著者
佐藤 安純 志村 結美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第60回大会/2017年例会
巻号頁・発行日
pp.104, 2017 (Released:2018-03-06)

【目的】近年、若者の社会参画に対する意識の低下や、投票率の低下が問題視されている。2016年から選挙権年齢が18歳に引き下げられ、若者の社会参画意識やシティズンシップに関する意識の育成が喫緊の課題として挙げられている。家庭生活や地域社会に根ざした学びを特徴とする家庭科教育は、地域社会の形成者を育成することに大きな役割を果たすことができると思われる。高等学校家庭科学習指導要領(2009)においても、家庭や地域及び社会の一員としてのあり方を考える学習内容が新たに増え、社会とのつながりの重要性が明示されている。一方、キャリア教育は、中教審答申(2011)において、その重要性が謳われている。その後、「基礎的・汎用的能力」が定義され、広く活用されている。家庭科教育においても、高等学校家庭科学習指導要領(2009)において、「生涯の生活設計」が全共通科目で扱う内容とされた。生活設計の中で、職業生活、家庭生活、地域生活の三者のバランスを考え、すなわち、ライフキャリアの視点から職業生活を捉えていく内容となっている。家庭科におけるシティズンシップ教育とキャリア教育の有効な実践が期待されている現状ではあるが、両者の関係性を明らかにした研究は少ない。そこで本研究では、Y大学生を対象に調査を行い、家庭科におけるシティズンシップ教育とキャリア教育の関係性を検討していくことを目的とした。【方法】(1)Y大学生対象アンケート調査①対象:全学部1年生488名、教育学部2~4年生137名②期間:2016年10月~12月③内容:シティズンシップ教育に関する項目、キャリア教育に関する項目、家庭科・家庭生活に関する項目(2)Y大学4年生対象ヒアリング調査①対象:アンケート対象者から抽出した男性2名、女性3名②期間2016年12月③内容:就職活動について、地域、社会に対してできることについて、家庭科の授業に関連して、将来について他 以上の結果を踏まえて、シティズンシップ教育・キャリア教育に関する家庭科教育の提案を行った。【結果及び考察】Y大学1年生のシティズンシップ教育に関する意識は、自己肯定感が低く、特に女性の自己肯定感が低い結果であった。また、女性は他者との関係性や付き合い方を男性よりも深く考えている傾向が見られた。社会への参画に関する意識は、社会を創造していくのは自分たちであるという自覚がある学生は男女ともに多いが、新聞やニュースをよく見るようにしている学生が少ないなど、実際の社会には目を向けられていない学生が多い結果であった。選挙に参加している学生は48.2%と約半数であり、日本の同世代の投票率とほぼ同率であった。キャリア教育に関する意識では、基礎的・汎用的能力のうち「人間関係形成・社会形成能力」が全体的に肯定的な回答が高く、「自己理解・自己管理能力」は全体的に低い結果であった。学年比較において、学年による相違はあまり認められなかったことから、教育学部学生のキャリア意識については、学年が上がり、社会人に近づくにつれて培われていくものもあるが、大学入学以前の学校教育や、家庭環境等によって養われるものが大きいと考えた。大学生へのヒアリング調査からは、シティズンシップ教育・キャリア教育に関する意識に関係する発言が見られた。以上より、家庭科教育への示唆として、以下のことが明らかとなった。①シティズンシップ教育に関する意識とキャリア教育に関する意識の関連性が大きく認められ、大学入学以前の学校教育等が重要であるとのことから、「シティズンシップ教育・キャリア教育の関連性を重視する」こと、②全体的に、何かしようとする意識は高いが、行動へと繋げることができていない、実際の生活に繋げて考えられていない学生が多く、認識と行動の乖離が見られたことから、「認識と行動の乖離をなくすための、実践に繋がる教育」が必要であること、③自己肯定感が全体的に低く、特に女性にその傾向が強く表れ、自己肯定感の育成の必要性が認められたことから、「自己肯定感の育成」することである。
著者
塚越 奈美 秋山 麻実 志村 結美 川島 亜紀子 小島 千か 渡邊 文代 佐藤 和裕
出版者
山梨大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
教育実践学研究 : 山梨大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 = Journal of Applied Educational Research (ISSN:18816169)
巻号頁・発行日
no.25, pp.1-9, 2020-03

