L /minであった。症例1は術前VC:2200ml、CPF:300 L/min、症例2はVC:3750ml、CPF:350L /minと大きな違いは見られなかった。年齢は平均よりも高齢であった。<BR>2)VC、CPF、疼痛の経過の比較<BR> コントロール群のVC・CPF・疼痛の経時的変化(理学療法学35巻7号,p308~312)は術前値に対するVCの回復率で術後1日目には47.8%まで低下し、9日目で85.5%まで順調に回復した。一方CPF回復率は術後1日目に46.4%まで低下し、9日目で90.5%、13日目では90.7%まで順調に回復した。疼痛は術後1日目に大きく上昇しその後徐々に低下する傾向があった。<BR>症例1:86歳女性、胃部分摘出術施行術後12日目に肺炎と診断。(前日)11日目の理学療法施行時、それまで順調に回復していたVCが低値となっていた(術後8日目1970ml→11日目1260ml)。CPFも術後8日目310L/min→11日目280L/minと若干低下した。翌12日目胸部X-P撮影後肺炎と診断された。<BR>症例2:76歳男性、胃全摘出術施行、術後7日目に肺炎と診断。(前日)6日目理学療法施行時、それまで順調に回復していたVCが低値となっていた(術後5日目2600ml→6日目2200ml)。CPFは術後5日目225L/min→6日目230L/minと大きな変化は見られなかった。翌7日目胸部X-P撮影後肺炎と診断された。疼痛は2症例ともコントロール群と大きな違いは認められなかった。<BR>なお肺炎は医師によりレントゲン所見、発熱、自覚症状などによって診断された。<BR>【考察】今回の2症例は術前の呼吸機能検査では異常値は示しておらず、術前の段階で呼吸器合併症を予測することは困難であった。一方、VC、CPFは、コントロール群の術後のトレンドと比較すると症例1、症例2共に肺炎の診断がつく前にVC回復率が低下する傾向が見られた。特に症例2では発熱の症状が発現する前にVC回復率の低下が確認できた。VCの変化が肺炎の症状の発現とほぼ同時期あるいはそれより前に見られたことから術前から継続して評価を行うことで発症を感知できる可能性が推察される。このVCの低下は、肺炎により一部無気肺を起こししたことなどが原因として考えられた。一方で咳嗽力の指標となるCPFは特徴的な変化を示さず、肺炎を感知するには適さないと考えられた。しかし、症例1、2共に肺炎の発症時には感染時に去痰不全になる可能性があるとされる270 L/minを下回っており、去痰不全を引き起こしていることが伺えることから、CPFの測定は去痰不全のリスクを管理する上では有用な検査であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】本症例報告では、ベッドサイドで比較的簡便な方法で術後の肺合併症を早期に感知できる可能性が示唆された。非侵襲的な検査であり、比較的容易に測定できることから、今後症例を重ね、一定の傾向が確認できれば術後肺合併症を疑う上での指標の一つになるのではないかと考える。
著者
鈴木 裕二 守川 恵助 乾 亮介 芳野 広和 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da0999, 2012

【はじめに、目的】 起立性低血圧は目眩や失神などの症状を引き起こし、日常生活の大きな妨げになる。この対策として下肢弾性ストッキングが有用とされており、血圧低下を軽減することができる。しかし使用すべき圧迫力に一致した見解は得られていない。今回、3種類のストッキングを使用し、起立時の血行動態の変化について比較、検討を行った。【方法】 対象は健常男性20名(年齢24.9±3.2歳)。足首に対してそれぞれ、弱圧(18-21mmHg)、中圧(23-32mmHg)、強圧(34-46mmHg)の圧迫力が加わる3種類の下肢弾性ストッキングを着用した状態と、着用しない状態(Control)の計4条件でそれぞれ起立負荷を行った。起立負荷は安静座位の後、4分間のスクワット姿勢となり、その後に起立を行う方法で行った。この際、非侵襲的連続血圧測定装置(portapres,FMS社)を使用し、SBP:収縮期血圧、DBP:拡張期血圧、SV:一回拍出量、HR:心拍数、CO:心拍出量、TPR:総末梢血管抵抗を測定し、血行動態指標とした。測定時期は安静座位をRest期、起立直前の10秒間のスクワット状態をSquat期、起立後10秒間をSt10期、11秒~20秒間をSt20期、21秒~30秒間をSt30期とした。