著者
中村 睦美 水上 昌文
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2287-CbPI2287, 2011

【目的】固有感覚は身体の空間での位置や運動に関連している。この受容器は筋や腱、皮膚、関節包、靭帯など関節および関節周囲に多く分布し、身体の運動を制御し、関節を安定させ筋を協調的に働かせるために重要である。この固有感覚の代表的なものの1つである関節位置覚には筋紡錘が最も重要な機能を果たしているとされているが、関節周囲筋の伸張状態を変化させた際、関節構成体の内側と外側では筋の伸張状態は不均衡となり、筋紡錘からの情報に混乱を生ずることで関節位置覚の低下を来すのではないかと推測される。しかし、実際に関節周囲筋の伸張状態の違いが関節位置覚に及ぼす影響については明らかになっていない。そこで今回、関節周囲筋の伸張状態を変化させた際の関節位置覚への影響について検討した。他動的な操作を加えることによる触圧覚の影響を最小限にするため、自動運動による前腕回内外運動が可能な肘関節にて屈曲伸展方向の位置覚について検討した。本研究の目的は関節周囲筋の伸張状態の違いが関節位置覚に及ぼす影響を、前腕肢位を変化させた際の肘関節屈曲伸展方向への位置覚模倣能力から検討し明らかにすることである。<BR>【方法】対象は健常成人9名(平均年齢31.6±6.7歳)であり、肘関節疾患の既往のない17肘を対象とした。対象者は全員右が利き手であった。測定肢位は椅子坐位で両上腕はテーブル上に肩関節90度屈曲位、内外転中間位、内外旋中間位とした。関節位置覚の測定は田崎らの方法を用いた。検査側の前腕の肢位は90度回内位、回内外中間位、90度回外位の3条件として肘関節屈曲60度で固定し、その関節位置覚を認知させた。次に反対側上肢は前腕90度回外位で肘関節屈曲角度を検査側に応じて模倣させた。測定中は閉眼とし、検者は肘関節屈曲時に肩関節の運動が伴っていないことを確認した。対象者の模倣した角度は、デジタルカメラで橈骨茎状突起のマーカーの動きを記録し紙面上にて分度器を用い1度単位で読み取った。各肢位における測定は3回施行し、設定角度(60度)から計測値を除した絶対値(絶対誤差値)を算出し平均値と標準偏差で表した。統計学的検定はPASW.ver18.0にて、3肢位の比較にFriedman検定及び Wilcoxonの符号付き順位検定を用い有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】対象者には事前に研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。<BR>【結果】各肢位における絶対誤差値の平均値±標準偏差は回内位4.7±3.8度、中間位5.3±3.7度、回外位4.4±3.4度であり有意差はみられなかった。<BR>【考察】関節周囲筋の伸張状態を変化させた際の関節位置覚への影響を明らかにするために、前腕の肢位を変化させて肘関節屈曲伸展方向への位置覚の測定を行った。前腕回内位では、肘関節外側構成体が伸張され回内位を保持するために円回内筋や方形回内筋の活動を要し、回外位では内側構成体が伸張され回外位を保持するために上腕二頭筋や回外筋の活動を要すことから、回内外中間位と比較して多くの情報を得ることができるため、回内位と回外位では中間位と比較して関節位置覚の感度が高くなると考えた。結果は、ある程度そのような傾向が示されたが、有意差を認めるには至らなかった。今回は健常肘を対象としており、前腕の回内、回外、回内外中間位は日常生活で頻繁にとる肢位であるため、どの肢位においても肘関節位置覚の感度は保たれ、前腕肢位の違いは肘関節位置覚に大きく関与しない可能性が示唆された。木山らは、関節位置覚の模倣角度が±10度以上の誤差でないと異常とは言い難いと報告しているため、今回の肘関節位置覚の模倣角度は正常範囲内であると考えられる。今後は、さらに対象者を増やし、関節位置覚の感度に影響を与えるとされている模倣速度の設定や、他動での模倣などを考慮に入れ、再度本研究結果の妥当性を検証するとともに、肘関節以外の関節ではどのような結果が得られるのか検討していくことが、関節位置覚への臨床アプローチ上、重要な課題と考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】健常肘を対象とした場合、肘関節位置覚に前腕回内外の肢位の違いは大きく影響を及ぼさない可能性が示された。関節位置覚の特性を理解することは、臨床での関節位置覚の客観的評価を可能とする上で有益な基礎的情報になると考える。

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