著者
北 潔
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.5, pp.214-219, 2017 (Released:2017-05-09)
参考文献数
18

2013年12月に西アフリカではじまったエボラ出血熱では1万1,000人以上が死亡し,現在においても特効薬もワクチンもない.また三大感染症として知られているAIDS,結核,マラリアによる死者は世界中で年間300万人を超えている.さらに効果を示していた薬剤に対して耐性を示す病原体の出現はウイルス,細菌から寄生虫にまで及んでいる.そして,人々に深刻な人的,社会的,そして経済的損失を引き起こしている.例えば代表的な熱帯病であるマラリアは熱帯・亜熱帯のアジア地域や,サハラ以南のアフリカの広い地域で流行しており,最近のWHOの報告では,年間2億人以上の人々が新たに感染し,死者は40~50万人にのぼる(World Malaria Report 2016).かつての特効薬であったクロロキンに対する耐性マラリアは世界中に拡散し,最新の治療法であるアルテミシニンと他剤の併用によるartemisinin combination therapy(ACT)に対しても薬剤耐性株が出現している.しかもACTはコストが高いことから新たな治療法の開発が求められている.このような状況の中で2015年10月5日,スウェーデン王立科学アカデミーはノーベル生理学・医学賞を大村智(さとし)北里大学特別栄誉教授,米国ドリュー大学名誉研究員のウイリアム・キャンベル博士および中国中医科学院主席研究員の屠呦呦(と・ゆうゆう)博士に授与すると発表した.その受賞理由は大村博士とキャンベル博士については「線虫によって引き起こされる寄生虫感染症に対する新規な治療法の発見」であり,屠博士は「マラリアに対する新規な治療法の発見」である.すなわち前者は抗フィラリア薬「イベルメクチン」,後者は抗マラリア薬「アルテミシニン」の発見によるものである.イベルメクチンは大村博士が土壌中の放線菌から見出したマクロライド系の化合物であり,アルテミシニンは中国の薬草の一種である青蒿(チンハオ.クソニンジンと呼ばれる)から屠博士等が見出したエンドペルオキシドを持つ化合物であり,いずれも「自然からの贈り物」である.なぜ抗寄生虫薬の発見が受賞対象となったのか? 本稿ではイベルメクチンに代表される我が国からの抗寄生虫薬開発への貢献と筆者らの取り組みを紹介する.
著者
小島 荘明 (1992) 小島 莊明 NOYA Oscar NOYA Belkisy 古田 隆久 松本 直樹 北 潔
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

芽殖孤虫は、無制限ともみえる自己増殖を行ない、人体に寄生した場合最終的には全身諸臓器を侵して宿主を死に至らしめる寄生虫であるが、その生活史や感染経路については未だ明らかでない。そこで、この寄生虫の自然界における宿主を見出すべく、ヴェネズエラにおいて、トカゲ・カエル・フクロネズミなど水辺において捕獲した小動物の寄生虫について検索した。その結果、芽殖孤虫は発見できなかったが、これらの動物から、新種と思われる糸状虫1種、Taenia属条虫3種を見出したほか、回虫類、鞭虫、蟯虫、鉤頭虫などを得た。さらに、感染宿主の免疫応答や免疫変調、感染に対する感受性や病理学的変化の差異について検討するため、各種の純系マウスを用いて感染実験を行なった。虫体を1虫ないし1/3から1/7まで切断し、マウス腹腔内に注入し、経時的に血球算定と抗体産生について検討するとともに、虫体の増殖と病理組織学的反応について検討した。その結果、IgE抗体の産出については、C57BL/6において最も早く感染後18日目から検出され、かつ7週目に最も高いPCA抗体価(1:160)が得られた。虫体の増殖や感染動物の病理学的反応は必ずしも一定せず、また注入した虫体の大きさにも関係なく、早い場合には感染後3週目に腹水の貯留が顕著となり、死亡する個体も出現したが、奇妙なことには、それらから得られた虫体を同系統のマウスに継代しても、同様に激し状を起こすことなく6カ月以上経過する例も存在した。腹水貯留例について剖検すると、腹水は血性、膿性はリンパ性で激しい腹膜炎が起きており、肝表面に白色苔状の付着物が認められ、辺縁部は鈍となり、肝脾の腫脹が認められた。虫体は注入時より成長し、複雑に分岐したり、分裂増殖して個体数が増加していた。断端組織構造は、D.erinaceiのプレロセルコイドに類似していた。
著者
倉持 利明 北 潔
出版者
国立科学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

