著者
笹川 徹 長谷川 恭一 山元 佐和子 吉田 博子 青木 雅裕 山形 沙穂 中村 睦美
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF1005, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】Timed “up and go” test(以下TUG)は、主に高齢者の歩行、バランス機能を評価する指標であり、日常生活活動(以下ADL)の低下や転倒の危険の度合いを知ることができる検査である。TUGはリハビリの効果判定に広く使用されており、判定基準の研究も多数報告されている。しかし、TUGで規定されている椅子条件は、背もたれおよび肘掛け付の椅子であり、臨床においては、この条件に合う椅子を用意することは困難であることが多い。また、肘掛けの有無による検討はされているが、背もたれの有無による検討はまだされていない。本研究の目的は、このTUGに用いられる椅子の背もたれおよび肘掛けの有無により、結果にどのような相違があるかの検討を行い、TUGで用いられている椅子以外でも容易に本検査が行える可能性を検討する。【方法】対象は、60歳以上の杖歩行可能な男性21名、女性29名の計50名(健常者4名、内部疾患7名、運動器疾患31名、脳血管疾患8名)とした。とした。対象の年齢・身長・体重の平均値(標準偏差)は、74.4(6.6)歳、身長155.6(8.8)cm、体重56.5(12.1)kgであった。開始坐位は、背もたれおよび肘掛けの使用有無で4条件とし、各々の実施順番は無作為とした。TUGは、座面高44cmの背もたれおよび肘掛け付椅子を使用した。背もたれを使用する場合は背もたれに寄りかかり、使用しない場合は体幹前後傾の無い状態で行うこととした。肘掛けを使用する場合は肘掛けに両上肢を乗せ、使用しない場合は両手を膝の上に置いた状態で行った。杖使用の場合は、どちらの条件でも杖使用側のみ杖を床についた状態で行うこととした。被験者は、検者の合図で立ち上がり、前進し、3m先の目印の所で方向転換し、元の椅子に戻って腰掛けることとした。被験者にこの課題動作を説明し、やり方が十分理解されたことを確認してから実施に移った。検者は、これらの一連の動作に要する時間を計測した。歩行速度は、結果の変動を少なくするため、“転ばない程度でできるだけ早く”と指示した。統計解析は各分析項目についてPASW(VER.18)を用いて一元配置分散分析を有意水準5%で実施した。【説明と同意】本研究に先立ち、対象者に対し、研究の目的・方法・予測される危険等について説明を行い、書面による同意を得た。【結果】椅子各条件でのTUG結果の平均値(標準偏差)は、背もたれあり・肘掛けありで15.36(7.72)秒、背もたれなし・肘掛けありで15.43(7.66)秒、背もたれなし・肘掛けなしで15.86(8.77)秒、背もたれあり・肘掛けなしで16.25(9.37)秒だった。一元配置分散分析の結果、椅子4条件のTUG結果に有意差は無かった。【考察】今回の実験では椅子各条件でのTUG結果に有意な差は見られなかった。この結果は、背もたれおよび肘掛けの有無において差が出ない可能性があることを示唆し、本検査が背もたれおよび肘掛けの有無に関係なく行える可能性があることを意味する。肘掛けの有無については、Siggeirsdottirらの肘掛けの有無による検討結果である肘掛けのない椅子は肘掛け付の椅子よりも有意に立ち上がりにくいと報告している結果に反する。この要因として、条件を統一しても上肢に疾患があり肘掛けを使用できないものや、杖使用者では、肘掛け使用条件でもほとんど肘掛けに頼らず立ち上がることが影響したと考えられる。松本らは、膝押し群、座面押し群、肘掛け押し群で比較した結果、膝押し群と座面押し群および肘掛け押し群に有意差が認められ、座面押し群と肘掛け押し郡には有意差は認められなかったと報告し、上肢使用に対して具体的な教示をすることが必要であるとしている。また、Siggeirsdottirらは高さ46cmの椅子よりも42cmの椅子はTUG結果が有意に遅いと報告している。差が見られなかった他の要因としては、身長や下腿長の差による開始時の足底接地の有無等も影響していることが考えられる。これらの原因により、立ち上がり方に多様性があることが影響していることが考えられる。今後は、更にサンプル数を多くし、疾患別による検討や下腿長や座面高および杖使用による影響を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】椅子各条件で有意差が無いという結果は、背もたれの無い椅子でも、TUG結果に影響はせず、多数検討されている判定基準を用いることが可能である可能性があることを示唆する。これにより、臨床において、背もたれの無い椅子でもTUGを行うことができ、歩行の自立や転倒リスク予測を行うことができる。
