著者
テイ・アストラップ
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.1377-1393, 1981

血液循環により生命活動を行なっている生体にとって,止血機構は重要な生命保全の手段であるが,この止血は血液の凝固作用と血液細胞および血管内皮細胞の機能との相互作用によって協調的に行なわれる。例えばいま組織の一部が損傷を受けると,そこからトロボプラスチンが血液中に放出されて凝固がおこり,できたフィブリンがその部位に定着する。茲に周囲の組織から線維芽細胞と毛細血管内皮細胞が伸びてきて,血管の豊富な肉芽組織となる。そして最終的にはこの肉芽組織は上皮や粘膜上皮細胞におき代って瘢痕となり,創傷は治癒することとなる。この際もし炎症反応が加わると,白血球や各種蛋白分解酵素がこの機序に参加してフィブリンの除去が促進されるが,この炎症反応がない場合には,ここで活性化された血液中および組織内の線溶系が,このフィブリンの溶解除去,瘢痕形成に主役を演ずることとなる。<br>もとより血液凝固には血中(および組織内)のフィブリノゲン,トロンビン,トロンボプラスチンが主導的な意味をもつが,その出血ないし組織損傷部位の凝固過程はまた阻害物質によっても大きく影響をうける。そしてそれは線溶についても同様で,これら凝固・線溶およびそれらに対する阻害物質の間には,止血機構という意味からも一定の協調・制御が働いている。<br>出血とは閉鎖血行路から血液が逸脱することであるが,これには大きく分けて3つの型がある。すなわち1) 血友病など凝固因子の欠如による出血,2) 肺における血栓・塞栓症における組織トロンボプラスチン放出による凝固と出血,3) 妊娠および出産時におけるトロンボプラスチン放出の出血性合併症である。<br>凝固あるいは線溶系が活性化されて出血がおこる際,その程度が一定の限度内で制御が効く範囲であれば,やがて止血されるが,この程度がその限度をこえる時は,出血は続き,創傷の治癒は後れる。この最も代表的な例はいわゆるDIC(汎発性血管内凝固)である。この際は凝固がおこってフィブリンが析出すると,線溶活性化物質がその表面に吸着され,プラスミノゲンは活性化され易いリジン型になって容易にプラスミンとなり,これによりフィブリンはとける。しかしこのプラスミンの作用を抑える&alpha;<sub>2</sub>アンチプラスミンがあれば,プラスミンの作用は一層つよくなり,出血は促進される。DICはまた脱フィブリン症候群(defibrination syndrome)ともよばれるが,凝固が一次的に先行し,そのため線溶が二次的におこるという機序は必ずしも全てのDIC例で確められるとは限らず,ことに不顕性(covert) DICの場合は血小板やフィブリノゲンの減少,FDPの増加,プロトロビン時間の延長などが検査で認められなくても,局所的に臓器内血栓ができ,血栓性発作などの臨床症状がおこることがあり,あるいは終始この症状の出ないこともあって,その診断は困難である。治療としては凝固を阻害するためにヘパリンを投与することがいわれているが実際に大量出血中の患者にヘパリンを直ちに注射するのには勇気を要する。この際比較的過量のカルシウムを投与すると凝固が却て遅延することがあるので,試みる価値があろう。<br>循環血中で凝固反応さらに血栓症がおこる際凝固促進物質の証明されることがある。血友病患者で外傷や出血がおこる時にはしばしばこの物質が認められるが,これは内因性機序の一部の活性化によるものであろう。<br>止血機序によっておこるフィブリン沈着などの局所の変化は創傷治癒に重要な影響を与えるが,これは臓器別に,また動物種によって差異がある。臓器や動物種によって凝固・線溶活性物質の量や活性化の機序に著しい相異があるからである。今後この方面の研究にはこれらの事項を十分に脳裏に収めておく必要がある。

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こんな論文どうですか? 止血機構および凝固促進因子と線溶亢進物質による各種臓器組織修復の制御(テイ・アストラップ),1981 https://t.co/fFTN80B4O3 血液循環により生命活動を行なっている生体にとって,止血機構は重要な生命保全…

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