著者
山田 裕子 前島 伸一郎 片田 真紀 阿部 泰昌 爲季 周平
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.244-250, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

脳梗塞による右大脳半球損傷で失語症を伴わない口腔顔面失行を呈した症例を報告した。症例は64 歳の右手利きの男性で,左手利きの家族性素因はなかった。神経学的には顔面を含む左片麻痺と左半身の感覚障害を認めた。神経心理学的には,口腔顔面失行,左半側空間無視,注意障害,構成障害を認めた。失語症や観念失行,観念運動失行はなかった。頭部MRI では右中大脳動脈領域の広汎な梗塞巣が認められた。本症例の言語機能は左半球優位に,口腔顔面の随意運動に関する機能は右半球優位に側性化されている可能性が示唆された。一般的に口腔顔面失行は失語症に伴うことが多く,発語に関する半球に密接に関連すると考えられているが,言語と口腔顔面の随意運動に関する神経機構は互いに独立して存在しうるものであると考えられた。また失行の中でも口腔顔面と上肢の行為の神経機構は異なる半球間に側性化されていると考えられた。
著者
岡本 貴幸 爲季 周平 榎 真奈美 藤沢 美由紀 阿部 泰昌
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.B0057, 2006

【はじめに】運動機能は比較的良好であったが、重度記憶障害により能力との乖離を認めた症例を経験した。運動療法に加え記憶を代償するため外的補助具の使用により、活動範囲が拡大した症例についてPTの役割を検討する。<BR><BR>【症例】44歳男性。公務員。(現病歴)頭痛、嘔吐出現。2日後発熱、見当識障害を認め、3日後K病院を受診しヘルペス脳炎と診断。機能障害として左片麻痺、重度記憶障害が残存。8日後ベッドサイドにてPT開始。1ヶ月後ADL能力拡大目的にてOT開始。更なるリハビリテーション目的にて4ヵ月後当院入院。<BR><BR>【評価】(画像所見) CTより右前頭葉、側頭葉、後頭葉にLDAを認め、両側前頭葉、右側頭葉に軽度脳萎縮を認める。(理学所見)随意性はBRS左上肢、手指、下肢とも6。深部感覚は左下肢中等度鈍麻。筋力はMMT右下肢5、左下肢4。姿勢筋緊張は立位、歩行時に左上肢屈筋群、足関節底屈筋群軽度亢進。歩行は屋内T字杖使用100m、非使用で80m可能。(ADL)最小介助だが自発性は無く、促して行ったことも忘れる。排泄はトイレの場所が分からず、しばしば紙オムツ内に排泄する。FIMは運動項目47点、認知項目21点。(神経心理学的所見)記憶は、病前20年程の逆行性健忘と重度の前向性健忘を認める。更に、前向性健忘に由来する日時や場所の見当識障害、近時記憶障害を認める。記憶検査は、RBMT SPS 1/24、SS 0/12、WMS-R言語性記憶73、視覚性記憶 62、一般的記憶66、注意/集中力103、遅延再生50↓。知的機能はWAIS-R VIQ105 PIQ78 FIQ92。遂行機能はBADS総プロフィール得点18、全般的区分平均。<BR><BR>【経過】入院時より歩行練習と並行してサーキットトレーニングを実施するが、指示通り実施不可能。外的補助具としてメモリーノートを導入することで問題解決がある程度可能あり、手続き記憶の残存が示唆される。次の段階では、外的補助具として地図を利用して目的地に行く練習を実施。1ヶ月後、歩行能力はT字杖非使用で屋外歩行200m可能となるが、地図の使用が習慣化せず、一度病室を出ると帰室困難。病室隣のトイレに行くにも迷う。2ヶ月後、遠位監視下で地図を使用して目的地まで間違わず移動が可能となり、4ヶ月後、院内移動が自立。記憶検査は著変なし。FIMは運動項目85点、認知項目27点となる。<BR><BR>【考察】本症例は、重度記憶障害によりPT場面での歩行能力と病棟での活動が乖離していた。手続き記憶が残存していることに着目し外的補助具の使用を検討した。外的補助具の使用が習慣化したことで目的動作へつながり、院内の生活が自立したと考えられる。<BR><BR>【まとめ】PTとして残存している手続き記憶に着目し、移動能力の向上を目的にアプローチ法を検討、実施した。結果、活動範囲は拡大し、院内の生活は自立に至った。<BR>
著者
押切 洋子 藤沢 美由紀 阿部 泰昌 河田 理絵子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1194, 2011