著者
山田 卓也 福田 吉治 佐藤 慎一郎 丸尾 和司 中村 睦美 根本 裕太 武田 典子 澤田 亨 北畠 義典 荒尾 孝
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.331-338, 2021-05-15 (Released:2021-06-03)
参考文献数
29

目的 本研究の目的は,地域在住自立高齢者に対する膝痛改善教室(教室)が医療費の推移へ与える効果を検討することであった。方法 2015年1月から2月の間に山梨県都留市A地区在住の自立高齢者を対象に非ランダム化比較試験として4週間の教室を実施した。本研究の分析対象者は,教室の介入群で教室のすべての回と最終評価に参加した28人と,教室の非介入群で再調査にも回答のあった70人のうち,死亡・転出者と対象期間に社会保険に加入していた者を除外し,医療費データの利用に同意が得られた49人(介入群20人,非介入群29人)とした。医療費データは,2014年1月から2018年12月の傷病名に関節症のコードを含む医科入院外レセプトとそれに関連する調剤レセプトの合計を用いた。教室開催前の2014年を基準とする2015年から2018年までの各年の医療費の変化量を算出し,その間の医療費の推移に及ぼす介入の効果を線形混合効果モデルで分析した。結果 医療費の変化量の推移に対する教室の効果(調整平均値の群間差:介入群−非介入群)は,対象全期間を通じて有意差は認められなかった(全期間−5.6千円/人,95%CI:−39.2-28.0)。各年では,2015年9.3千円/人(95%CI:−39.6-58.3),2016年−2.0千円/人(95%CI:−44.4-40.5),2017年−10.3千円/人(95%CI:−42.5-21.9),2018年8.2千円/人(95%CI:−39.1-55.4)であり,介入による有意な医療費抑制効果は確認されなかった。結論 今後は介入プログラムや対象人数を増やすなどの改善を行ったうえで,引き続き検証する必要がある。
著者
冨永 千代子 中村 睦美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3P3207, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】座位姿勢時の座圧では、座面・背もたれ角度やクッションの有無に着目した報告は多く見られるが、足台やレッグレスト角度に着目した報告は少ない.本研究の目的は、足台の高さやレッグレスト角度の違いによる座圧の変化について検討する事である.【方法】対象は健常成人21名(男性7名、女性14名)で、平均年齢33.4±9.2歳、平均身長163.2±8.5cm、平均体重59.1±11.4kgであった.対象者には研究内容について説明を行い文書にて同意を得た.方法は、簡易体圧測定器(ケープ社製セロ)を使用し、左右坐骨への座圧を各3回ずつ計測し最大値を採用した.対象者は治療台に端座位となり胸の前で上肢を組み、1)股・膝関節90度となる高さの足台使用時、2)1)より高い足台使用時、3)足台無しで足底面離床の3条件で計測を行った.また、リクライニング車椅子に深く腰掛け、座面に対するレッグレストの角度を0°、15°、30°、45°、60°、90°と変化させ計測した.統計は、各条件間における座圧の比較に分散分析を用い、体重と座圧の関係にはピアソンの積率相関係数を求めた.有意水準は5%未満とした.【結果】足台の条件を変化させた際、座圧の平均値は1)95.6±29.5mmHg、2)138.9±29.2mmHg、3)81.9±21.1mmHgで、足台なしの条件で最も低値を示し、各条件間で有意差がみられた.