本研究は,山梨大学附属図書館子ども図書室に利用者はどのような魅力を感じているのかを探るものである。この目的のために,子ども図書室の主な利用者である山梨大学教育学部附属幼稚園児の保護者を対象に,利用状況や利用目的などについてたずねる質問紙調査を実施した。その結果,年中児・年長児の家庭では6割を超える利用があり,利用の主な目的は図書を読んだり借りたりという本に親しむ活動が中心であることが確認された。子ども図書室独自の魅力としては,運営に携わる学生ボランティアとの交流や室内に常備されている折り紙等を使った工作活動が挙げられた。また,子ども同士・大人同士のコミュニケーションスペースとして活用されていることも示され,静かに本に親しむ場でもあり,利用者の交流の場でもあるという2つの機能が共存していることが明らかになった。調査結果を関係教職員と学生ボランティアで共有し,今後の運営の充実につなげていきたい。
著者
日景 弥生 青木 香保里 志村 結美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.125-135, 2017 (Released:2018-11-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

The purpose of this research is to clarify perspectives of teachers without the license of home economics education (LHEE) by comparing those with the LHEE. Perspectives of teachers with the LHEE were better than those of teachers without the LHEE. Additionally, the teachers with the LHEE thought that problem solving ability was more important, and they utilized resources such as homes and community which were the basis of students’ livelihood. However, teachers without the LHEE had almost no time to research materials for teaching some subjects in addition to home economics education, and they were able to take the line of least resistance such as worksheets. The quality of home economics education was influenced by difference between teachers with the LHEE and those without the LHEE. In order to ensure study opportunity, the boards of education need to prepare support system for teachers without of the LHEE, and reform teachers’ license system immediately.
著者
土橋 由紀 志村 結美 斉藤 秀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.99, 2011

<BR>【目的】 グローバル化する社会の中で、国や環境の異なる人を理解し、共に生活していくためには、自分の国や地域の伝統や文化についての理解を深め、尊重する態度を身に付けることが重要である。高等学校家庭科の学習指導要領(2009)では、高校生が家庭や地域の生活を主体的に創造していく主体として、生活文化の伝承と創造を担う必要性が述べられ、伝統と文化に関する教育の充実が求められている。<BR>そこで本研究では、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた地域の伝統産業と連携した家庭科の授業開発を行い、検討を行うこととした。本研究は、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、小・中・高・大学といった教育機関の三者、すなわち産官学が連携し、甲斐絹の伝承と発信をめざしたプロジェクトの一環として行われている。本研究を通して、児童・生徒が具体的に地域や日本の伝統、生活文化を把握し、継承していくことの意義を認識するとともに、継承、発展させていくための実践的な態度の育成を図ることを目指している。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる体験ができ、さらには、自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考えている。<BR>本報告では、甲斐絹の生産地である山梨県郡内地域にある山梨県立F高等学校において実施した家庭科の授業実践を分析・検討し、今後の教育プログラムの開発の一考とすることを目的とする。<BR>【方法】 山梨県立F高等学校1学年7クラス約280名を対象に、家庭科(家庭基礎)において、2011年2月に各2時間授業実践を行った。