著者
藤川 純朗 横井 輝夫 米中 幸代 高田 聖歩
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.B0720-B0720, 2008

【目的】脳血管障害後遺症者や認知症高齢者などでは,体幹や頚部が側屈した状態で食事をしている場面をみることがある。なかでも脳血管障害後遺症者では,体幹の側屈時に頚部の立ち直りがみられる場合とみられない場合がある。臨床経験として頚部の立ち直りがみられる場合には,誤嚥を疑う重要な症状であるむせや咳き込みが少ないと感じていた。そこで本研究では,誤嚥に深く関与する嚥下に要する時間に,体幹と頚部の側屈が与える影響について表面筋電図を用いて検討した。<BR>【方法】被験者は研究の目的と方法を説明し,同意が得られた学生12名(男性5名,女性7名,平均年齢21歳)である。測定の対象筋は,嚥下に伴う随意運動の開始の指標として口輪筋,嚥下反射の開始の指標として舌骨上筋群である。測定したパラメータは嚥下時の口輪筋と舌骨上筋群の活動持続時間,及び口輪筋活動開始から舌骨上筋群活動開始までの間隔である。測定条件は,安楽な椅子座位と体幹30度側屈で頚部の立ち直り有りと無しの3通りである。全ての姿勢で頚部は軽度屈曲位である。体幹側屈・頚部の立ち直り無し条件では,頭部を側屈した体幹の延長線上に保持した。体幹側屈・頚部の立ち直り有り条件では,被験者は前方に置かれた鏡をみて頭部を垂直に戻した。体幹の側屈角度である30度の設定は,ある介護老人保健施設での昼食時,最も側屈が著明であった者の角度である。実際の食事中の体幹の側屈には骨盤傾斜を伴うため,側屈角度の測定は,日本整形外科学会の基準を参考にして,軸心は第5腰椎棘突起,基本軸は第5腰椎棘突起を通る垂線,移動軸は第5腰椎棘突起と第1胸椎棘突起とを結ぶ線とした。被験食品は,中スプーン1杯量である計量された10gの市販のおかゆとした。測定手順は,測定者がディスプレイ上の筋電図の軌跡が安定することを確認した後,静かな声で"はい"の合図を出し,喉頭の挙上で嚥下を確認してディスプレイ上の軌跡が再び安定するまで記録した。測定は5回行い,その平均値を被験者の代表値とした。統計処理は,反復測定による1元配置の分散分析を行い,有意差が認められた場合は,下位検定としてDunnett法を用いた。<BR>【結果】椅子座位条件と体幹側屈・頚部の立ち直り有り条件の間では,3パラメータにおいて有意差は認められなかった。また体幹側屈・頚部の立ち直り無し条件は,椅子座位条件に比べ,口輪筋と舌骨上筋群の活動持続時間に有意な延長が認められ,2筋の活動開始間隔には有意な差は認められなかった。<BR>【考察】嚥下に要する時間は体幹の側屈のみでは延長せず,頚部の立ち直りの有無が深く関連していた。その機序は十分な検討が必要だが,体幹や頚部の側屈がみられる脳血管障害後遺症者などでは,摂食姿勢を整える際,特に頭部の正中位保持に留意する必要がある。

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こんな論文どうですか? 頚部の立ち直りが嚥下動態に及ぼす影響:表面筋電図を用いて(藤川 純朗ほか),2008 https://t.co/wH65tdZjgM

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