著者
朴 容成 中川 一彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】超高齢社会を迎え医療ニーズが高まる一方,医療費抑制政策により病院経営破綻の問題が深刻化している。病院内のセラピストの影響力が増す一方で,医療環境の影響を受けセラピストの立場も変化してきており,今後はより責任ある対応が必要となってきている。今回我々はこれらの医療環境の変化を勘案し,法人と協同の上で病院経営の視点に立ち,売上実績,教育向上効果,組織力強化の評価からなる総合的な業績評価制度を導入し,「業務改善と働き易さ」にもたらす影響を検討した。【方法】期間はI期を業績評価制度導入前,II期を導入中6ヶ月,III期を導入後6ヶ月とした。検討は業績評価の大項目に準じ,①月間売上実績,②従業員満足度,③組織力評価で行った。項目は①月間売上,1日取得単位数,日当点,損益分岐や報酬点数の理論値と比較した月間売上目標達成率とした。②従業員満足度,③組織力評価はセラピスト28名に一部記述を含む選択方式のアンケートを行い調査・集計した。項目は,働き易さ,やりがい,職場の雰囲気,上司の信頼度,チーム力,人間関係,運営ビジョン,能力開発などの60項目である。【結果】①売上実績はII期がI期比較で23%増加,II期達成率が102%,III期がI期比較で32%増加,III期の達成率107%であった。1日取得単位数はII期がI期より1.1増加,III期がI期より1.6増加であった。日当点はII期がI期比較で24%増加,III期がI期比較で28%増加であった。アンケート回収率100%で,②従業員満足度の質問27項目中19項目に改善を認めた。③組織力評価では,チーム力:「集団であり組織ではなかった」から「規定形成期である」,人間関係:「不十分であるが良好であった」から「良好である」,運営ビジョン:「理解していなかった」から「理解している」,個人能力開発:「発揮できなかった」から「不十分であるが発揮している」に変化した。【結論】①売上実績はデーターを経時的に比較・公表することによりプラス効果をもたらした。②従業員満足度,③組織力評価は業績評価制度を運営しつつ地道な指導・面談,業務改善を12ヶ月間継続することにより有効に作用することが示された。業績評価制度の導入により評価基準が明確になり,実績主義はセラピストのコミットメントにつながった一方,年功序列職務機能の低下は一部の従業員に多方面のマイナス効果をもたらす可能性も示唆された。しかし,今回法人の理解が最大限に得られ,従業員満足度や組織力強化がモチベーションにつながった。部署に運営担当を配置することで現場主体の運営となり,コンピテンシー面談の顕在能力評価により年功から能力主義となり,労働環境の整備,知識技術への投資,役職ポストの拡大,専門性とマネジメントを機能分化したことによりプラス効果となった。以上,法人との協同による総合的な業績評価制度導入は業務改善と働き易さの改善に有効な施策と考える。

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