授業前後のアンケートや授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ティッシュケース)等を分析対象とした。<BR><BR>【結果及び考察】 第1次の授業は、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品の紹介をしながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹復元への想い等の講義を行い、地域の伝統や文化の伝承の意義等について生徒の認識を高める授業展開とした。第2次では、手縫いによる甲斐絹の小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。<BR>分析の結果、授業後には伝統と生活文化を後世に伝えていく活動について意欲的に参加したいとの回答が有意に多くなり、自由記述の中にも甲斐絹を自らが伝えていきたいと考える意見が多くみられた。授業後には、食文化・衣文化・住文化のいずれに関しても興味・関心が高くなり、さらに、ものづくりに興味・関心を持った生徒も多くなっていた。<BR>また、第1次の甲斐絹座メンバーによる講義後の感想では、地域の伝統文化への誇りに関する記述が多く認められた。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としても、甲斐絹の商品開発や商品販売、マスコミの活用等、積極的な回答が多く認められ、地域の伝統産業である甲斐絹についてより身近に、具体的に捉えることができたと考えられる。<BR>甲斐絹を使った小物製作については、事前には4割の生徒が否定的に捉えていたが、事後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹の特徴である手触りや高級感を感じることができたためと推測される。しかし、手縫いでは縫いづらいという意見も多く認められ、実際、甲斐絹は手触りが良い分、手縫いでは滑りがあり上手に縫い合わせることができない生徒が多くみられた。また、ほつれやすく、縫ったところからほどけてしまう様子も見受けられた。<BR>そこで今後の課題として、小物製作の実習として、手縫いによる基礎的裁縫技術の習得を含め、学習後、日常生活でより活用できるものとして、ミシンを利用した小物製作を行うことを検討している。また、小・中・高校と発達段階に即した山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムの開発・検討を行う予定である。<BR>
著者
志村 結美 斉藤 秀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.26, 2010

<B>目的</B><BR><BR> 現代の子どもたちは、生活実感すなわち、生活を自らのものとして具体的に捉える力が欠如し、自らの生活に関心が薄いと言われている。このような子どもたちの現状に対し、家庭科教育は、日常生活の営みである生活文化に目を向け、その歴史あるいは先人の知恵や技術を理解し主体的に生活を捉えることで、新たな生活文化を創造し、生活をより豊かにしようとする心を育むという役割を担っている。特に、学習指導要領の改訂(2008・2009)において、伝統と文化に関する教育の充実が謳われている現在、家庭科教育も果たすべき役割は大きいと言えよう。<BR> そこで本研究では山梨県の児童・生徒を対象に、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた、地域の伝統産業と連携した家庭科の教育プログラムの開発を行うこととした。本プログラムの開発には、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、教育機関が一体となった産官学が連携して携わっており、甲斐絹の商業的展開の発展をも目指している。もちろん、教育プログラムとしても児童・生徒が現実的に甲斐絹の発展や継承について捉え、より具体的に地域、日本の伝統や文化を継承していくことの意義を認識し、実践的な態度を育成することができるため、有効である。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる経験ができ、さらにはプログラム全体を通して自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考える。本報告では、Y大学附属中学校で試行的に実践した家庭科の実験的研究授業を分析・検討し、山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムのあり方を探ることとする。<BR> <BR><B>方法</B><BR><BR> 実験的研究授業は、Y大学附属中学校3年生1クラス40名を対象に、2010年1月13日、20日の各1時間、計2時間実施した。授業前後のアンケート、授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ポケットティッシュケース)等を分析対象とした。