【目的】ギランバレー症候群(以下GBS)は、一般的に予後良好と言われているが、回復遅延型の症例報告は少なく、回復過程については不明なことが多い。今回、我々は早期より装具を作成し、歩行練習を導入することにより、長期的に回復した症例を経験したので経過に若干の考察を加えて報告する。<BR><BR>【方法】回復遅延型GBSの症例において急性期、回復期、維持期の3年6ヵ月に渡り、身体機能および動作能力の回復経過を評価、情報収集を実施。一症例報告として報告する。<BR><BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言を順守し、本人およびご家族へ本発表の趣旨を説明し同意を得ている。<BR><BR>【結果】症例は現在30歳代男性、エンジニア、他県で独居。現病歴は海外旅行中のX-5病日目より腹痛、痺れ、四肢脱力出現。GBS疑いにて帰国、A病院入院、軸索障害型に属するAMANと診断。四肢体幹筋MMT0~1、基本動作全介助。人工呼吸器管理は約2カ月に至り回復遅延型であった。前医では約6カ月のリハビリテーション実施、予後予測は電動車いす平地自立。X+175病日目当院転院。<入院時理学的所見>MMT体幹2、肩及び肘関節2~3、手関節2、手内筋0、骨盤挙上2、股関節1~2、下腿0。ROM足関節背屈左右0°、SLR右70°左75°、その他の四肢関節も伸張痛伴う中等度~重度の制限を有し、手内筋には著明な筋萎縮を認めた。感覚障害なし。四肢の深部腱反射は消失~減弱。歩行は両側膝装具とAFO装着し、平行棒内1往復3人介助にて開始。m-FIM24/91点。入院時予後予測は自走式車いす平地自立。<発症7カ月経過時>歩行は両側KAFO作製、平行棒内重度介助にて1往復。低負荷の筋力強化でも筋疲労強く認める。<発症8-9カ月経過時>両側KAFO、平行棒内歩行軽度介助、サークル型歩行器使用し軽度~中等度介助にて約50m。m-FIM39/91点。<発症10カ月-1年経過時>両側KAFOとサークル型歩行器使用し軽度介助~監視にて約100m。筋疲労は翌日までの残存が軽減~消失。m-FIM67/91点。<発症1年1カ月経過時>両側KAFOとプラットホーム杖使用し中等度~軽度介助にて約10m。m-FIM70/91点。<1年2カ月経過時>MMT肩及び肘3~4、手関節3、手指2、股関節3~4、膝関節2。実用的移動手段は車いすにて退院。<発症2年5カ月経過時>屋内両側KAFOからAFOへ変更し軽度介助にて約30m。<発症2年8カ月経過時>屋外両側AFO、杖なし軽度介助にて約60m。<発症2年10カ月経過時>屋内装具なし、杖なし軽度介助にて約30m。<3年2カ月経過時>改造車購入し運転自立。<発症3年6カ月経過時>MMT膝関節3、足関節2。杖、装具なし屋内遠位監視にて約60m、屋外近位監視にて約30m。<BR><BR>【考察】回復遅延型GBSは予後不良との報告が多い。筋疲労性の変化については、高い筋疲労性を示した症例でも約3カ月後には筋力の回復と共に正常人と同程度まで改善したとの報告があるが、本症例では回復までに10カ月要し、遅れて回復する可能性もあることが示唆された。歩行については、予後や回復遅延により入院が長期に及び目標が不明瞭となりやすい傾向に対して、本人と話し合い、demandに即した短期目標を2-4週間毎に見直し理学療法プログラム変更。結果的に最も回復を自覚できる手段であり、モチベーション維持と能力向上に繋がった。また、予後としては、入院時予測した目標に留まらず、屋内や短距離屋外の実用的移動手段が歩行に至り、車の運転等も自立し活動範囲拡大に繋げることができた。疾患の回復に応じた能力向上を図る上で、心肺機能低下、重度ROM制限等、廃用の影響は大きな阻害因子となるが、KAFO使用した早期歩行導入は、機能改善や廃用の予防に有用な手段であったと考えられる。軸索障害型に属するAMANは回復に時間を要すことが多いとの報告もあり、本症例からも同様に、長期経過においては緩徐な機能回復を認めることが示唆された。その時点の理学的所見データのみの予後予測ではなく、長期的な変化を見過ごさず、回復の可能性を常に模索しながら、理学療法を実施すること。また、現在も緩徐に能力改善を認めているが、今後加齢と共に現在獲得した動作能力がいつまで維持可能か、維持困難となった時期にどう理学療法を展開していくかを早期より考えていく必要がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】回復遅延型GBSは予後不良との報告もあるが、具体的に獲得可能となった能力や経過の報告は少なく不明な点が多い。重症例における長期経過の報告が、類似症例における長期ゴール設定と理学療法実施の指標の一助として活用できるものであると思われる。
著者
押切 洋子 藤沢 美由紀 金谷 博子 佐藤 弘恵 阿部 泰昌
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P2273, 2009