また3種類のストッキング着用に対する不快感をVAS(Visual Analogue Scale:0=全く不快感を感じない、10=最大の不快感を感じる)にて評価した。統計方法は、各測定時期における4条件間における各血行動態指標及び、VASに対して反復測定分散分析を行い、多重比較にBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、協力していただいた施設の倫理委員会の承認を得ると同時に、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容を説明し、署名によって同意を得た。【結果】 SBPではSquat期からSt10期にかけて、Control(150.9±15.3→112.5±11.4mmHg)、弱圧(153.0±16.5→119.5±14.8mmHg)、中圧(151.4±15.4→115.7±12.7)、強圧(151.9±16.0→120.2±13.8mmHg)とそれぞれ起立により低下がみられた。Squat期では4条件間に有意差はみられなかったが、St10期ではControlに比べて弱圧(p<0.05)と強圧(p<0.01)が有意に高値を示し、弱圧と強圧との間には有意差がみられなかった。このSt10期において、SVでは強圧(83.1±11.8ml)がControl(72.7±10.1ml)に比べて有意に高値を示し(p<0.01)、COでも強圧(7.9±1.2L/min) がControl(7.2±1.1L/min) に比べて有意に高値を示した(p<0.001)。弱圧はSt10においてControlに比べて、SV、HR、CO、TPRを高値に保つことができたが、有意差はみられなかった。VASでは強圧(3.9±0.5)が弱圧(2.4±0.4)、中圧(2.7±0.5)に比べてストッキング着用の不快感がそれぞれ有意に高値であり(p<0.01)、弱圧と中圧の間では有意差はみられなかった。【考察】 St10期に弱圧と強圧がControlに比べてSBPを有意に高値に保つことができたのは、ストッキングの圧迫により、起立時の下肢への血液貯留を軽減でき、SVが上昇し、COを高値に保てたことが大きな要因と考えられる。しかし、弱圧ではSV、COにおいてControlとの間に有意差がみられなかった。しかし、血圧の決定因子である、CO(SV×HR)、TPRのすべてが有意差はないものの、Controlに比べて高値を示していたことから、これらの因子の相乗効果により、SBPを有意に高値に保つことができたと考えられる。VASでは強圧の不快感が有意に高値であった。Rongらは本研究の弱圧レベルのストッキングの使用が最も快適であると報告している。このことから、強圧の過度の下肢への圧迫が被験者の不快感を増大させたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 下肢弾性ストッキング着用の不快感は日常生活の着用において大きな問題となる。今回の研究において起立性低血圧の予防に不快感の少ない弱圧のストッキングが十分に効果的であることが示唆された。これは使用者が快適な日常生活を送る上で大きな意義がある。
著者
乾 亮介 森 清子 中島 敏貴 李 華良 西守 隆 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Db1217, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 摂食・嚥下機能障害患者に対してのリハビリテーションにおいて理学療法は一般的に嚥下に関わる舌骨上筋群の強化や姿勢管理などを担当する。嚥下は頸部の角度や姿勢からの影響を受けることが指摘されており、顎引き姿勢(chin-down)は誤嚥予防に有効であると報告があるが、その効果については不明確である。また頸部角度を変えて嚥下筋の活動を記録した報告はない。その他に嚥下筋に影響を与える要因として、古川は加齢により喉頭位置が下降することで嚥下機能が変化するとしており、これにより嚥下時に必要な喉頭挙上距離は増大し、喉頭が移動するのに必要な所要時間も増加すると報告している。また吉田が開発した喉頭位置の指標において,高齢者や慢性期の脳血管障害患者は舌骨下筋の短縮が喉頭位置を下降させると報告しているがこの舌骨上・下筋群の筋短縮の有無が嚥下に与える影響についても詳細に検討された報告はないのが現状である。