レッグレスト角度による座圧の変化は、レッグレスト角度が大きくなると座圧は小さくなる傾向を示し、0°で73.66±23.5mmHg、15°で68.78±21.4mmHg、30°で67.26±19.4mmHg、45°で64.69±18.7mmHg、60°で64.08±13.4mmHg、90°で63.95±15.2mmHgとなり、0°と30°、0°と45°、0°と60°、0°と90°の間に有意差がみられた.各条件において体重と座圧に相関関係は見られなかった.【考察】車椅子座位において股・膝関節90度での座位は最も良肢位と言われ、推奨されている.そのため我々は、股・膝関節が90度となる様に高さを調節した足台を使用した際に最も座圧が低いと予想したが、実際は足台無しで足底面離床時に最も低値を示した.これは足底面が離床する事で下腿が下垂し、大腿遠位部後面の接触面積が増大し、坐骨部への圧が分散された為と考えられる.またレッグレスト角度による座圧の違いは、レッグレスト角度が大きいと座圧は小さくなる傾向を示し、90度で最も低値を示した.レッグレスト角度が大きくなると、下腿が下垂し、大腿遠位部後面の接触面積が増大し、坐骨部への圧が分散された為と考えられる.本研究では坐骨部へかかる圧力に着目し健常成人での検討を行ったが、高齢者を対象とした場合、車椅子の座位姿勢は下肢の循環状態や浮腫なども考慮に入れる必要がある.今後は実際に車椅子を利用する高齢者を対象としさらに検討を続けたい.
著者
中村 睦美 水上 昌文
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2287-CbPI2287, 2011

【目的】固有感覚は身体の空間での位置や運動に関連している。この受容器は筋や腱、皮膚、関節包、靭帯など関節および関節周囲に多く分布し、身体の運動を制御し、関節を安定させ筋を協調的に働かせるために重要である。この固有感覚の代表的なものの1つである関節位置覚には筋紡錘が最も重要な機能を果たしているとされているが、関節周囲筋の伸張状態を変化させた際、関節構成体の内側と外側では筋の伸張状態は不均衡となり、筋紡錘からの情報に混乱を生ずることで関節位置覚の低下を来すのではないかと推測される。しかし、実際に関節周囲筋の伸張状態の違いが関節位置覚に及ぼす影響については明らかになっていない。そこで今回、関節周囲筋の伸張状態を変化させた際の関節位置覚への影響について検討した。他動的な操作を加えることによる触圧覚の影響を最小限にするため、自動運動による前腕回内外運動が可能な肘関節にて屈曲伸展方向の位置覚について検討した。本研究の目的は関節周囲筋の伸張状態の違いが関節位置覚に及ぼす影響を、前腕肢位を変化させた際の肘関節屈曲伸展方向への位置覚模倣能力から検討し明らかにすることである。<BR>【方法】対象は健常成人9名(平均年齢31.6±6.7歳)であり、肘関節疾患の既往のない17肘を対象とした。対象者は全員右が利き手であった。測定肢位は椅子坐位で両上腕はテーブル上に肩関節90度屈曲位、内外転中間位、内外旋中間位とした。関節位置覚の測定は田崎らの方法を用いた。検査側の前腕の肢位は90度回内位、回内外中間位、90度回外位の3条件として肘関節屈曲60度で固定し、その関節位置覚を認知させた。次に反対側上肢は前腕90度回外位で肘関節屈曲角度を検査側に応じて模倣させた。測定中は閉眼とし、検者は肘関節屈曲時に肩関節の運動が伴っていないことを確認した。対象者の模倣した角度は、デジタルカメラで橈骨茎状突起のマーカーの動きを記録し紙面上にて分度器を用い1度単位で読み取った。各肢位における測定は3回施行し、設定角度(60度)から計測値を除した絶対値(絶対誤差値)を算出し平均値と標準偏差で表した。統計学的検定はPASW.ver18.0にて、3肢位の比較にFriedman検定及び Wilcoxonの符号付き順位検定を用い有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】対象者には事前に研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。<BR>【結果】各肢位における絶対誤差値の平均値±標準偏差は回内位4.7±3.8度、中間位5.3±3.7度、回外位4.4±3.4度であり有意差はみられなかった。<BR>【考察】関節周囲筋の伸張状態を変化させた際の関節位置覚への影響を明らかにするために、前腕の肢位を変化させて肘関節屈曲伸展方向への位置覚の測定を行った。