芽殖孤虫とはヒトの芽殖孤虫症を引き起こす幼条虫に対して与えられた名称であり、Ijima(1905)による発見以来世界から14症例が報告されている。芽殖孤虫および芽殖孤虫症のきわだった特徴は、この幼条虫がヒト体内で無秩序な分芽増殖を起こし、あらゆる臓器組織に侵入することにあり、上記14例のいずれもが死亡例である。芽殖孤虫はこの医学的な重要性にもかかわらず成虫が見出されていないばかりか、自然界における終宿主や中間宿主等の生活史は知られていない。マンソン裂頭条虫は、その幼条虫がヒト体内で様々な程度の幼虫移行を主徴とするマンソン孤虫症を引き起こすことから、古くから芽殖孤虫との類縁性が検討されてきたが、NADH脱水素酵素サブユニットIII遺伝子を解析した最近の研究によれば、芽殖孤虫はマンソン裂頭条虫と近縁ではあるが、同遺伝子の塩基配列は両者で異なることを示した。そこで本研究は芽殖孤虫の種の決定を最終目標に、裂頭条虫科条虫の分子系統解析を行った。はじめに芽殖孤虫、マンソン裂頭条虫、日本海裂頭条虫(裂頭条虫科)シトクロームc酸化酵素サブユニットI遺伝子について配列決定し、円葉目条虫を含めた系統解析を行った。その結果芽殖孤虫はマンソン裂頭条虫との類縁性を示しつつ、擬葉目条虫に含まれることが明らかとなった。続いて野外調査を通して得られた海棲哺乳類由来の海産裂頭条虫6種を解析に加え、芽殖孤虫と一致する配列を持つ種、あるいはより近い類縁性を示す種の検索を試みた。海産裂頭条虫は芽殖孤虫、マンソン裂頭条虫とは異なったクラスターに配置されこの試みは成功しなかったが、この両種と海産裂頭条虫とは早期に分岐したこと、さらに両種間の遺伝的な距離は、他の海産裂頭条虫種間の距離に匹敵もしくはむしろ遠いことが示された。これらは芽殖孤虫が淡水域を起源とする裂頭条虫に由来するものであり、またマンソン裂頭条虫とはおそらく異なる種に含まれることを示唆している。
著者
北 潔
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.140, no.7, pp.887-894, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
25

In developed countries, it is said that “threats of infectious diseases are already thought as things of the past”. However, as you can see in the case of Ebola hemorrhagic fever that occurred in West Africa, this is a big mistake. Among infectious diseases, only smallpox has been successfully eradicated worldwide. In addition to the three major infectious diseases of HIV/AIDS, tuberculosis, and malaria, there is another group called emerging and reemerging infectious diseases. Recently, neglected tropical diseases (NTDs) have been listed as threats by the WHO, as have drug-resistant bacteria. The spread of these pathogens is increasing due to an increase in global travel. Malaria and more than half of the NTDs are parasitic diseases, such as trypanosomiasis and soil-borne helminthiasis. These are caused by parasites, with eukaryotes similar to their host mammals. In the case of these NTDs, protective immune responses induced by differences between a pathogen and host do not work well, and there is no vaccine against parasites. As for drugs developed to treat these diseases, because the properties of enzymes and target receptors are very similar, and effective drugs simultaneously show efficacy against both the disease and the host, severe side effects often occur. Therefore, the search for targets specifically present in parasites, and screening for drugs that inhibit their physiological functions, is extremely important. Here, as an example of the development of antiparasitic drugs, I will introduce a study on malaria.
著者
野本 明男 西山 幸廣 柳 雄介 小柳 義夫 審良 静男 川端 重忠 西山 幸廣 柳 雄介 小柳 義夫 藤田 尚志 川端 重忠 笹川 千尋 光山 正雄 堀口 安彦 小安 重夫 堀井 俊宏 野崎 智義 北 潔 中西 憲司 豊島 久真男 笹月 健彦 永井 義之 永田 恭介 岩本 愛吉 河岡 義裕 審良 静男
出版者
公益財団法人微生物化学研究会
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

