著者
安部 真理子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1.はじめに 沖縄島・名護市東海岸の辺野古・大浦湾にはサンゴ礁、海草藻場、マングローブ、干潟、深場の泥地といったタイプの異なる環境と地形が存在し、生物多様性を支えている。国の天然記念物であり絶滅危惧種絶滅危惧IA類(環境省)であるジュゴンと餌場である海草藻場をはじめとし、2007年にその存在が発見されたチリビシのアオサンゴ群集、長島の洞窟など、この海域全域におよび生物多様性が高く、複数の専門家(黒住ら 2003、藤田ら2009)が述べているように、今後も新種や日本初記録、ユニークな生活史を持つ生物が多発見される可能性が高いことが示唆されている。 2.       環境アセスメント(環境影響評価)の問題 本事業に伴う環境アセスは、2012年2月に仲井真元沖縄県知事が「環境保全は不可能」と断じたほど、科学的に大きな問題があり、住民参加や情報の透明性という観点からも多くの問題が存在した。しかしながら2013年12月に仲井真県知事の手により、正反対の判断が下され、公有水面埋立申請が承認された。 3.       環境アセスメントの対象とならない埋立土砂 環境アセスの段階では埋立土砂の調達先については示されなかったものの、公有水面埋立手続きの段階になり、初めて埋立土砂の具体的な調達先が明らかにされた。160 ヘクタールの埋立てに2,100 万立方メートルの土砂が使用される。この量は10 トントラック300 万台以上の土砂に相当する。以下に、4つの問題について指摘する。a)埋立土砂調達予定先の環境への影響、b)土砂運搬船とジュゴンとの衝突の可能性、c)海砂採取により嘉陽の海草藻場への影響が生じる可能性、d)埋立土砂に伴う埋立地への外来種の移入。 4.       情報の隠ぺい、後出し 環境アセスの期間においても、公有水面埋立申請書の段階においても、環境に大きな影響を与える工事について、情報の隠ぺいおよび後出しが行われている。 5.       環境アセス後に判明した科学的事実の軽視 昨年5~7月に自然保護団体が行ったジュゴンの食痕調査により、ジュゴンがこれまで以上に高い頻度で埋立予定地内および周辺を餌場として利用していたことが解明された。このようにジュゴンが採餌域を拡大し、大浦湾の埋め立て予定地内および周辺を利用することは、環境影響評価が行われた時点では予測されていなかったことである(日本自然保護協会 2014年7月9日記者会見資料)。しかしながら事業者は事業の中断および変更は行っていない。 4.環境保全措置の問題点 環境影響評価書(補正後)には環境保全措置が書かれているが、公有水面埋立承認が下りてから埋立工事が開始されるまでの「調査期間」には、その保全措置が適用されない。着工前の調査の時点でも、厳重な保全措置が取られるべきである。つまり着工前に影響を与える行為をしながら、事後に保全措置を取っても意味がない。 5.       おわりに 辺野古・大浦湾はIUCNが3度にわたる勧告を出しているほどの貴重な自然であり、沖縄のジュゴン個体群は、世界のジュゴンのなかで最も北限に位置する重要なものである。日本が議長国をつとめた2010年に採択された愛知ターゲット目標10「脆弱な生態系の保全」と目標12 「絶滅危惧種の絶滅・減少を防止する」を守れない事業を進めることは国際的にも許されないことである。

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こんな論文どうですか? 自然保護問題としての辺野古のサンゴ礁埋め立て(安部 真理子),2015 https://t.co/vWGGVAkTFV
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