- 著者
-
田垣 正晋
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.2, pp.172-182, 2014
本研究は,外傷性脊髄損傷者のライフストーリーから,中途肢体障害者の障害の意味の長期的変化を検討した。対象は,10年前の研究協力者の男性10名で,今回の調査時点で,受障から平均27.2年が経過,平均年齢49.4歳だった。10年間の生活の様子,障害に関する葛藤に関する半構造化面接を各々1回行った。対象毎に,逐語記録から抽出された平均約130個のコードについて,質的分析をした後,10名の結果を統合した結果,4つのカテゴリーを得た。1)「身体の管理」では,対象者は,移動の制約や体調の管理をしつつ,福祉サービスを使いこなしていた。2)「打ち込める活動」では,話し手は,仕事,社会活動,福祉活動,子育てを重視していた。3)「障害を活用して社会へ働きかける」では,話し手は,障害者施策の批評,交通機関の障害者への態度に対する抗議,闘病記の作成をしていた。4)「揺らぎと両価的意味づけ」の話し手は,3つのカテゴリーを文脈にして,仕事上の不利益,諸活動への消極さ,機能回復の希望をもつと同時に,子どもへの関与,障害者への支援などに,受障したからこそ可能になった人生上の意義を見いだそうとしていた。4)のうち,3名の話し手は,10年前と同様の両価的な意味づけを語った。以上の結果は,中途障害者の研究に両価的視点が有効であることを示した。