そこで今回は頚部角度と舌骨上・下筋群の伸張性が嚥下運動に与える影響について嚥下困難感の指標と表面筋電図を用いて検討したので報告する。【方法】 対象者は健常男性19名(年齢32.5±6.4歳)。端座位姿勢で頸部正中位、屈曲(20°,40°)、伸展(20°,40°)の5条件で5ccの水を嚥下させた。表面筋電図は嚥下筋の舌骨上筋として頸部左側のオトガイ舌骨筋、舌骨下筋として左側の胸骨舌骨筋で記録した。取り込んだ信号は全波整流したのちLow-passフィルター(5Hz)処理を行い、その基線の平均振幅+2SD以上になった波形の最初の点を筋活動開始点、最後の点を筋活動終了点とし、嚥下時の筋活動持続時間(以下持続時間)を計測した。嚥下困難感については表(0=嚥下しにくい 10=嚥下しやすい)を用いて評価した。舌骨上下筋群の伸張性についてはテープメジャーを用いて下顎底全前面中央部から甲状切痕部(舌骨上筋)、甲状切痕部から胸骨上縁正中部(舌骨下筋)の距離を頚部伸展位、正中位でそれぞれ測定し、伸展位と正中位との差を伸張性の指標とした。解析は頚部角度における各筋の持続時間・嚥下困難感について反復測定分散分析を用い多重比較はBonferroni/Dunn法を使用した。舌骨上・下筋群の伸張性と各頚部角度における嚥下困難感、嚥下持続時間との関係についてはそれぞれピアソンの積率相関分析を行い、有意水準はいずれも5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を得た(承認番号H22-25)。また、対象となる被験者すべてに書面にて研究の説明を行い、同意書の署名を頂いた後に実施した。【結果】 持続時間について舌骨上筋で伸展40°、20°が他の角度と比較して有意に延長した(p<0.05)。舌骨下筋は屈曲40°、20°と比較して伸展40°において持続時間が有意に延長した(p<0.05)。嚥下困難感は正中位、伸展20°と伸展40°間に有意差を認め(p<0.05)、伸展40°が最も嚥下困難感が強かった。舌骨上筋の伸張性においては正中位での舌骨上筋の持続時間のみに負の相関(r=-0.45)が認められたが、有意差(p=0.058)は認めなかった。その他の各頚部角度における持続時間、嚥下困難感と舌骨上・下筋の伸張性との間については有意な相関は認めなかった。【考察】 頚部伸展20°、40°で嚥下持続時間が延長した要因については喉頭の移動距離が増大したため持続時間が延長したことが考えられる。また、伸展40°では嚥下の持続時間が延長したことから嚥下時無呼吸時間が増大し、嚥下困難感が増強したと考えられる。舌骨上・下筋群の伸張性と各角度における嚥下困難感や持続時間の関係については有意差を認めなかったことから、健常若年者では舌骨上・下筋群の伸張性は嚥下運動に影響を与えないと思われた。今後は高齢者や脳血管障害患者、誤嚥性肺炎患者など嚥下機能の低下のある者を対象にした研究計画にてさらなる検証が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 過度な頚部伸展位は健常者においても嚥下が困難であることから嚥下機能障害で頚部屈曲可動域が制限されるような症例においては頚部屈伸可動域の評価や介入の重要性が示唆された。しかし、舌骨上下筋群の伸張性と嚥下の持続時間や嚥下困難感には有意差を認めず、臨床において嚥下機能障害のある患者に対する舌骨上・下筋群のストレッチ等は嚥下機能を改善させるとはいえないことが示唆された。
著者
久保 貴嗣 大須賀 章倫 戸田 芙美 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0784, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】熱傷患者の重症度は深度・範囲・年齢で決定される。熱傷の予後予測評価として熱傷の深度,範囲を評価するBurn indexと年齢の和で算出されるPrognostic Burn index(PBI)が使用される。PBI 90の傷病者の死亡率は13%,100では39%と上昇することが知られている。重症熱傷患者に対する理学療法は重症度が上がるほど困難となり,しばしば重症すぎるために行われないこともあり,重症熱傷患者に対する理学療法についてまとめられた報告はない。そこで本研究の目的は高死亡率が予測される患者への理学療法の実施状況及び有効性について検討することである。