- 著者
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神山 久美
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.56, 2013
[ 研究の背景と目的 ] 大学では、家庭科における生涯の生活経営に関する内容をさらに発展させ、深く高度な内容の学習が必要である。 ファイナンシャル・プランニング技能士(FP技能士)とは、職業能力開発促進法に基づく、FPの技能に関して包括的で専門的な知識・技術をもつことを証明する国家資格である。導入資格である3級FP技能士の資格取得を目指すことにより、生涯の生活設計で必要となる6分野(ライフプランニングと資金計画、リスク管理、.金融資産運用、タックスプランニング、不動産、相続・事業承継)についての幅広い内容を、体系的に学ぶことができる。FP技能士試験には、学科試験及び実技試験の2つがあり、学生にとって、これらの知識・技能を獲得することは生涯の生活設計のために役立ち、また、FPに関する上位資格を取得することにより、金融関係の仕事(銀行、保険、証券、不動産など)にも役立つものとなる。 2012年12月に「消費者教育の推進に関する法律」が施行された。消費者教育を「消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育及びこれに準ずる啓発活動」と定義し、特に、「消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む」と加え、消費者の消費者市民社会形成の参画を重視していることが特徴である。この消費者教育の定義より、大学における消費者教育は、学生に、消費者の自立に必要な消費生活知識の修得や実践的能力を育成し、消費者市民社会の形成への参画を意識させることが目標となる。このような視点での大学における授業開発が必要であり、特に、大学生に自主的・積極的な消費者市民社会への参画意識を持たせることが重要と考えられる。 そこで本研究は、大学授業において、国家資格のFP技能士資格取得に関わる内容を導入して学生の金融経済に関する幅広い知識・技能の獲得をめざし、その学生の学びを、社会参画のためにも活かすという展開の実践を試みることを目的とした。[ 方法 ] 2012年度、私立A大学家政学部家政経済学科2年生の専門科目である前期授業の「ファイナンシャルプランニング論」及び後期授業の「ファイナンシャルプランニング演習」において、1年間に渡り実践を行った。前期授業では、FP技能士の9月試験の合格を目指した内容の授業を実施し、後期授業では、子どもを対象としたおこづかいに関する内容について、学生が企画・運営した、地域の消費生活展の参加や児童館での講座等を実施した。 これらの授業過程と授業記録などの結果から、大学における金融経済教育としてのFP技能士試験の導入とその展開のあり方について、考察を行った。[ 結果と考察 ] 今回の前期授業の終了後に、授業の前に金融経済教育を受けたことがあるか質問したところ、「受けたと思うがよく覚えていない」、「ほとんど受けていない」を選んだ学生が80%を超えた。前期授業で行った内容について、大学生として学ぶ必要があると思うか尋ねたところ、全員が「とても必要」、「少し必要」を選択し、「あまり必要でない」、「全く必要でない」を選んだ学生はいなかった。その理由としては、「自分の普段の生活に役立つ」、社会人として知っておくべき内容」、「就職活動で役立つ」などが挙がり、これらの内容の導入の意義があると考えられた。 前期授業と後期授業を組み合わせた今回の取組については、学生全員が肯定的に捉えていた。その理由として、「前期に学んだことが活かせてよかった」と書いた学生が多かった。学生は、単に自分たちが知識をつけることのみを重視したのではなかった。今回の取組を通して、社会に貢献する自分たちの役割の自覚や学ぶ動機づけにもつながっていると考えられた。消費者市民として社会への参画意識を持たせるような実践をしていくことが、大学教育における展開として重要なことが示唆された。