著者
アコマトベコワ グリザット
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1. 目的 <b><br></b>&nbsp;キルギス国有財産管理局の所有である温泉施設オーロラは, 一年中営業し温泉や泥治療を提供している. 夏季にはイシク・クル湖で湖水浴をすることもできる. オーロラのソ連時代の正式名称は,「ソ連共産党中央委員会管理部門所属サナトリウム-イシク・クル湖」であった. 一般人はオーロラの敷地内に入ることすらできなかった. しかし, 1991年のソ連からの独立と国家の体制転換に伴い, オーロラの利用者も変化していった. 本研究は, 社会主義時代と資本主義化以降のオーロラの利用や利用者の属性(集客圏,年齢,性別,職業)および温泉施設での利用形態や利用時期を明らかにすることを目的とする. <br>2. 研究の手続き&nbsp; <br>&nbsp;まず, オーロラ滞在者のソ連時代1989年12月~1990年12月末(1543人)および独立以降の2011年(342人)の「診療・処方カルテ」の分析を行う. 次に, 利用者と温泉施設スタッフへのインタービュー調査や参与観察を分析する. そして, オーロラの過去と現在を照らしわせ,キルギスの観光への影響を考えたい. <br>&nbsp;3. 結果&nbsp; <br>&nbsp;ソ連時代オーロラリゾートの最多滞在者は, ロシアからの滞在者691人(44.8%)であり, オーロラへのバウチャー配給は, モスクワにおいて決定されたが, 原則として全ソ連の地域別面積に比例して配布されていた. <br>&nbsp;オーロラリゾートでは, ソ連時代, 共産党員が温泉や泥治療等を受けていた.しかし, 党員の党内階級レベルにより訪問時期が異なっていた. オーロラに滞在した共産党の書記官115人を所属階級別に分けた結果, 中央の書記官は100%が多客期の夏に滞在しており, 「特権」を利用していたことが伺われる. 一方, 地方レベルの書記官とソフホーズとコルホーズの書記官の多くは, 冬に滞在するという傾向があった. <br>&nbsp;ソ連からの独立後は, オーロラは一般解放されたため, 職業・地位に関係なく利用者が訪れている. しかし, 料金設定が高いため, 滞在できるのは高所得者に限定されている. しかし, 高所得者以外も外来診療で「オーロラ」の温泉治療・泥治療や理学治療を受けることができ, さらにオーロラの湖畔も利用可能である.&nbsp; <br>&nbsp;以上のように, 社会体制の転換は, 温泉施設利用の変化にも影響を与えている. 具体的には, 旧ソ連時代, オーロラは社会主義エリート限定の健康管理施設であったが, 資本主義化に伴って富裕層を中心に国民一般のためのリゾート施設になった. このように社会体制の転換が, それまでの健康管理施設をリゾート施設に変化させることが, ポスト社会主義国の観光の特徴と考えてよいであろう. &nbsp; <br>

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