【方法】2011年4月から2013年3月までに当院,熱傷センターに入院した熱傷患者に理学療法を行った66例を対象とした。PBI9以上(≥90)と90以下(<90)の2群に関して,理学療法の実施率,有効性(ICU滞在日数・入院期間・人工呼吸装着期間・端座位開始までの期間・立位開始までの時間・歩行開始までの期間・退院時のADLおよび肺炎の合併例)につき検討した。なお,退院時のADLはBarthel Indexを用いた。統計解析は名義変数についてはカイ二乗検定を用い,連続変数はMann-Whitney U検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】基本情報は症例数(≥90vs<90:18例vs48例),PBI(≥90vs<90:101.5±10vs 65.3.5±17.9),Burn Index(≥90vs<90:25.5±20.3vs11.0±9),年齢(≥90vs <90:76±15歳vs54±18.5歳)であった。気道熱傷患者(≥90vs<90:8例vs19例),挿管患者(≥90vs<90:11例vs19例),理学療法開始までの期間(≥90vs<90:4.5±6.1日vs4.1±5.6日)であった。PBI,Burn Index,年齢において有意差が認められた。治療成績はICU滞在日数(≥90vs<90:38.5±27.2日vs21.4±21.1日),入院期間(≥90vs<90:90.4±41.9vs47.2±33.3日),人工呼吸器装着期間(≥90vs<90:8.8±7.8日vs9.4±7日),端座位開始までの期間(≥90vs<90:14±9.4日vs10.1±10.5日),立位開始までの期間(≥90vs<90:32.4±23.6日vs12.4±13.5日),歩行開始までの期間(≥90vs<90:41.3±30.7日vs16.8日),退院時のADL(≥90vs<90:65.0±33.8vs85.6±22.2)であった。また,肺炎は(≥90vs<90:3例vs7例),死亡例(≥90vs<90:2例vs0例)であった。ICU滞在日数・入院期間・歩行開始までの期間・退院時のADLに有意差が認められたが,人工呼吸装着期間・理学療法開始・端座位・立位開始までの期間,肺炎の合併例には差を認めなかった。【結論】PBI 90以上は死亡率が高くなるとされるが本検討での死亡例はPBI 120を超えた2例のみであった。この事により重症例でも救命できるケースは多く理学療法介入の必要性が示唆された。また,受傷後から理学療法開始,離床開始,人工呼吸器離脱までの期間において両群に差はなかった事から,超重症熱傷患者においても積極的に理学療法介入が出来,肺炎の発症予防,廃用の予防に貢献できると思われる。
著者
田平 一行 関川 則子 岩城 基 河戸 誠司 関川 清一 川俣 幹雄 大池 貴行
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.59-64, 2007-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19

症状の安定した慢性閉塞性肺疾患患者16名を対象に胸郭モビライゼーションを行い,即時効果について検討した。治療手技は米国Rancho Los Amigos病院で体系化された徒手胸郭伸張法を一部変更して実施し,治療前後の肺機能検査,胸郭拡張差,動脈血酸素飽和度,脈拍数,呼吸困難感を比較した。その結果,治療後に有意に第10肋骨部の胸郭拡張差は増加,心拍数は減少したが,その他の項目には変化を認めなかった。対象者の中から拘束性換気障害を合併した11症例を抽出し検討すると,更に腋窩部,剣状突起部の胸郭拡張差,肺活量,比肺活量でも有意な改善が認められた。これらは胸郭モビライゼーションによって,呼吸筋の柔軟性,関節可動性などが改善することによる効果と考えられた。慢性閉塞性肺疾患患者でも,特に拘束性換気障害をも合併した混合性換気障害の症例が胸郭モビライゼーションの良い適応になると思われた。
著者
