- 著者
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清水 優子
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2006, pp.E1061, 2007
【はじめに】<BR> 発症から約10年経過している脳卒中後の片麻痺患者の訪問リハビリテーションを担当する機会を得た。状態は安定しており、これ以上の能力を向上させることが困難と思われていた症例であり、外来リハビリの内容としては能力維持・家族指導が主であった。しかし、訪問リハビリを開始したことで能力の向上が見られたため、今回ここに報告する。<BR>【症例1】<BR> 69歳男性 平成9年発症 脳内出血左片麻痺<BR> 訪問開始時のADLはほぼ全介助。移動は車椅子介助。トイレはズボンの上げ下げに介助要し、その間立っていることが困難な状態。妻から「もっと立っていられれば」との要望あり。<BR> 訪問介入により立位保持の安定、足サポーター使用にて短距離の歩行可能となる。<BR>【症例2】<BR> 63歳男性 平成9年発症 脳内出血右片麻痺 <BR> 訪問開始時の移動は屋内車椅子自走、屋外は数mのみ4点杖・装具にて介助歩行実施。もっと長い距離を歩行したいとのNeedあり。<BR> 訪問介入により、診察通院時は院内は全て歩行にて移動可能となる。<BR>【考察】<BR> 今回これらの症例の能力向上が見られた背景には、生活に直結したNeedsに即したリハビリが提供できたこと、直面している問題に合わせた環境下で行うことで動作習得が行ないやすかったことなどが考えられる。また、発症から10年という年数に、セラピストの考えが固定化しプラトーを決めてしまっていたことも推測される。<BR> そもそもプラトーとは、心理学者であるブライアントハーターが「練習の階級説」と呼び「技術を習得する際には進歩が止まる"踊り場"があり、どんな場合にも避けて通ることはできない。しかし、この状態は一時的でありその後また伸びる可能性がある」と提唱している。プラトーが出現する原因としては、適切な学習方法の獲得の失敗→課題に対する動機づけの低下→大きな練習単位への移行の困難さ→能力の向上停滞が考えらる。<BR> そのため、セラピストがプラトーを決めてしまい能力向上のために必要な指導を行わないことで、適切な学習方法の獲得の失敗が再度起こり、悪のスパイラルの状態に陥り患者の能力を停滞させていると考えられる。<BR> 今回、訪問リハビリを開始し新たな視点を入れたことで悪のスパイラルを断ち切り、適切な環境下でリハビリを提供できたため、発症から10年たった状態でも能力の改善が見られたのではないかと推測される。<BR>【まとめ】<BR> いかなる時も患者の状態を確認し、常に向上させることを念頭に置き治療に携わる重要性を再認識した。<BR> また、普段我々が個々の状態についてプラトーと客観的に判断する基準は何なのか、いまだ曖昧なことが多い。本来、効果とその限界を明らかにすることは治療学の基本である。しかし、リハビリテーション医療では明らかにされていることは少なく、経験則で話されることが多い。これらのことを、明確にしていくことも今後に課せられた課題である。