著者
田垣 正晋
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.97-111, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
27

本研究は,先進的と評価された,障害者施策に関する住民会議の成熟期における,その先進性の展開および新たな課題の発生を,タスク,プロセス,リレーションシップの各ゴールから検討し,他地域に転用可能な知見を提示する。事例の会議は,2002年から11年間継続し,多様な障害者,一般住民,行政職員で構成されている。今回は,フィールドノート,議事録等をもとに,2008年から2012年までの展開を分析した。当初,メンバーによる会議の積極的な運営と,交通事業者へ要望書提出,防災訓練といった会議外の組織と協働活動がみられたものの,一部のメンバーが活動を担っていたこと,及び,会議を担う別の障害者が育成されていないことが,会議において認識されるようになり,2013年度以降は,協働活動を少なくして,メンバーが中心になった障害者問題のシンポジウムに特化することになった。今期の会議は,メンバーによる積極的運営というプロセスゴールの達成が,会議外の組織との協働活動というリレーションシップゴールとタスクゴールにつながったと考察できる。メンバーは協働活動において「交通弱者」や「災害時要援護者」等,「障害者」以外の自己の位置づけをしていたといえる。だが,メンバーは,この活動や自己の位置づけが,会議の障害者施策としての意義を低めることを危惧し,障害者が会議や活動の中心になるというプロセスゴールを再度重視するようになったようである。この意味において,リレーションシップゴールとプロセスゴールは一体的で相互強化的と考察できる。この知見は他地域の同様の会議にも参考になる。
著者
田垣 正晋
出版者
大阪府立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

市町村障害者基本計画における、質問紙調査の自由記述データ、グループインタビュー、ワークショップの記録といった質的データの活用方法を、いくつかの自治体の実例をもとに検討した。分析手法としてはKJ法のみならず、テキストマイニングを適宜組み合わせたほうが、調査実施者の「アカウンタビリティ」の維持には有効と考えられた。調査結果は「事実」の同定というよりも、関係者が新しいストーリーを生み出す題材として、質的データは重要であることがわかった。
著者
田垣 正晋
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.45-62, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究は,大都市圏における障害者施策の住民会議におけるメンバーの相互作用,会議の運営とその機能に関して,他地域の同様の会議に転用できる知見を明らかにしたものである。事例となった会議は,多様な障害者,ボランティア,自治体職員によって構成され,6年間継続している。筆者は,自治体職員とともに会議の運営を中心的にした。今回の研究においては,筆者が,フィールドノート,筆者の会議への提出資料,議事資料,メールから,時系列に会議の流れを再構成した。会議の議題は,障害の種類に応じた課題から,障害者全体に共通するニーズや,健常者に対する障害者問題の啓発に移ってきた。自治体職員,筆者,メンバーそれぞれが,自らの役割と施策実現上の限界を意識しながら,会議のコーディネートを行った。会議においては,施策の実現よりも,メンバーがもつ障害の多様性の尊重,意見の共有が重視された。種類の異なる障害をもつ者が参加したことによって,会議は,障害者当事者-非当事者という二分法の相対化につながった。放置自転車の軽減や,障害者向け防災マニュアルの作成に対して,事業費がつき,これらが障害者によって実行された。体験の共有を重視した本会議にとって,この事業化は,最終的なゴールというよりも,メンバーが,障害者としての生活上の経験をセンスメーキングする過程の一部であると考察された。障害の多様性の尊重と,メンバーによる問題の共有は,他地域の会議においても重要になると考察された。
著者
田垣 正晋
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.173-184, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
8
被引用文献数
4 2

本研究の目的は,障害者施策における住民会議のあり方を検討すること,および,その過程を通じて,アクションリサーチにおいて研究者はいかにフィールドと関わるべきかについて方法論的に検討することである。本研究でとりあげた事例は,ある地方都市の障害者施策推進に関する住民会議であり,筆者は住民会議の運営において中心的な役割を果たした。筆者の会議への関わりを,筆者の発言,提出資料,メールから時系列的に再構成した。住民会議の当初目標は,結果的には達成されなかった。その主な原因は,活動の目標が共有されなかったこと,文書資料の準備不足,市職員,座長,筆者の打ち合わせの不足であった。この過程をアクションリサーチの方法論の問題として検討した結果,当事者,すなわち,住民会議のメンバーのセンスメーキングを促すようなセンスメーキングを研究者が行うことが重要であるとわかった。例えば,メンバー間をコーディネートすること,住民会議の場で自明視されていたり,人々がうまく言葉にできなかったりする現象を研究者が言語化することである。また,得られた知見の文脈を同定し,他の事例への転用可能性を高めるために,研究範囲と期間(ローカリティ)を限定することも重要であることが示唆された。さらに,このためには,研究者とフィールドとのコンタクトの記録を保存して,フィールドワークの文脈を明示化することが重要との知見が得られた。
著者
田垣 正晋
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.172-182, 2014

本研究は,外傷性脊髄損傷者のライフストーリーから,中途肢体障害者の障害の意味の長期的変化を検討した。対象は,10年前の研究協力者の男性10名で,今回の調査時点で,受障から平均27.2年が経過,平均年齢49.4歳だった。10年間の生活の様子,障害に関する葛藤に関する半構造化面接を各々1回行った。対象毎に,逐語記録から抽出された平均約130個のコードについて,質的分析をした後,10名の結果を統合した結果,4つのカテゴリーを得た。1)「身体の管理」では,対象者は,移動の制約や体調の管理をしつつ,福祉サービスを使いこなしていた。2)「打ち込める活動」では,話し手は,仕事,社会活動,福祉活動,子育てを重視していた。3)「障害を活用して社会へ働きかける」では,話し手は,障害者施策の批評,交通機関の障害者への態度に対する抗議,闘病記の作成をしていた。4)「揺らぎと両価的意味づけ」の話し手は,3つのカテゴリーを文脈にして,仕事上の不利益,諸活動への消極さ,機能回復の希望をもつと同時に,子どもへの関与,障害者への支援などに,受障したからこそ可能になった人生上の意義を見いだそうとしていた。4)のうち,3名の話し手は,10年前と同様の両価的な意味づけを語った。以上の結果は,中途障害者の研究に両価的視点が有効であることを示した。