著者
大貫 靖浩
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

演者は現在まで、さまざまな地形・地質・気候条件下における森林土壌を観察する機会を得てきた。森林土壌が斜面のどの位置でどのくらいの厚さを有し、どのような物理的性質(例えば容積重、孔隙率、レキ量)を持つかについては、森林土壌学の分野では系統だった研究は行われてきていないが、微地形分類を切り口にすると明瞭な区分が可能であることがわかってきた。本発表では微地形分類に基づく森林土壌の物理特性に関する研究成果について、北関東と沖縄で行った実例を紹介したい。<br> 調査地は茨城県城里町の桂試験地、および沖縄県名護市の南明治山試験地である。両試験地ともにいわゆる「低山帯」に位置する小流域で、桂試験地は中古生層の頁岩・チャート等の上に関東ローム層が堆積し、乾性~湿性の褐色森林土が分布している。これに対し南明治山試験地は、第三紀層の砂岩・泥岩等が基盤となり、一部でレスが堆積し、赤色土・黄色土・表層グライ系赤黄色土が分布している。<br> 桂試験地(2.3ha)では、682地点を測点とした地形測量によって精密地形図を作成した後、571地点で土研式簡易貫入試験を実施し、10地点で土壌断面調査を行った。桂試験地においては斜面中腹を限る形で明瞭な遷急線が確認でき、遷急線の上側には頂部斜面・痩せ尾根頂部斜面・上部谷壁斜面・上部谷壁凸斜面・上部谷壁凹斜面が、下側には谷頭斜面・谷頭急斜面・谷頭凹地・下部谷壁斜面・下部谷壁凹斜面・麓部斜面・小段丘面・谷底面が分布する。土層厚は痩せ尾根頂部斜面・上部谷壁凸斜面を除く遷急線上側の各ユニットと、谷頭斜面・谷頭凹地で厚いことがわかった。 <br> 土壌の物理特性は遷急線を境に明瞭に異なり、遷急線より上方の斜面では上部谷壁凸斜面を除き容積重が小さく、全孔隙率が高く、レキ量が非常に少ないのに対し、遷急線下方の斜面では容積重が大きく、全孔隙率が低く、レキ量が比較的多いことが明らかになった。保水機能に寄与する有効孔隙率は、遷急線より上方の頂部斜面で特に高い値を示すのに対し、遷急線下方の斜面では低い値を示し、レキ量の多寡が有効孔隙率に影響を及ぼしていると考えられた。<br> 南明治山試験地(1.0ha)では、130地点を測点とした地形測量によって精密地形図を作成した後、99地点で土研式簡易貫入試験を実施し、9地点で土壌断面調査を行った。南明治山試験地においては、明瞭な遷急線は上部谷壁斜面および谷頭凹地と下部谷壁斜面の境界に確認でき、遷急線の上側には頂部平坦面・頂部斜面・上部谷壁斜面・谷頭凹地が、下側には下部谷壁斜面および谷底面が分布する。土層厚は頂部平坦面および谷頭凹地で厚い。 土壌の物理特性は微地形および土壌型によって明瞭に異なり、頂部平坦面に分布する赤色土は容積重が大きく、全孔隙率が小さいが、飽和透水係数は比較的大きい。頂部平坦面・頂部斜面に分布する表層グライ系赤黄色土は、容積重がA層でも1.0Mgm<sup>-3</sup>を超え、全孔隙率・飽和透水係数ともに小さい。上部谷壁斜面・谷頭凹地に主に分布する黄色土は、赤色土・表層グライ系赤黄色土と比較して特にB層の容積重が小さく、全孔隙率・飽和透水係数が大きかった。土壌侵食危険度の指標となる粘土比と分散率は、赤色土・表層グライ系赤黄色土で高く、黄色土で低かった。

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