<BR><BR><B>結果及び考察</B><BR><BR> 実験的研究授業の第1次では、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品を紹介しながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹の現状等の講義を行った。その講義を踏まえて、地域の伝統と文化の意義を理解し、実践的に継承していくための方策をグループで話し合い、発表した。第2次では、甲斐絹の素晴らしさを実感できる小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。<BR> 授業の分析の結果、伝統と文化等に関する学習への興味・関心は、学習後に有意に高くなり、特に衣文化に関して、食文化と同様に9割以上の生徒が興味・関心があると答えている。また、甲斐絹を使った小物製作については、学習前に3割の生徒が否定的に捉えていたが、学習後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹座による講義や、甲斐絹の色、光沢、手触りの素晴らしさに触れ、しっかりとした製品を創り上げたいという意欲がわいたためと推測される。性別による比較では、学習前は女子の方が意欲・関心が高い傾向が見られたが、学習後には有意な差が認められなくなり、男女ともに興味・関心を高めながら、その差を縮める結果となった。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としては、マスコミの活用や本授業のような体感する機会の増加、その他、具体的な商品開発のアイディア等が積極的に述べられた。また、自らが伝統と文化に興味・関心を持ち、学び、伝えていく意義、甲斐絹を含めた地域や日本の伝統と文化に対する誇り等の自由記述も認められた。<BR> 今後の課題として、短時間で完成する小物の開発、小・中・高校と発達段階に即した教育プログラムの開発、小物製作キット等の作成等があげられ、今後も教育現場で活用できる教育プログラムの開発の検討を行う予定である。
著者
楢府 暢子 阿部 睦子 亀井 佑子 志村 結美 仙波 圭子 仲田 郁子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】<br>&nbsp;&nbsp; グローバル化が進展する中、世界の人々と共に生活していくためには、日本や地域の伝統、文化についての理解を深め、他国の文化も理解し、共に尊重する態度を身に付けることが重要である。中央教育審議会答申(2008)においては、家庭科の関連事項として、「衣食住にわたって伝統的な生活文化に親しみ、その継承と発展を図る観点から、その学習活動の充実が求められる」と明記された。&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; <br>&nbsp;&nbsp; 本研究は、家庭科教育における日本の伝統的な「生活文化」に関する教育内容・教育方法について現状を検討し、小・中・高等学校の授業を創造し、実践し、検証して授業提案を行っていくことを目的とする。本研究では、「人間がよりよい生活を営むために工夫し、努力してきたもの」を「生活文化」と考え、「文化」「歴史」「伝統」「地域」などをキーワードとし、主に衣食住に関する事項を取り上げている。<br>&nbsp;&nbsp; 本報では、第58回大会、平成27年度例会に引き続き、全国の国立大学法人附属小・中・高等学校の教員対象調査から生活文化に関連する授業分析の報告をする。<br><br>&nbsp;【研究方法】 <br>&nbsp;&nbsp; 全国の国立大学法人附属小学校・中学校・高等学校の家庭科担当教員に2014年3月に「生活文化」に関する授業調査を行った。結果、小31校、中29校、高9校、計69校から回答を得た。その中の先進的な授業実践から一事例を取り上げ、報告と分析を行う。具体的には、国立大学法人A中等教育学校の学校設定科目である6年生(高校3年生)対象の選択科目「生活文化」の実践内容と2001年度受講生25名と2015年度受講生12名の授業後の感想の分析等である。<br><br>【結果及び考察】<br>&nbsp; &nbsp;国立大学法人A中等教育学校では、平成10年公示の学習指導要領で生活文化の伝承と創造が取り入れられたことを受けて、6年生(高校3年生)の選択授業に「生活文化」を設置することとした。科目設置のねらいは、伝統行事や社会的慣習の意味や内容を体験的に理解させるとともにその背景となる先人の知恵や考え方を知ることによって、生徒自身が生活文化の重要性に気付き、それらを現代の生活の中で自分たちなりの工夫をしながら継承していくことである。<br>&nbsp; 2単位の通年のこの授業では、実習と講義を隔週で行った。調理実習では、季節の食材や行事に関連したものを取り上げ、それに関連する講義も併せて行った。具体的には、草餅、梅干し、おはぎ、おせち料理、クリスマス料理などである。実習内容は、日本だけでなく、海外の行事や慣習も扱った。