著者
山本 敦久
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.19-34, 2016

<p> 本論は、支配の完全な外部を想定できない諸条件のなかで、「スポーツを通じた抵抗」を見いだすための視座について論じている。そのために、まず英国の産物であるクリケットが反植民地闘争の現場になっていく過程を描いたC.L.R.ジェームズの『境界を越えて』を読み解きながら、そこで提示されたスポーツの抵抗理論を概観する。ジェームズにとってスポーツは、国境や文化ジャンルを越えて別の歴史や場所、別の文脈や記憶と繋がりなおすことによって新しい集合性が想起される契機を含むものであった。次に本論はジェームズのこうしたスポーツ論が後のバーミンガム学派に受け継がれていく回路を再発見していく。スチュアート・ホールのポピュラー文化へのまなざし、ポール・ギルロイの「黒い大西洋」、ポール・ウィリスの「象徴的創造性」といった議論を踏まえながら、現代のカルチュラル・スタディーズのスポーツ研究における抵抗理論を検証していく。そうした思考は黒人アスリートの活躍が形成したアウターナショナルな黒人ディアスポラの連帯を論じたベン・カリントンの「スポーツの黒い大西洋」として結実するが、それはスポーツを通じた国民国家の境界線を越えていく複雑な文化的・政治的空間の形成であった。だがそうした対抗的公共圏は、近代資本主義のなかにその一部として生み出されたものでもある。これらの議論をふまえ、本論は最後に、スポーツ文化が資本主義や近代社会、帝国主義といった支配の内部で、その支配的な力や回路を通じて、別の公共圏や別の集合性へと節合される契機を掴まえるための視座を提起する。</p>

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