平成23年4月開催の日本医学会総会で展示を行う予定であったが、震災の影響で中止となった。しかし、平成23年6月~9月まで下記のサイトにてウェブ展示を行った。「わかろう医学つくろう!健康EXPO2011 ウェブ&体験 博覧会」公式サイトhttp://ex2011.net「わかる」の「8感染症」コーナーにて、感染マトリックスの成果の一つ(川口寧の成果)を紹介した。平成23年12月3日(土)には「感染症研究の未来」とのタイトルで感染マトリックスの成果全体を紹介し、また今後の感染症研究の方向を考えることを目的としたシンポジウムを東京大学鉄門記念講堂にて開催した。シンポジウムは2部から構成され、前半は「感染マトリックス成果報告」として、ウイルス、細菌、寄生虫の各分野から世界に発信された貴重な成果が紹介された。続いて第2部では「感染症の未来」と題して、今後の感染症研究に必要な概念と方向性について、「ワクチン、薬剤耐性、グローバルな視点からの感染症研究」の講演が行われた。参加者は100名を越え、特に感染マトリックス関係者以外の参加者が7割以上であったことは感染症研究に対する他領域の研究者や一般の関心の高さを表わしていると考えられる。アンケートからは「病原体に対する宿主の応答の多様性」、「宿主の防御反応からの病原体の回避機構」、「最先端の生命科学によるワクチンや薬剤開発の現状」に多くの興味が集まったことが判った。国際交流がますます緊密になり、しかもスピードアップする現在、インフルエンザなどをはじめとする「グローバル感染症」に関する研究の重要性に理解と興味を示す聴衆が多かった点は、科学技術立国をめざすわが国の感染症研究に対する期待を表わしているものと考えられる。
著者
北 潔 スリングスビー BT 鹿角 契
出版者
東京大学出版会
雑誌
UP (ISSN:09133291)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.1-4, 2015-07
著者
北 潔
出版者
日本農薬学会
雑誌
Journal of Pesticide Science (ISSN:1348589X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.408-417, 1999-11-20 (Released:2010-08-05)
参考文献数
32
著者
菅野 正也 林 正和 村勢 則郎 網野 比佐子 北 潔
出版者
低温生物工学会
雑誌
低温生物工学会誌 (ISSN:13407902)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.177-180, 2008-12-30 (Released:2017-06-19)
参考文献数
5

For the establishment of successful cryopreservation of Caenorhabditis elegans, freezing survival of the nematode was investigated in the presence of dimethylsulfoxide. When nematodes were cooled to -20 ℃ with the rate of 0.2 ℃/min after ice seeding treatment at -3 ℃, survival rate of the nematode increased with the time of exposure to the DMSO solution before freezing. The rate was above 80% irrespective of the cooling temperature between -20 to -75 ℃. However, the nematodes hardly survived when they were quenched by liquid nitrogen after the pre-freezing at -20 ℃, The rate of freezing survival became higher with the decrease in the pre-freezing temperature before plunging into LN_2. Heating rate also affected freezing survival. Slow heating probably prevented rapid rehydration of the nematode and increased survival rate after thawing.
著者
Simon Croft 北 潔
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.5, pp.220-224, 2017
被引用文献数
1

<p>リーシュマニア症は典型的な「顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases:NTDs)」の一つであり,中南米,アフリカから中近東,ヨーロッパ,アジアそしてインドと世界中に患者が見られる点が特徴である.単細胞の寄生虫で鞭毛虫類に属するリーシュマニア<i>Leishmania</i>によって発症し,サシチョウバエによって媒介される.宿主哺乳類の中ではマクロファージに寄生していることからワクチンによる予防や治療は困難であり,薬剤による治療が中心となっている.しかし治療薬の現状は,長期の投与や激しい副作用など満足できる状態ではない.そこで,薬剤開発と治療デザインを考えるにあたっては,リーシュマニア症の特徴である多様な症状と病原体の原虫としての多様性を理解することが必須である.リーシュマニア症は2つに大別され,皮膚リーシュマニア(cutaneous leishmania:CL)においては主に感染がサシチョウバエに刺された部位に成立するが,<i>Leishmania donovani</i>や<i>L. infantum</i>などによる内蔵リーシュマニア(visceral leishmania:VL)では肝臓や脾臓,骨髄のマクロファージに感染し,治療しなければ死をもたらす.このような問題を解決するには安価で投与しやすく効果的で,しかも小児への投与を含む短期間投与が可能な新規薬剤の開発が喫緊の課題である.VLとCL両者のリーシュマニア症の新しい治療法の開発は不可欠であり,われわれはこの原虫に関する生物学,病理学,医薬品化学,薬物動態学や製剤学などを統合して新薬の開発と新たな治療法の確立をめざしている.近い将来にリーシュマニア患者に新しい治療法が提供されることを確実にするためには製薬企業,政府や非営利組織を含む国際機関,バイオテクノロジーセクターおよびアカデミアのパートナーシップと弛まぬ努力が必要である.</p>
著者
新村 秀幸 佐藤 優也 北 潔
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2193-CbPI2193, 2011

