著者
佐藤 友紀 飯田 有輝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1373, 2011

【目的】<BR> 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は息切れを主症状とし,運動耐容能の低下やADLの低下を引き起こすとされる。COPDの治療および管理には薬物療法と非薬物療法があり,薬物療法の中心は気管支拡張薬で吸入による投与が勧められている。非薬物療法には呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)が行われ,運動耐容能やADLの改善などを目的として取り組んでいる。呼吸リハは10~12週間に集中的に行われ多数の改善報告があるが,その後の呼吸リハは維持的な目的で実施されることが多く改善報告は少ない。<BR> 一方,息切れの要因には動的肺過膨張があり,労作時における最大吸気量(IC)の減少が関連するとされる。ICの改善にはいかに呼気気流制限を軽減させるかが重要である。薬物療法と運動療法の併用により効果的であるとの報告もあることより,薬物療法は大切な役割をもつ。しかし維持期においての薬物療法は,吸入薬の投与期間も長期となり吸入手技は自己流になりやすく薬物効果が低下するとの報告や,70%の患者で正しく吸入できていないなどの報告もあり,維持期に対する適切な吸入指導はICの改善が期待できる。<BR> 以上より,本研究では呼吸リハの患者教育の一環として吸入指導を行い,維持期における包括的な呼吸リハビリテーションが息切れならびにICに及ぼす影響について検討することを目的とした。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は当院にて定期的に外来呼吸リハ通院をしている患者10名(平均年齢71.9±7.1歳,予測1秒量1.15±0.58,全例男性)とした。平成21年10月より薬物療法の重要性や吸入手技についての吸入指導を導入し,3ヶ月間の吸入指導管理を行った。対象者には3ヶ月間毎日吸入日誌を記載させ,呼吸リハ時に吸入日誌の確認を行うこととした。呼吸リハプログラムは週1回,呼吸筋ストレッチ,呼吸筋トレーニング,自転車エルゴメータ,下肢筋力トレーニングとした。評価は吸入管理前後に行い,測定項目として6分間歩行試験(6MWT),筋力,千住らのADL評価,肺機能検査を行った。6MWTでは歩行距離(6MD)と終了時の主観的息切れの指標としてBorg指数を測定した。筋力は膝伸展筋力(ピークトルク値),握力(平均値),最大吸気圧(MIP),最大呼気圧(MEP)を測定した。肺機能検査は肺活量(VC)とICを測定した。統計処理は6MD,筋力,肺機能についてはPaired t-test,Borg指数,ADLスコアについてはWilcoxonを用い有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は当院倫理委員会の了承を受け,十分な説明を行い書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR> 吸入指導により薬物療法に対する理解が深まり,適切な吸入手技が行われるようになった。吸入管理前後でrest ICは平均1.77±0.47Lから1.90±0.47L(p<0.01),MIPは73.7±11.1cmH2Oから82.1±12.3cmH2O(p<0.01),ADLスコア87.2±16.7点から88.6±15.6点(p<0.05)と有意な改善を認めた。6MDは415.4±108.2mから425.4±106.0m(p=0.071),Borg指数は5.8±2.3から5.2±2.4(p=0.058)と改善傾向がみられた。その他の指標については改善を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 吸入指導は手技の改善や薬物効果、副作用などの理解が深まることで適切な薬物効果が期待できる。毎日日誌をつけることや確認することは,アドヒアランスの向上に寄与し維持期の疾病管理として重要と考えられている。本研究においても日誌を用いた吸入管理により薬物効果が適切に得られICの改善につながったと考える。ICの改善は運動耐容能の改善と相関関係があるとの報告もあり,ADLスコアでは有意な改善が認められた。6MWTについては6MD,Borg指数ともに改善傾向がみられた。またMIPにおいてはICの改善が機能的残気量を低下させ,十分な呼出が得られることによりMIPが改善したと考えられる。<BR>本研究より維持期におけるCOPD管理として,在宅での運動習慣化を中心に吸入の必要性が示唆され,栄養管理など含めた包括的な呼吸リハビリテーションが重要であると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> COPDは慢性疾患であり,維持期に対する医療介入は包括的な介入が重要である。本研究より維持期のCOPD管理において適切な吸入は運動療法効果にも影響を与えるため、理学療法士も患者教育の一環として吸入指導について関わるべきであることが示唆された。

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