鈴木 裕二 守川 恵助 乾 亮介 芳野 広和 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Da0999, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 起立性低血圧は目眩や失神などの症状を引き起こし、日常生活の大きな妨げになる。この対策として下肢弾性ストッキングが有用とされており、血圧低下を軽減することができる。しかし使用すべき圧迫力に一致した見解は得られていない。今回、3種類のストッキングを使用し、起立時の血行動態の変化について比較、検討を行った。【方法】 対象は健常男性20名(年齢24.9±3.2歳)。足首に対してそれぞれ、弱圧(18-21mmHg)、中圧(23-32mmHg)、強圧(34-46mmHg)の圧迫力が加わる3種類の下肢弾性ストッキングを着用した状態と、着用しない状態(Control)の計4条件でそれぞれ起立負荷を行った。起立負荷は安静座位の後、4分間のスクワット姿勢となり、その後に起立を行う方法で行った。この際、非侵襲的連続血圧測定装置(portapres,FMS社)を使用し、SBP:収縮期血圧、DBP:拡張期血圧、SV:一回拍出量、HR:心拍数、CO:心拍出量、TPR:総末梢血管抵抗を測定し、血行動態指標とした。測定時期は安静座位をRest期、起立直前の10秒間のスクワット状態をSquat期、起立後10秒間をSt10期、11秒~20秒間をSt20期、21秒~30秒間をSt30期とした。また3種類のストッキング着用に対する不快感をVAS(Visual Analogue Scale:0=全く不快感を感じない、10=最大の不快感を感じる)にて評価した。統計方法は、各測定時期における4条件間における各血行動態指標及び、VASに対して反復測定分散分析を行い、多重比較にBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、協力していただいた施設の倫理委員会の承認を得ると同時に、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容を説明し、署名によって同意を得た。【結果】 SBPではSquat期からSt10期にかけて、Control(150.9±15.3→112.5±11.4mmHg)、弱圧(153.0±16.5→119.5±14.8mmHg)、中圧(151.4±15.4→115.7±12.7)、強圧(151.9±16.0→120.2±13.8mmHg)とそれぞれ起立により低下がみられた。Squat期では4条件間に有意差はみられなかったが、St10期ではControlに比べて弱圧(p<0.05)と強圧(p<0.01)が有意に高値を示し、弱圧と強圧との間には有意差がみられなかった。このSt10期において、SVでは強圧(83.1±11.8ml)がControl(72.7±10.1ml)に比べて有意に高値を示し(p<0.01)、COでも強圧(7.9±1.2L/min) がControl(7.2±1.1L/min) に比べて有意に高値を示した(p<0.001)。弱圧はSt10においてControlに比べて、SV、HR、CO、TPRを高値に保つことができたが、有意差はみられなかった。VASでは強圧(3.9±0.5)が弱圧(2.4±0.4)、中圧(2.7±0.5)に比べてストッキング着用の不快感がそれぞれ有意に高値であり(p<0.01)、弱圧と中圧の間では有意差はみられなかった。【考察】 St10期に弱圧と強圧がControlに比べてSBPを有意に高値に保つことができたのは、ストッキングの圧迫により、起立時の下肢への血液貯留を軽減でき、SVが上昇し、COを高値に保てたことが大きな要因と考えられる。しかし、弱圧ではSV、COにおいてControlとの間に有意差がみられなかった。しかし、血圧の決定因子である、CO(SV×HR)、TPRのすべてが有意差はないものの、Controlに比べて高値を示していたことから、これらの因子の相乗効果により、SBPを有意に高値に保つことができたと考えられる。VASでは強圧の不快感が有意に高値であった。Rongらは本研究の弱圧レベルのストッキングの使用が最も快適であると報告している。このことから、強圧の過度の下肢への圧迫が被験者の不快感を増大させたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 下肢弾性ストッキング着用の不快感は日常生活の着用において大きな問題となる。今回の研究において起立性低血圧の予防に不快感の少ない弱圧のストッキングが十分に効果的であることが示唆された。これは使用者が快適な日常生活を送る上で大きな意義がある。
著者
田平 一行 原田 鉄也 山本 純志郎 岡田 哲明 前村 優子 山本 みさき
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ae0083-Ae0083, 2012

