著者
柴田 博
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.9-20, 2015
被引用文献数
1

Thanatology(死生学)はgerontology(老年学)と共に1903年,免疫学者メチニコフにより創出された用語である。この2つの学問は,科学(自然,社会)および人文学(哲学,宗教,文学など)の双方の分野からなる学際的な学問である。<br>人間の死の問題は生活の質(quality of life, QOL)の問題と統合的に把えなければならない。しかし,学問の進捗としては老年学の方が先行し,死生学は遅れたためそれは不十分にしか成されていない。1980年代まで死の問題を扱うことは宗教,哲学,生命倫理学以外の分野ではタブー視される傾向にあったのである。<br>この四半世紀,老年学のQOLにanalogousにQOD(D)(quality of dying and/or death)の実証的な研究が北米を中心に盛んになっている。これらの研究は従属変数としてのQOD(D)を操作概念化し,提供されるケアとの関連で,終末期のQOLを評価しようとするものである。死の質を測定するための尺度の開発により,実証研究は今後も大きく進むものと考えられる。<br>しかし,死の学問は終末期のきわめて短いスパンの問題に限局されてはならない。もっと長い人生のスパンにおけるQOLとの関連でも論じられなければならない。それは量的研究ではなく文学,病跡学にみられるようなnarrativeな方法を採ることになるであろう。本論文では,死生学にまつわるいくつかのトピックスについての,筆者の私見を述べた。死生学における位相的意義は明確にし得ないが。

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