- 著者
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野池 知枝美
飯野 由香利
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.59, 2016
1.研究の背景と目的<br><br> 住生活は生徒にとって身近なものであるが、日常生活において住環境を整えるのは主に家族であり、生徒は日頃あまり意識せずに生活を送っているのが現状である。そこで生徒の住生活への関心を高めさせ、家族との生活の中でも生徒が住環境を整えることができるように指導計画や指導方法の工夫を図りながら授業を進めた。具体的には、生徒間での「協働学習」や専門的な立場から科学的な視点に基づいた「講座」を実践し、家庭での追究活動を行った。<br><br>2.授業の内容<br><br>(1)住生活の学習における導入段階で、住まいの役割や働きを考える際に住生活への興味・関心を高め学習が進められるように、生徒間でのファシリテーションを実施した。グループ毎に住まいの役割や働きについて各自が付箋に記入した事項を分類した。さらに「健康に必要な物」、「過ごしやすさ」、「安全性」などの生活における快適な住まいの条件を考案し、ポスターを用いて発表した。<br><br>(2)考案した快適な住まいの条件の学習を基に、住まいの構造についてワークシートにまとめた。自分の家の見取り図を描き、自分の家にある空間や構造について見直し、快適な住生活を送る上で住まいに必要な基本的な構造や空間及び設備等を考えた。<br><br>(3)快適な住生活を送るために必要な基礎的な室内環境の整え方や家庭内の安全や災害への備えについて調べ学習を行い、ワークシートにまとめた。<br><br>(4)住生活における「涼しく・暖かく住まう」について、専門的な立場から科学的な視点に立ち、原理・原則を学ぶための体感型実験等を取り入れた「講座」を行った。生徒達は身体と周辺環境との科学的なかかわりを理解し、快適に住生活を送るための工夫の仕方を学んだ。「講座」の前後にアンケート調査を実施した。<br><br>(5)上記学習を通して、自分の家庭で快適に安全に住まうために実践できる「我が家の快適・安全プラン」の課題を2~3種類挙げて、ワークシート(計画表)を作成した。<br><br>(6)追究活動として、夏休みに家庭でワークシートに基づいて「我が家の快適・安全プラン」を実践した。実践後プランを評価し、家族からも実践の評価を得た。<br><br>(7)夏休み終了後の授業で、「我が家の快適・安全プラン」で実践したことを発表し合い、互いの実践内容を共有する「協働学習」を行った。なお、(4)と(6)以外の授業において、毎時間家庭科学習カードを用いて授業の振り返りと自己評価を行った。<br><br>3.結果<br><br>(1)家庭科学習カードにおける自己評価<br><br> 毎授業後に振り返りを記述することで、自身の学習の成果や次の学習に向けての課題を考えることができた。積極的に学習に取り組み、授業を通して知識や技術を習得でき、学習活動で創意・工夫することができた。生徒と家族の今後の生活での課題を見出し、生かそうとする傾向が見られた。<br><br>(2)「協働学習」における効果<br><br> 生徒間での「協働学習」を実施することで新たな視点を見出し、住生活に対し徐々に関心を持ちながら学習を進めていくことができた。実践内容を共有することで、生徒や家族の今後の生活の新たな課題や実践方法を見つけることができた。「協働学習」の有効性が示された。<br><br>(3)アンケート調査の結果<br><br>①住生活に関する情報源と興味及び住まい方の工夫<br><br> 約半数の生徒はテレビと家庭科の授業により住生活の知識を得ており、自身の生活と住生活との関連性を約83%の生徒が認めている。住生活への興味は約58%に留まっているものの、83%の生徒は「講座」前の学習からより快適な住まい方への関心を持っていた。<br><br>②「講座」の理解度と意識の変化<br><br>伝熱や気化熱の原理を学習して、人体と周辺環境との熱や水分のやりとりの仕組みについて70%以上の生徒が理解した。「講座」後に、住生活の学習が生活の向上にとても役に立つと思う生徒の割合が高くなった。住生活の学びは学習している現在や将来の快適な生活に生かすことができると74%以上の生徒が回答した。「講座」の実践を通して、生活を科学的にとらえることにより家庭実践に繋がることを確認できた。