- 著者
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田中 由美子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.58, 2015
<b>【背景と目的】</b><br><br>2005年、OECDが『DeSeCo』プロジェクトの中で提案した3つのキーコンピテンシーにより、日本の教育政策における学力の捉え方に変容が見られたといわれる。これは、今日的な教育目標とされる能力概念を示しており、社会で必要とされ、これからの社会で生きる子どもたちに身につけさせたい能力である。<br><br>一方、社会問題と捉えられる状況の渦中にいる子どもたちには、その状況から救済する視点での教育も考えなければならない。例えば、ネット・スマホ依存症、貧困などである。これらに陥らない予防策を学校教育の内容に導入することは、人生をよりよく生きていくために必要である。<br><br>ところで、家庭科教育での目標・学びと、今日的な教育目標は重なる部分が多い。言い換えれば、家庭科での学びを有意義なものにすることで、社会で生きるために必要な能力の多くを培えるということである。そこで、本研究の目的は、今日的な教育目標と、社会問題の予防策という両面からアプローチした教育内容・教材を提案することとした。<br><br><b>【方法】</b><br><br>1.OECD(2005) DeSeCoから、キーコンピテンシーのカテゴリー及び下位カテゴリーの抽出<br><br>2.青少年のインターネット利用環境(状況)実態調査及び、ネット・スマホ依存症に関する先行研究から、その原因の抽出<br><br>3.貧困の連鎖を回避する要因の抽出<br><br>4.2.3.を予防するための手法として認知行動療法等からの知見を援用し、予防に留まらずキーコンピテンシー育成を目指した教育内容・教材の考案<b></b><br><br><b>【結果】</b><br><br>青少年のインターネット利用環境(状況)実態調査より「規則正しい生活がなされていない」という実態が窺えた。 また、先行研究として、日本の大学生のインターネット依存傾向測定尺度作成を試みた鄭は、ネット依存傾向の問題点を分類すると①「欲求抑制・自制心の欠如」、②「時間管理能力の不足」、③「コミュニケーションスキルの不足」の3点とみなすことができる。<br><br>これらを解消する手法として「認知行動療法」を援用することを考えた。その手法の中での「気づき」をきっかけに「発見」「思考」「実践」「省察」「修正」と発展的拡張を可能にし、より良い成長、自己実現が可能になる。<br><br>また、適切で有意義な社会生活を送るには、自己のありのままの感情や欲求を自制(コントロール)することが必要であり、その第一歩は、それらを客観的にとらえ、望ましい状況・感情と比較・意識(モニター)することを要する。この一連の思考様式は、メタ認知である。<br><br> ネット・スマホ依存症、及び貧困の連鎖を予防するだけでなく、生活上の思考様式・行動様式をより自律性の高いものとするため、それを身につけた人材育成を目指した教育内容・教材に取り入れることを考え、下記項目を設定した。<br><br>1.生活時間を記録し、振り返り、気づき・満足度を記入する。<br><br>2.上記1.に改善点・向上点(できるようになったこと)も記入させ、自己効力感向上とモチベーション保持を行う。<br><br>3.やらなければならないことをリストアップし、優先順位を決め、時間を逆算し、予定を立てるスキルを身につけさせる。<br><br>4.予定を立てる際、上手くできたとき、できなかった時をイメージするトレーニングを行い、悪循環を自分で断ち切れる自己管理能力を身につけさせる。<br><br>5.他者とのコミュニケーションを行う際、ストレスを感じにくくするための主張行動スキルを身につけさせる。<br><br>今後は、本研究において作成した教材を教育現場において実践し、教育効果の測定を行う。<br><br>