【目的】<BR> 脛骨大腿関節(以下膝関節)は大腿骨内側の関節面が外側に比べて大きく、蝶番関節という形状特性から屈曲・伸展に加え、内外旋が生じることが知られている。関節内運動についての研究も多く、屈曲90°あるいは120°までの報告が散見できる。しかし、洋式・和式といった文化の違いや趣味活動などによっては120°以上の関節可動域(以下ROM)も必要とされる機能である。国による生活背景の違いから、欧米における報告の多くは膝関節屈曲90°あるいは120°までのものがほとんどであり、150°に至るまでの報告はわずかしか見られない。その中でNakagawaら(2000)は健常若年者20名で脛骨に対する大腿骨の運動を最大屈曲位(164±4°)でMRIから運動学的に分析した。またLiら(2004)は13死体膝に対して、脛骨を移動させ屈曲角度を150°まで増やしながら関節内運動を観察した。これらはいずれも脛骨の内旋が確認されるものの、疾患との関連や可動域制限への影響は述べられていない。そこで膝関節屈曲運動および膝疾患と下腿内旋の関連を明確にするため、変形性膝関節症(以下OA)膝と健常膝で内旋の影響を検討した。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は整形外科外来通院患者41名(79.0±6.6歳)、64肢で、このうちOA膝は50肢、健常膝は14肢であった。OA症例は Kellgren-Lawrence分類II~IIIでIVが1肢であった。強直および膝屈曲90°未満での可動域制限のある症例、または強い炎症を有する症例は除外した。対象者へは日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の測定法(1995)に準じてゴニオメーターで膝関節屈曲ROMを測定した。測定後、対象者をOA膝内旋群(IR群)、OA膝外旋群(ER群)、健常膝外旋群(NER群)に分けて介入を行い、再度屈曲ROMを測定した。測定時はバイアスを防ぐため、アイソフォース GT-300(オージー技研社)を用いて他動運動の強さを一定(1kgf)とした。測定結果から介入前後の平均可動域で、3群の比較検討を行った。介入は屈曲90°から脛骨の内旋または外旋を加えて屈曲させ、痛みを出現させない範囲で運動が止まるまで行った。介入前後の平均可動域の比較にはPaired t-testを、3群間での差の比較にはANOVAを用い、Tukeyの多重比較を行った。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究はヘルシンキ宣言に則って計画され、対象者は本研究の主旨を説明し、同意を得ることのできた者のみとした。また、全対象者は診療の範囲内で行い、測定終了後は内外旋のうち可動域の良い方で終了した。<BR><BR>【結果】<BR> OA膝ROM制限の程度はKellgren-Lawrence分類との関連は認めなかった。膝屈曲ROM(介入前/後)はIR群で129.6±9.1°/137.41±9.4°(p=0.0002)、ER群で134.6±13.8°/131.3±13.3°(p<0.0001)、NIR群では143.2±8.9°/147.1±8.3°(p=0.0002)であり、IR群、NIR群は介入後にROMが有意に増加、ER群は有意に減少した(paired t-test)。ROMの変化量の平均値も3群間それぞれで有意差を認めた(ANOVA ; Tukey's HSD)。<BR><BR>【考察】<BR> IR群・NIR群とも90°以上の屈曲時に下腿を内旋させることで関節可動域の改善を認め、外旋を行ったER群では可動域が低下した。これは今回介入した内旋および外旋の影響であるといえる。Liらは膝屈曲120°で脛骨の内旋が8.1°、150°屈曲で内旋が11.1°起こることを報告しており、これらは本研究から臨床でも十分に活用できるものであることが示唆された。また、外旋させるのみで可動域が悪化することからも、関節内の運動が可動域に与える影響は少なくはないことが容易に推察される。健常膝・OA膝とも下腿内旋で改善したことは、健常とされている膝にも下腿の内旋障害が存在している可能性を示した。改善された膝屈曲ROMの変化量は健常膝に比べOA膝でより著明であり、このことからも元々存在した関節内運動の障害にOAが加わることで、可動域制限をより助長していることが推察される。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> OA患者のROM制限は、整形外科疾患の中でも多く携わる症候の一つである。今回の結果より、下腿内旋が可動域制限の治療として有効であることが示唆された。また、OA膝の可動域制限には病態変化によるものだけでなく、下腿の内旋障害もその一因であったといえる。これらからOAによる可動域制限の治療方法や治療の順序などが新たに確立できる可能性が示される。
著者
北 潔 稲岡 健ダニエル 原田 繁春 斎本 博之
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は寄生虫のエネルギー代謝系酵素群が極めて特殊な性質を持ち、宿主中での寄生適応に重要な役割を果している事を明らかにして来た。シアン耐性酸化酵素(Trypanosome alternative oxidase)は宿主の血流中に生息するアフリカトリパノソーマの増殖に必要不可欠であり、薬剤標的として有望な酵素である。そこで我々が見出した特異的阻害剤アスコフラノンに着目し、化学の領域から生命現象を捉え、その応用を視野に入れたケミカルバイオロジーの観点により酵素の特徴、阻害剤との相互作用、そしてアスコフラノンの生合成経路を明らかにした。
著者
林 正和 網野 比佐子 北 潔 村勢 則郎
出版者
低温生物工学会
雑誌
低温生物工学会誌 (ISSN:13407902)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.87-90, 2011-04-15
参考文献数
8
被引用文献数
1