調理実習だけでなく、手紙の書き方、冠婚葬祭のマナーなど日常生活におけるしきたり、心遣いについても扱った。調理以外に水引き、祝儀袋、しつらえなど日常生活に見られる伝統技術の実習も行った。<br>1年間の授業後の生徒の感想からは、「日本の生活文化について正しく理解していなかったことがわかった」や「常識がないことに気づいた」など自分自身に対しての気づきが多く認められた。また、各授業内容について、「ためになった」、「楽しかった」など肯定的な評価がほとんどであった。この授業全般に対して、「生活に役立つ、日本人として知っておくべきこと」など、必要性を認めていた。<br>&nbsp;&nbsp; 今後の課題は、今までの調査等を踏まえ、A中等教育学校を含めた具体的な授業事例の分析から、種々の条件の中で実施できる授業提案につなげていくことである。また、国立大学法人学校授業調査において、どの校種でも生活文化を学ぶことで培える力として「自分自身の生活課題に気づく」を挙げる教師が半数を超えており、生活課題の気づきに焦点を当てた授業内容の検討を合わせて行いたい。
著者
志村 結美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

目的 現在、主体的に生き方を探究していくキャリア教育の重要性が叫ばれている。中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(1999)において、「学校教育と職業生活との接続」の改善を図るために、小学校段階から発達の段階に応じてキャリア教育を実施する必要があると提言されて以降、小・中・高等学校において、キャリア教育の充実が喫緊の課題として図られてきた。中学校では職場体験活動が必修化し、大学等においても積極的にキャリア発達支援を行い、インターシップ等が実施されるようになった。しかし、子どもたちが将来就きたい仕事や自分の将来のために学習を行う意識が国際的にみて著しく低く、それに伴い、教科学習に対する興味・関心が低い状況であることが明らかとなっている(TIMSS調査2007・PISA調査2003,2006)。また、働くことへの不安を抱えたまま職業に就き、適応に難しさを感じているといった若者は依然として多く、若者の早期離職率が増加している等、未だに多くの課題を抱えたままである。 そこには、キャリア教育は、従来、「進路決定の指導」を目的とした進路指導、「専門的な知識・技能の習得」を目的とした職業教育で行われており、「キャリア発達を促す教育」としてのキャリア教育となった現在も、職業生活における自己実現を希求することに重きが置かれていることに問題があるとの指摘がされている。すなわち、職業生活、家庭生活、地域生活といったライフキャリアの視点からのキャリア教育の実践が希薄であると言わざるを得ない状況である。 このような現状において、キャリア発達を職業の有り様のみから捉えていくのではなく、ライフキャリアの視点から将来の生活の一部として、生活設計の中で職業の在り方を考え、自立という観点を直接的に捉える家庭科教育においてこそ、キャリア発達を促すことができるのではないかと考える。しかし、家庭科教育においてもキャリア発達を促す授業実践、カリキュラム開発はこれからの充実・発展が待たれている段階である。家庭科教員にも、ライフキャリアの視点からキャリア発達やキャリア教育を捉えることが難しい状況にあるのではないかと推察される。 そこで、本研究では、まず、キャリア教育に関する施策や先行研究からキャリア発達やキャリア教育の定義等の推移を明らかにし、ライフキャリアの視点から分析する。次いで、家庭科教育におけるキャリア発達を促す教育内容等を学習指導要領等から導き出し、ライフキャリアの視点から家庭科教育とキャリア教育の関連性を検討することを目的とする。また、本報告では、小学校で家庭科を担当している教員対象のキャリア教育の実施状況やその実施内容等に関する実態調査を踏まえて、小学校教員の家庭科に関するキャリア教育の捉え方の傾向を明らかにし、家庭科教育とキャリア教育の関連性を検討する一助とする。 方法 1.ライフキャリアの視点からキャリア教育に関する施策、先行研究等を分析し、家庭科教育との関連性を検討する。2.小学校教員対象調査は、山梨県と静岡県の計406校の小学校に在籍している家庭科主任、家庭科担当教員を対象にアンケートを郵送し、計146人の有効回答を得た(有効回収率36.0%)。調査期間は2009年8月~11月である。 結果及び考察 先行研究等では、ライフキャリアの視点でキャリア発達を捉えたものが多く認められ、その重要性が確認された。家庭科教育においてもキャリア発達を促す教育内容を多く内包しており、その関連性が明らかとなった。また、小学校教員対象調査では、約6割の教員がキャリア教育に関する教育を行っているが、実施している教科等は、総合的な学習の時間、特別活動、社会、道徳、家庭科の順であった。家庭科での実践は15%程度であったが、家族の一員として仕事を行うこと、また、衣食住に関する技能の習得等を通した実践等、幅広い教育内容があげられ、教員がライフキャリアの視点を持って、授業を行うことの重要性が明らかとなった。