- 著者
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堀田 英莉
関 義正
岡ノ谷 一夫
齋藤 慈子
中村 克樹
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.29, 2013
ヒトの乳児の泣き声(crying)は,苦痛や空腹といった何らかのニーズを非明示的にあらわすシグナルであり,ほとんどの哺乳類の乳児は泣き声をあげることで養育者から養育行動を引き出すことができる(Gustafsonら,2000;Bard,2000).アカゲザルやチンパンジーなどヒト以外の霊長類でも,ヒトほど顕著ではないが,母親を含む養育者との身体的な分離が生じたときに,乳児は distress callやscreamを発する(Bard,2000).ヒト以外の霊長類において,乳児の泣き声への応答について調べた研究は未だ少ないが,ヒトを含めた霊長類の養育行動を明らかにするためにはヒト以外の霊長類の乳児の鳴き声への応答を調べることが重要である.コモンマーモセット <i>Callithrix jacchus</i>はヒトと似た家族を社会の単位とし,協同繁殖を行う.本研究では,コモンマーモセットの乳児の泣き声が父親及び母親個体の発声行動に与える影響について調べた.被験体には,コモンマーモセット 5頭(オス 3頭,メス 2頭,6.0 ± 1.6歳)を,乳児音声刺激として被験体の実子(1-7日齢)の泣き声を(乳児条件),成体音声刺激として同じ飼育室の異なるケージで飼育されている成体個体(オス 3頭,メス 3頭,3.6± 0.64歳)の音声(phee call)を使用した(成体条件).また比較のため,無音刺激を用いた(無音条件).実験では,防音箱内に設置したテストケージへの 15分間の馴化を行ったあと,刺激提示前 5分間と刺激提示中の 5分間,刺激提示後 20分間の発声を録音した.時間と条件の 2要因について分散分析を行った結果,乳児条件では成体条件や無音条件と比較して,刺激提示終了後から 10分間にわたって発声頻度が上昇することがわかった(F = 3.543, df = 10/40, p < .01).今後は,乳児の鳴き声を聞いた親個体の神経系の応答やホルモン変化を調べ,泣き声の養育行動へ与える影響について調べたい.