著者
新村 秀幸 佐藤 優也 北 潔
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2193-CbPI2193, 2011

【目的】<BR> 脛骨大腿関節(以下膝関節)は大腿骨内側の関節面が外側に比べて大きく、蝶番関節という形状特性から屈曲・伸展に加え、内外旋が生じることが知られている。関節内運動についての研究も多く、屈曲90°あるいは120°までの報告が散見できる。しかし、洋式・和式といった文化の違いや趣味活動などによっては120°以上の関節可動域(以下ROM)も必要とされる機能である。国による生活背景の違いから、欧米における報告の多くは膝関節屈曲90°あるいは120°までのものがほとんどであり、150°に至るまでの報告はわずかしか見られない。その中でNakagawaら(2000)は健常若年者20名で脛骨に対する大腿骨の運動を最大屈曲位(164±4°)でMRIから運動学的に分析した。またLiら(2004)は13死体膝に対して、脛骨を移動させ屈曲角度を150°まで増やしながら関節内運動を観察した。これらはいずれも脛骨の内旋が確認されるものの、疾患との関連や可動域制限への影響は述べられていない。そこで膝関節屈曲運動および膝疾患と下腿内旋の関連を明確にするため、変形性膝関節症(以下OA)膝と健常膝で内旋の影響を検討した。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は整形外科外来通院患者41名(79.0±6.6歳)、64肢で、このうちOA膝は50肢、健常膝は14肢であった。OA症例は Kellgren-Lawrence分類II~IIIでIVが1肢であった。強直および膝屈曲90°未満での可動域制限のある症例、または強い炎症を有する症例は除外した。対象者へは日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の測定法(1995)に準じてゴニオメーターで膝関節屈曲ROMを測定した。測定後、対象者をOA膝内旋群(IR群)、OA膝外旋群(ER群)、健常膝外旋群(NER群)に分けて介入を行い、再度屈曲ROMを測定した。測定時はバイアスを防ぐため、アイソフォース GT-300(オージー技研社)を用いて他動運動の強さを一定(1kgf)とした。測定結果から介入前後の平均可動域で、3群の比較検討を行った。介入は屈曲90°から脛骨の内旋または外旋を加えて屈曲させ、痛みを出現させない範囲で運動が止まるまで行った。介入前後の平均可動域の比較にはPaired t-testを、3群間での差の比較にはANOVAを用い、Tukeyの多重比較を行った。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究はヘルシンキ宣言に則って計画され、対象者は本研究の主旨を説明し、同意を得ることのできた者のみとした。また、全対象者は診療の範囲内で行い、測定終了後は内外旋のうち可動域の良い方で終了した。<BR><BR>【結果】<BR> OA膝ROM制限の程度はKellgren-Lawrence分類との関連は認めなかった。膝屈曲ROM(介入前/後)はIR群で129.6±9.1°/137.41±9.4°(p=0.0002)、ER群で134.6±13.8°/131.3±13.3°(p<0.0001)、NIR群では143.2±8.9°/147.1±8.3°(p=0.0002)であり、IR群、NIR群は介入後にROMが有意に増加、ER群は有意に減少した(paired t-test)。ROMの変化量の平均値も3群間それぞれで有意差を認めた(ANOVA ; Tukey's HSD)。<BR><BR>【考察】<BR> IR群・NIR群とも90°以上の屈曲時に下腿を内旋させることで関節可動域の改善を認め、外旋を行ったER群では可動域が低下した。これは今回介入した内旋および外旋の影響であるといえる。Liらは膝屈曲120°で脛骨の内旋が8.1°、150°屈曲で内旋が11.1°起こることを報告しており、これらは本研究から臨床でも十分に活用できるものであることが示唆された。また、外旋させるのみで可動域が悪化することからも、関節内の運動が可動域に与える影響は少なくはないことが容易に推察される。健常膝・OA膝とも下腿内旋で改善したことは、健常とされている膝にも下腿の内旋障害が存在している可能性を示した。改善された膝屈曲ROMの変化量は健常膝に比べOA膝でより著明であり、このことからも元々存在した関節内運動の障害にOAが加わることで、可動域制限をより助長していることが推察される。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> OA患者のROM制限は、整形外科疾患の中でも多く携わる症候の一つである。今回の結果より、下腿内旋が可動域制限の治療として有効であることが示唆された。また、OA膝の可動域制限には病態変化によるものだけでなく、下腿の内旋障害もその一因であったといえる。これらからOAによる可動域制限の治療方法や治療の順序などが新たに確立できる可能性が示される。

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