前腕回内位では、肘関節外側構成体が伸張され回内位を保持するために円回内筋や方形回内筋の活動を要し、回外位では内側構成体が伸張され回外位を保持するために上腕二頭筋や回外筋の活動を要すことから、回内外中間位と比較して多くの情報を得ることができるため、回内位と回外位では中間位と比較して関節位置覚の感度が高くなると考えた。結果は、ある程度そのような傾向が示されたが、有意差を認めるには至らなかった。今回は健常肘を対象としており、前腕の回内、回外、回内外中間位は日常生活で頻繁にとる肢位であるため、どの肢位においても肘関節位置覚の感度は保たれ、前腕肢位の違いは肘関節位置覚に大きく関与しない可能性が示唆された。木山らは、関節位置覚の模倣角度が±10度以上の誤差でないと異常とは言い難いと報告しているため、今回の肘関節位置覚の模倣角度は正常範囲内であると考えられる。今後は、さらに対象者を増やし、関節位置覚の感度に影響を与えるとされている模倣速度の設定や、他動での模倣などを考慮に入れ、再度本研究結果の妥当性を検証するとともに、肘関節以外の関節ではどのような結果が得られるのか検討していくことが、関節位置覚への臨床アプローチ上、重要な課題と考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】健常肘を対象とした場合、肘関節位置覚に前腕回内外の肢位の違いは大きく影響を及ぼさない可能性が示された。関節位置覚の特性を理解することは、臨床での関節位置覚の客観的評価を可能とする上で有益な基礎的情報になると考える。
著者
中村 睦美
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.245, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】小学校におけるキャリア教育は,初等教育から高等教育に至る系統的・組織的なキャリア教育の基盤として極めて重要な意味を持つ。平成22年度と平成23年度の2回,このキャリア教育の一環として小学6年生を対象とした職業体験学習に理学療法士として参加したので報告する。【方法】キャリア教育の一環として,職業体験学習の講師募集要項が小学校全学年児童を通して保護者に配布され,児童の保護者や地域住人を中心に医師,大学教員,理学療法士,新聞記者,カラーコーディネーター,編集者,絵本作家,フードコーディネーター,獣医,植木職人,映画監督,消防士の12職種13人が講師として集められた。聴講者は小学6年生で,自分が話を聞いてみたい職業を3職種選び聴講することができる。1つの職種につき講義時間は約30分であり,講義の後仕事体験を行った。理学療法士の仕事体験には,車いす駆動,下肢装具装着歩行,松葉杖歩行を行った。なお,今回の発表に際しては当小学校から承認を得ている。【結果】興味をもって自ら「理学療法士」の聴講を希望した児童数は,22年度は77名中19名,23年度は86名中6名で他の職種に比べて少ない印象であった。後日,実際に感想文として提出されたものの中には「話を聞くまでは何をする人か分からなかった。」「車いすや松葉杖体験が楽しかった。」「話を聞いて理学療法士に興味をもち,将来なりたいなと思いました。」と記載されていた。【考察】今回,小学6年生を対象としたキャリア教育に参加して「理学療法士」の認知度の低さを感じた。「理学療法士」という職種を知らない児童が多く,今回はじめて認識したという児童が多い印象であった。2009年に行われた全国の小学生~高校生を対象とした将来なりたい職業の調査では,「理学療法士・臨床検査技師・歯科衛生士」は高校生では男子で9位,女子で5位であったが小中学生では圏外であった。2010年度の理学療法週間事業での取り組み報告によると「理学療法士」の認知度は3割と低いが,低年齢になるほど低くなるとの報告もある。低年齢時から理学療法士への理解を深めることで,理学療法士としての適性を備えた人材の育成や理学療法士の質の向上につながると考えられる。今回このような経験を得て,小学生を対象としたキャリア教育への理学療法士の参加は児童の勤労観・職業観の育成を促すとともに,理学療法士の社会的認識の向上に非常に有用な場になり得ることを実感した。【まとめ】理学療法士の小学校キャリア教育への参加は,児童の理学療法士への理解を深めるとともに職業選択範囲の拡大をもたらすと考えられる。