著者
志村 結美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

目的 現在、主体的に生き方を探究していくキャリア教育の重要性が叫ばれている。中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(1999)において、「学校教育と職業生活との接続」の改善を図るために、小学校段階から発達の段階に応じてキャリア教育を実施する必要があると提言されて以降、小・中・高等学校において、キャリア教育の充実が喫緊の課題として図られてきた。中学校では職場体験活動が必修化し、大学等においても積極的にキャリア発達支援を行い、インターシップ等が実施されるようになった。しかし、子どもたちが将来就きたい仕事や自分の将来のために学習を行う意識が国際的にみて著しく低く、それに伴い、教科学習に対する興味・関心が低い状況であることが明らかとなっている(TIMSS調査2007・PISA調査2003,2006)。また、働くことへの不安を抱えたまま職業に就き、適応に難しさを感じているといった若者は依然として多く、若者の早期離職率が増加している等、未だに多くの課題を抱えたままである。 そこには、キャリア教育は、従来、「進路決定の指導」を目的とした進路指導、「専門的な知識・技能の習得」を目的とした職業教育で行われており、「キャリア発達を促す教育」としてのキャリア教育となった現在も、職業生活における自己実現を希求することに重きが置かれていることに問題があるとの指摘がされている。すなわち、職業生活、家庭生活、地域生活といったライフキャリアの視点からのキャリア教育の実践が希薄であると言わざるを得ない状況である。 このような現状において、キャリア発達を職業の有り様のみから捉えていくのではなく、ライフキャリアの視点から将来の生活の一部として、生活設計の中で職業の在り方を考え、自立という観点を直接的に捉える家庭科教育においてこそ、キャリア発達を促すことができるのではないかと考える。しかし、家庭科教育においてもキャリア発達を促す授業実践、カリキュラム開発はこれからの充実・発展が待たれている段階である。家庭科教員にも、ライフキャリアの視点からキャリア発達やキャリア教育を捉えることが難しい状況にあるのではないかと推察される。 そこで、本研究では、まず、キャリア教育に関する施策や先行研究からキャリア発達やキャリア教育の定義等の推移を明らかにし、ライフキャリアの視点から分析する。次いで、家庭科教育におけるキャリア発達を促す教育内容等を学習指導要領等から導き出し、ライフキャリアの視点から家庭科教育とキャリア教育の関連性を検討することを目的とする。また、本報告では、小学校で家庭科を担当している教員対象のキャリア教育の実施状況やその実施内容等に関する実態調査を踏まえて、小学校教員の家庭科に関するキャリア教育の捉え方の傾向を明らかにし、家庭科教育とキャリア教育の関連性を検討する一助とする。 方法 1.ライフキャリアの視点からキャリア教育に関する施策、先行研究等を分析し、家庭科教育との関連性を検討する。2.小学校教員対象調査は、山梨県と静岡県の計406校の小学校に在籍している家庭科主任、家庭科担当教員を対象にアンケートを郵送し、計146人の有効回答を得た(有効回収率36.0%)。調査期間は2009年8月~11月である。 結果及び考察 先行研究等では、ライフキャリアの視点でキャリア発達を捉えたものが多く認められ、その重要性が確認された。家庭科教育においてもキャリア発達を促す教育内容を多く内包しており、その関連性が明らかとなった。また、小学校教員対象調査では、約6割の教員がキャリア教育に関する教育を行っているが、実施している教科等は、総合的な学習の時間、特別活動、社会、道徳、家庭科の順であった。家庭科での実践は15%程度であったが、家族の一員として仕事を行うこと、また、衣食住に関する技能の習得等を通した実践等、幅広い教育内容があげられ、教員がライフキャリアの視点を持って、授業を行うことの重要性が明らかとなった。

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