Cryopreservation of the nematode Caenorhabditis elegans in the adult stage is of importance as the nematode is a powerful model organism. In this study, we applied the protocol previously established for cryopreservation of the L4 nematode to the adult one. Survival rate of 84% was obtained as a result. When ice nucleation active bacteria, Pseudomonas syringae, was used for the simplification of ice seeding procedure instead of the use of a pre-cooled needle, survival rate of 82% was obtained after thawing. Moreover, a simple method of cryopreservation using a deep freezer and polystyrene foam was developed for a practical purpose. According to the observation under a cryomicroscope, eggs in the nematode body were found to freeze at ca. -20℃ when cooled at the rate of 0.2℃/min after ice seeding at -3℃ although the nematode body remained unfrozen down to -100℃.
著者
北 潔 原田 繁春 三芳 秀人 渡邊 洋一 網野 比佐子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

我々は回虫などの寄生虫と宿主であるヒトのミトコンドリアを用いて酸素適応機構の解明を目的として研究を進めている。その結果、寄生虫ミトコンドリアにおいて多様な嫌気的呼吸鎖が機能している事が判って来たが、中でも回虫で見い出したNADH-フマル酸還元系は多くの寄生虫に存在し、宿主体内の環境で中心的な役割を果している事が明らかになった。この系は複合体I(NADH-ユビキノン還元酵素)、ロドキノンおよび複合体II(ロドキノール-フマル酸還元酵素:RQFR)の3成分から構成され、NADHから最終電子受容体であるフマル酸への電子伝達を触媒している。その生理的意義は嫌気的グルコース分解系の最終ステップとして、無酸素下でも複合体Iの共役部位を駆動する事によりATPを合成できる点にある。そこで本研究ではNADH-フマル酸還元系の分子構築とその生理機能の特徴を明らかにする目的で研究を行っている。本年度は回虫ミトコンドリアを用い、以下の結果を得た。1)複合体I(NADH-ユビキノン還元酵素)および複合体II(RQFR)の分子構築と電子伝達機能に関しては、複合体Iの精製を目的として可溶化条件とこれに続くカラムクロマトグラフィーの条件を検討し、最適な界面活性剤を見い出した。また複合体IIに関してはその結晶化を試み、再現性の良い結晶化条件を見い出した。この条件で得られた結晶は3Åを切る解像度を与え、その解析からFAD、〓-イオウクラスター、ヘムの補欠分子族の位置関係を決定する事ができた。これらの分子間の距離と配置はそれぞれロドキノールからフマル酸への複合体内での電子伝達を可能にするものであった。2)ロドキノンおよびユビキノンの生合成機構と生理的役割に関しては、水酸化を触媒するCLK-1について調べる目的で組み換えタンパク質を合成し、抗体を作成中である。3)生活環における呼吸酵素群の発現制御機構に関しては、ウサギを用いて感染後の第三期幼虫ミトコンドリアの呼吸鎖の変動を調べる系を確立した。