著者
古屋 辰郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

<b>問題の所在</b> <b> </b>2011年に発生した東日本大震災やタイ・チャオプラヤ川における大洪水の発生により,製造業の生産活動において緊急時を想定したリスク管理の重要性が高まっている.特に,JITシステムをはじめとした在庫削減を指向した取り組みは脆弱性を露呈した.生命関連性を有する特性上,いかなる欠品も許されない医薬品においても,供給・在庫に関して効率化が進められていた. そこで,本研究では,大手製薬企業3社を事例として製薬企業における工場と物流センターの立地変遷に着目し,有事に対する製薬企業の意識との関連性と非常時における医薬品備蓄に関する優先度の意思決定を検討したうえで,医薬品流通構造における非常時の代替流通経路を明らかにすることを目的とする. <b>対象企業と分析方法</b> <b> </b>研究対象企業として選定したA社(同族経営企業)・B社(経営統合により発足)・C社(外資系企業)の3社はいずれも売上高が国内10位以内に入る大手製薬企業であり,それぞれ企業の性格・企業体質が異なった企業である.分析方法は対象企業の社史,新聞記事,有価証券報告書,IR資料を用いて工場・物流センターの立地変遷や分業体制を明らかにし,聞き取り調査で非常時に対する対象企業の意識と非常時における代替流通経路についての考察をおこなった. <b>分析結果</b> 対象企業3社それぞれの工場・物流センターの立地変遷を考察した結果,それぞれの企業で集約・分散などに異なる傾向が生じた.具体的には,(A社):工場・物流センターともに諸施設の閉鎖移転を伴う効率化が行われていない,(B社):生産量拡大のために工場の積極的な設置と近接工場間で間接部門(工場の管理部門)の統合による工場の集約化・1990年代における物流センターの東京・大阪2拠点への集約,(C社):特定の生産品目に関する設備の増強・一般医薬品(ドリンク剤,医療機関・処方せんを介さず流通する商品)を生産する工場の閉鎖である. 非常時における医薬品備蓄に関する優先度の意思決定に関して,3社それぞれ異なる傾向がみられた.聞き取り調査から明らかになったことは,3社とも非常時の際は医薬品卸との連携を図っていることである.近年,製薬業界においても「物流業の外部委託」,「医薬品の直販」が注目されているが,東日本大震災において「輸送手段の奪い合い」や「情報の混乱」が生じたため,対象企業3社に関しては医薬品供給において安全性を最重視しているといえる.非常時における医薬品代替流通経路の構築に関しては,生産ラインの切替えなど水平的な連携が最も重視されているといえる.

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