【はじめに、目的】 運動耐容能の評価として,自転車エルゴメータやトレッドミルを用いた心肺運動負荷試験が行われ,最大酸素摂取量が最も良い指標とされている.これに加えて近年,自転車エルゴメータの漸増負荷試験から得られた最大仕事率(WRpeak)の80%の運動強度での定常負荷試験が実施されている.この試験における運動持続時間(ET)は,薬物や運動療法介入後の効果の反応性が良いとされている.実際の日常生活においても,強い運動よりも長時間運動できることが重要であると思われる.しかしこのETは相対的な運動強度で実施されるため,最大酸素摂取量やWRpeakの影響は受けにくく,影響する因子は明らかになっていない.そこで今回,ramp負荷と定常負荷試験の2種類の運動負荷試験を実施し,ETに影響する因子について検討したので報告する.【方法】 健常男子大学生13名(年齢21.9±0.8歳) を対象に自転車エルゴメータを用いて2種類の運動負荷(ramp負荷,定常負荷)試験を実施した.ペダルの回転数は60回/分を維持させた.その間,呼気ガス分析器(Metamax 3B, Cortex社)を用いて酸素摂取量(VO2),二酸化炭素排出量(VCO2),分時換気量(VE),換気当量(VE/VCO2),死腔換気率(VD/VT)を,組織血液酸素モニター(BOM-L1TRW,オメガウェーブ社)を用いて大腿四頭筋外側広筋部の酸素化ヘモグロビン,脱酸素化ヘモグロビン,総ヘモグロビン(Total Hb),組織酸素飽和度を,非侵襲的血圧測定器(Portapres, FMS社)を用いて収縮期血圧,1回心拍出量,心拍数を測定した.また運動終了時は修正Borg scaleを用いて,呼吸困難感と下肢疲労感を測定した.ramp負荷試験:3分間の安静座位の後,20w/minのramp負荷にて運動を行わせ,症候限界まで実施した.定常負荷試験:3分間の安静座位の後,ramp負荷試験にて得られたWRpeakの80%の運動強度にて症候限界まで運動を行わせた.運動の中止基準は,85%予測最大心拍数,自覚症状,ペダルの回転数が60回/分維持できない場合などとした.解析方法:ramp負荷試験における各指標のpeak値(運動終了直前の30秒間の平均値)とV-slope法により求めた無酸素性作業閾値AT(VO2)および定常負荷試験における運動持続時間(ET)を解析に用いた.統計処理は,ETと各指標との間の関係についてピアソンの積率相関係数を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した.【結果】 ETと死腔換気率との間に有意な負の相関関係が認められた(r=-0.654, p=0.013).有意ではなかったが,ETはAT(VO2)(r=0.562),換気当量(r=-0.429),下肢疲労感(r=-0.368),Total Hb(r=0.393)と関係する傾向が認められた.しかしその他の指標とは関連を認めなかった.【考察】 同じ最大酸素摂取量を持つ者でも,ETは異なり,ETが高い方がより持久性があると考えられる.今回の結果,ETとAT(VO2),骨格筋のTotal Hbとは正の,死腔換気率,換気当量,下肢疲労感とは負の関係が認められた.AT(VO2)との相関は,定常負荷試験の場合は,ramp負荷のWRpeakよりも負荷量が低いことから,より有酸素的なエネルギー代謝の影響を受けるためと考えられた.Total Hbは末梢において十分に血管が拡張しているかを反映していると考えられ,下肢疲労感との負の相関は最大運動時に下肢筋に余裕を残していることが考えられ,ETは下肢筋の有酸素能の影響を受けるものと考えられた.また死腔換気率,換気当量との関係は,肺内でのガス交換の影響を示しており,呼吸パターンや肺内の換気-血流比に影響を受けると考えられた.以上より,骨格筋の有酸素能を高めるトレーニングや呼吸パターンの修正,また静脈還流量を増やすような水中負荷,弾性ストッキングの使用などにより,同じ最大酸素摂取量を持つ対象者であっても運動時間を延長できる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 定常負荷試験におけるETは運動療法の介入効果を反映しやすい指標であるとともに,運動の持久性はADL上も重要な要因である.ETの要因を明らかにすることにより,効果的に持久性を高めるためのトレーニング方法など,運動療法のアプローチの再考につながると考える.
