著者
押切 洋子 藤沢 美由紀 阿部 泰昌 河田 理絵子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1194, 2011

【目的】ギランバレー症候群(以下GBS)は、一般的に予後良好と言われているが、回復遅延型の症例報告は少なく、回復過程については不明なことが多い。今回、我々は早期より装具を作成し、歩行練習を導入することにより、長期的に回復した症例を経験したので経過に若干の考察を加えて報告する。<BR><BR>【方法】回復遅延型GBSの症例において急性期、回復期、維持期の3年6ヵ月に渡り、身体機能および動作能力の回復経過を評価、情報収集を実施。一症例報告として報告する。<BR><BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言を順守し、本人およびご家族へ本発表の趣旨を説明し同意を得ている。<BR><BR>【結果】症例は現在30歳代男性、エンジニア、他県で独居。現病歴は海外旅行中のX-5病日目より腹痛、痺れ、四肢脱力出現。GBS疑いにて帰国、A病院入院、軸索障害型に属するAMANと診断。四肢体幹筋MMT0~1、基本動作全介助。人工呼吸器管理は約2カ月に至り回復遅延型であった。前医では約6カ月のリハビリテーション実施、予後予測は電動車いす平地自立。X+175病日目当院転院。<入院時理学的所見>MMT体幹2、肩及び肘関節2~3、手関節2、手内筋0、骨盤挙上2、股関節1~2、下腿0。ROM足関節背屈左右0°、SLR右70°左75°、その他の四肢関節も伸張痛伴う中等度~重度の制限を有し、手内筋には著明な筋萎縮を認めた。感覚障害なし。四肢の深部腱反射は消失~減弱。歩行は両側膝装具とAFO装着し、平行棒内1往復3人介助にて開始。m-FIM24/91点。入院時予後予測は自走式車いす平地自立。<発症7カ月経過時>歩行は両側KAFO作製、平行棒内重度介助にて1往復。低負荷の筋力強化でも筋疲労強く認める。<発症8-9カ月経過時>両側KAFO、平行棒内歩行軽度介助、サークル型歩行器使用し軽度~中等度介助にて約50m。m-FIM39/91点。<発症10カ月-1年経過時>両側KAFOとサークル型歩行器使用し軽度介助~監視にて約100m。筋疲労は翌日までの残存が軽減~消失。m-FIM67/91点。<発症1年1カ月経過時>両側KAFOとプラットホーム杖使用し中等度~軽度介助にて約10m。m-FIM70/91点。<1年2カ月経過時>MMT肩及び肘3~4、手関節3、手指2、股関節3~4、膝関節2。実用的移動手段は車いすにて退院。<発症2年5カ月経過時>屋内両側KAFOからAFOへ変更し軽度介助にて約30m。<発症2年8カ月経過時>屋外両側AFO、杖なし軽度介助にて約60m。<発症2年10カ月経過時>屋内装具なし、杖なし軽度介助にて約30m。<3年2カ月経過時>改造車購入し運転自立。<発症3年6カ月経過時>MMT膝関節3、足関節2。杖、装具なし屋内遠位監視にて約60m、屋外近位監視にて約30m。<BR><BR>【考察】回復遅延型GBSは予後不良との報告が多い。筋疲労性の変化については、高い筋疲労性を示した症例でも約3カ月後には筋力の回復と共に正常人と同程度まで改善したとの報告があるが、本症例では回復までに10カ月要し、遅れて回復する可能性もあることが示唆された。歩行については、予後や回復遅延により入院が長期に及び目標が不明瞭となりやすい傾向に対して、本人と話し合い、demandに即した短期目標を2-4週間毎に見直し理学療法プログラム変更。結果的に最も回復を自覚できる手段であり、モチベーション維持と能力向上に繋がった。また、予後としては、入院時予測した目標に留まらず、屋内や短距離屋外の実用的移動手段が歩行に至り、車の運転等も自立し活動範囲拡大に繋げることができた。疾患の回復に応じた能力向上を図る上で、心肺機能低下、重度ROM制限等、廃用の影響は大きな阻害因子となるが、KAFO使用した早期歩行導入は、機能改善や廃用の予防に有用な手段であったと考えられる。軸索障害型に属するAMANは回復に時間を要すことが多いとの報告もあり、本症例からも同様に、長期経過においては緩徐な機能回復を認めることが示唆された。その時点の理学的所見データのみの予後予測ではなく、長期的な変化を見過ごさず、回復の可能性を常に模索しながら、理学療法を実施すること。また、現在も緩徐に能力改善を認めているが、今後加齢と共に現在獲得した動作能力がいつまで維持可能か、維持困難となった時期にどう理学療法を展開していくかを早期より考えていく必要がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】回復遅延型GBSは予後不良との報告もあるが、具体的に獲得可能となった能力や経過の報告は少なく不明な点が多い。重症例における長期経過の報告が、類似症例における長期ゴール設定と理学療法実施の指標の一助として活用できるものであると思われる。

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