著者
中村 健太
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.19-37, 2007

医薬・バイオ分野では,大学や公的研究機関の役割が重要である。本稿前半では,TLO法や日本版バイ・ドール法など公的部門に対して導入されたプロパテント政策が,バイオ特許の価値に如何なる影響を与えたかを検討し,特許を介した産学間技術移転の可能性を探った。分析によれば,これらの政策は,大学研究者が自らを出願人として「重要な」研究成果を特許化するように促してはいない。一方,公的研究機関が出願人である特許については,政策導入以降,その価値を高めつつあることが確認できた。すなわち,公的部門を対象としたプロパテント政策は,公的研究機関の研究者と大学に属する研究者の出願性向に対して,異なる影響を与えていると示唆される。後半では,産学連携が活発に行われている米国の事例を対象として,研究提携契約の特徴を検討した。大学から企業へは排他的ライセンス,或いは,排他的ライセンスを前提としたオプションが企業へ与えられることが多い。研究契約には,権利の帰属や特許化の決定主体,特許の維持管理費用の負担など様々な契約項目が存在する。通常,企業・大学共に個々の事項について,最大限の権利獲得を目指すため,両者の利害は一致せず,機会主義的行動も起こりかねない。しかし,成果の排他的ライセンスを所与とすることで,両者は利害の一致を見るため,個別の契約事項に関する交渉は容易であり,研究提携全体としての取引費用は節約される可能性がある。ただし,リサーチツール問題などで象徴的に語られるように,こうした契約形態による技術移転が常に社会的に望ましい効果を持つとは限らない点は十分に留意する必要がある。

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