著者
深谷 孝紀 有薗 信一 小川 智也 渡邉 文子 平澤 純 三嶋 卓也 古川 拓朗 谷口 博之 近藤 康博 田平 一行
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2012 (Released:2013-01-10)

【目的】 間質性肺炎患者(IP)の運動耐容能と労作時低酸素血症は、予後予測因子である。また、経皮的酸素飽和度(SpO2)や骨格筋機能が運動耐容能に関連があると報告されている。しかし、IP患者における運動中の骨格筋の酸素消費とSpO2の関連については明らかになっていない。そこで、本研究の目的はIP患者における漸増運動負荷時の外側広筋の骨格筋酸素消費の指標と運動中のSpO2の変化の関連性を検討することである。【方法】 対象は全身状態の安定したIP患者、男性20名(平均年齢:65.9±9.7歳、%VC:94.3±19.8%、%DLCO:67.0±21.9%)とした。自転車エルゴメータを使用し心肺運動負荷試験(CPX)を実施した。CPXは0Wで3分間のwarm upを行った後、10watt/分のramp負荷で症候限界性に実施した。CPX中にSpO2をパルスオキシメータにて測定し、同時に近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy:NIRS)を使用し、外側広筋の組織酸素飽和度(tissue oxygen saturation:StO2)を測定し、骨格筋での酸素消費の指標(SpO2-StO2)を算出した。安静時と最大負荷時のSpO2とStO2を測定し、それぞれ最大負荷時の値から安静時の値を減算したΔSpO2とΔStO2を算出した。安静時と最大負荷時の間でSpO2, StO2, SpO2-StO2の比較と、ΔSpO2とΔStO2の比較を対応のあるt検定を用いて検討した。SpO2とSpO2-StO2の関係をピアソンの相関分析を用いて検討した。【結果】 SpO2は安静時の95.8±1.8%に比べ、最大負荷時は88.7±6.0%に有意に低下した(p<0.05)。StO2は安静時の55.9±5.3%に比べ、最大負荷時は53.0±7.3%に有意に低下した(p<0.05)。安静時と最大負荷時の差であるΔSpO2は-7.1±5.5%であり、ΔStO2は-2.9±4.7%であり、ΔSpO2の方がΔStO2に比べ有意に高値を示した(p<0.05)。安静時のSpO2-StO2は39.8±4.7%で、最大負荷時のSpO2-StO2は35.9±9.7%と両者では差を認めなかった。SpO2とSpO2-StO2の関係では最大負荷時で相関関係を認め(r=0.676, p<0.05)、安静時では相関関係を認めなかった。【考察】 StO2は安静時より最大運動時の方が低値を示したが、低下量はSpO2より小さかった。運動時に肺での酸素を取り込む能力が低下しても、骨格筋での酸素を抜き取る能力が補おうとしたと考えられた。骨格筋での酸素消費を表すSpO2-StO2と最大負荷時のSpO2との間に正の相関関係を認めた。これは運動終了時の労作時低酸素血症の程度が、骨格筋の酸素消費に影響することが示唆された。