【はじめに】<BR>ギランバレー症侯群(以下GBS)は、筋力低下を示す免疫性末梢神経障害で、回復遅延型では予後不良となる報告が多い.今回我々は回復遅延型GBSに対し、歩行練習によりADLへの効果が得られた一症例を経験したので若干の考察を加えて報告する.なお本発表に際し本症例の同意を得た.<BR>【症例】<BR>20歳代男性.エンジニア.他県で独居.性格は努力家.<BR>【現病歴】<BR>海外旅行中X-5病日目より腹痛、痺れ、四肢脱力出現.GBS疑いにて帰国、K病院入院.四肢体幹筋MMT 0~1、基本動作全介助.人工呼吸器管理は約2カ月間に至り回復遅延型と診断.約6カ月間のリハビリテーション実施.前医での長期予後は電動車いす移動と予測.X+175病日目当院転院.<BR>【入院時理学的所見】<BR>MMT体幹2、肩及び肘関節2~3、手関節以遠0~2、骨盤挙上2、股関節1~2、膝関節以遠0~1.ROMは、SLR右70°左75°、足関節背屈左右0°、その他の四肢関節も伸張痛伴う中~重度の制限を有し、手内筋には著明な筋萎縮を認めた.感覚障害なし.四肢の深部腱反射は消失~減弱.起き上がり中等度介助、長座位移動及びpush up全介助、移乗2人介助.車いす駆動監視(耐久性50m).m-FIM24/91点.<BR>【経過】<BR>当院リハ開始時、両側膝装具とAFO装着し平行棒内1往復3人介助にて歩行.両側KAFO作製し平行棒内にて立位・歩行練習開始.上肢支持は肩関節外旋位、肘関節伸展位にて行い、振り出しは重心移動の介助で可能.入院1カ月目、骨盤挙上MMT3~4と回復し、立位は股関節伸展位にて保持.骨盤挙上による振り出し可能.入院2カ月目、U字型歩行器歩行開始.入院3カ月目、股関節屈曲3となりフットプレートへの足の上げ下ろし自立.push up能力向上し、トイレへの移乗監視.入院5カ月目、内外腹斜筋MMT3へ向上、トイレ及び車への移乗自立.入院6カ月目、車いす上で骨盤挙上による下衣更衣自立.入院8カ月目、プラットホーム杖歩行開始.振り出しは体幹側屈や骨盤挙上伴う股関節屈曲にて可能.m-FIM70/91点.入院9カ月目当院を車いすレベルで退院後、週3回の外来リハ継続.退院4カ月後の現在、自宅内移動は車いすから四つ這いを経て、現在膝歩き.歩行は両側KAFO杖なし約20m監視.<BR>【考察、まとめ】<BR>前医では実用歩行が困難と予測されていた症例であったが、回復に合わせた歩行補助具の選択及び歩行様式の調節を実施.その結果、体幹及び骨盤帯の筋活動が向上し、ADLや応用動作能力の向上に繋がった.実用歩行が困難と予測される症例についても、歩行練習によりモチベーションの維持を図ることは勿論、ADLへの波及効果及び相乗効果を見据えたアプローチが重要であると思われる.GBSにおける追跡調査の報告は少なく長期予後について不明なことも多く、今後も追跡調査を行っていく予定である.
著者
爲季 周平 阿部 泰昌 山田 裕子 林 司央子 種村 純
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.348-355, 2009-09-30 (Released:2010-10-01)
参考文献数
11

Action disorganization syndrome (以下ADS) を呈した脳梁離断症候群の一例を経験し,ADS の出現機序と関連領域について検討した。ADS は日常的生活の順序を多く含む動作において,使用対象の誤り,順序過程の誤り,省略,質的誤り,空間的誤りを示し目的行為が障害される。ADS は目的行為の概念は保たれるが contention scheduling system におけるスキーマの表象が誤ったり省略されたりし,さらにその誤って表象されたスキーマを supervisory attention system によって訂正できない結果,そのまま誤って表象された行為が出現する。本症例は脳梁膝から,左上・中前頭回にかけて損傷されており,過去の報告例では左右どちらか一方,または両側の上・中前頭回が損傷されていた。ADS は左右両側の広範な前頭葉領域内の損傷によって生じる可能性が考えられ,左右の上・中前頭回を結ぶ交連線維の損傷により,脳内における情報の統合障害や錯綜,注意機能や抑制機能の低下が加わることで生じると考えられた。