- 著者
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シリヌット クーチャルーンパイブーン
- 出版者
- 北海道社会学会
- 雑誌
- 現代社会学研究 (ISSN:09151214)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, pp.1-20, 2015
タイにおいて,1970年代に入ると,学生たちは各地の民主化と共に,政治的民主化への熱情を高め,自国の問題に対する意識を持ち始めた。そして,日本のタイに対する帝国主義的な行動も注目されることとなった。本稿では,日本に反抗する気持ちが高揚していた1972年に発生した「野口キック・ボクシング・ジム事件」と「日本製品不買運動」を新聞記事の分析及び運動参加者の語りを通じて,考察を進めてきた。その際,本稿では,運動の発生の背景や運動の発展,成否に関わる要因など,様々な観点から考察を行った。その結果,「野口キック・ボクシング・ジム事件」は「日本製品不買運動」の前哨戦として位置付けることができ,ともに新聞のセンセーショナリズムの影響を一つの背景として,運動参加者を動員して行われたことが分かった。「野口キック・ボクシング・ジム事件」は日本主義的消費文化流入に対する反抗によって発生したと考えられる。一方,「日本製品不買運動」は,日本のタイに対する経済侵略をはじめ,様々な不安及び不満が重要な要因であったが,日本の投資家との相互作用的な関係を持つ軍事独裁政権に対する不満が日本に転移して表現されたと考えられる。そして,運動を展開する際に,ネットワーク,人的資源,知識的資源など,様々な資源が運動の成功に貢献した。これらの資源は,タイにおける民主化運動,学生運動の基盤作り,となったと考えられる。