著者
岩橋 尊嗣
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.75-75, 2009

本誌では,これまでに光触媒に関する情報についての,企画特集をしている.たとえば,1998年11月号(Vol. 29, No. 6)"21世紀に向けての新しい脱臭装置開発"の中で「最新の光触媒技術開発の動向」「光触媒脱臭ユニットの開発」,2001年5月号(Vol. 32, No. 3)"酸化チタン光触媒の現況",2002年11月号(Vol. 33, No. 6)"可視光型光触媒の動向"などについて掲載している.さらに,1999年第12回臭気学会では酸化チタン光触媒の発見者でもある藤嶋 昭氏(現・(財)神奈川科学技術アカデミー理事長)を迎え,特別講演を催している.<BR>酸化チタンの光活性機能が,1972年"Nature"に掲載されてから,早くも37年の月日が流れた.その間にも超親水性能,抗菌・防カビ性能などの新しい機能性が次々と見出され,関連産業が1兆円市場に成長するのも夢ではないとの予測も様々なシンクタンクから出された.1999年,市場は急激に拡大し,その後も順調な増加傾向を示しているが,ブレークスルーには至っていないのが現状であろう.2006年以降はヨーロッパ,米国市場などを合算して1000億円規模とも言われている.<BR>1990年代,光触媒の用途開発が積極的に行われ,一般消費者を対象にした市場でもTV, 店頭,雑誌などで光触媒の記事を目にし,耳にする機会が確かに多くなった.一方,光触媒の原理を正確に理解せず,ただ商品開発に猪突猛進した一部の企業から,室内での光触媒活性のない商品が市場に出回るなどし,消費者の光触媒製品に対する信頼性を著しく損なってしまったことも事実である.そこで,2002年9月に光触媒標準化委員会が発足し,光触媒材料の評価に関する試験法の標準化が進められることになった.すなわち,市場から"まがい物"を追放しようという意図が読み取れる.<BR>本特集では,まず2002年発足以来の光触媒標準化委員会が中心となり,実務としては分科会が行ってきた様々な業務内容および成果について,竹内氏・松沢氏・佐野氏((独)産業技術総合研究所)らに執筆していただいた.特に,現時点でのJISやISOについての記述が詳細に説明されており,貴重な情報である.<BR>砂田氏(東大先端科学技術研究センター)・橋本氏(東大先端科学技術研究センター・同大大学院工学系研究科)らには,NEDO「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」の受託研究で行っている研究成果について執筆していただいた.切望されている可視光下で活性の強い光触媒の開発が,着実に進行していることがうかがわれる.<BR>阿部氏(北大触媒化学研究センター)には,白金と酸化タングステンの複合型可視光応答型光触媒の研究成果について執筆していただいた.これは,砂田氏・橋本氏らの研究とも共通した酸化タングステンを利用した,極めて活性の高い新規触媒の開発である.酸化タングステンのアルカリに弱いという弱点を,今後どのように解決していくのかが課題でもあるが,楽しみでもある.<BR>村上氏・中田氏((財)神奈川科学技術アカデミー)には,酸化チタン光触媒の応用研究の一つとして,オフセット印刷版の開発に関する研究成果について執筆していただいた.光触媒の原理をしっかり理解することで,多分野への応用展開が可能であることを示唆する貴重な研究の一つである.是非ともヒントを得ていただきたい.<BR>2007年,光触媒に関わる市場の内訳は,タイルやガラスなどの外装材がおよそ60%を占める.これに対し,内装材や生活用品であるインドア分野では,10%前後とかなり低い.この分野を活性化するには,紫外光が極めて少なく,可視光エネルギーしか存在しない状況下で,実用可能な活性を持つ光触媒(可視光応答型光触媒)の上市に掛かっていると言っても過言ではない.日本発の光触媒技術が,地球環境の改善に大きく貢献できる日の到来もそう遠くはない気がしてきた.世界との競争が熾烈になってきた今こそ,オールジャパンとしての正念場かもしれない.<BR>最後に,ご多忙極まる中で,諸先生方には本特集にご賛同いただき,執筆をご快諾いただいたことに対しまして,本紙面を借り深謝申し上げます.

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