著者
湯浅 資之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.123-132, 2017

<p><b>目的</b> 1945年第二次世界大戦に敗戦した日本では,終戦直後から1960年代半ばまでの20年間に,乳児死亡の激減や平均寿命の延伸など特筆すべき健康改善がみられた。まだ経済的に貧困状況にあった日本とりわけ郡部では,なぜ短期間の内に国民の健康水準を劇的に高めることに成功したのであろうか。その理由としてこれまで政府主導の公衆衛生政策の寄与が強調されてきたが,その他の政策介入による検討は極めて限られてきた。そこで本稿では,地域保健医療政策に加え,非保健医療領域の政策介入が健康改善に寄与したと考えられる仮説を文献考証により検討した。</p><p><b>仮説の検討</b> 戦後日本の劇的健康改善は,さまざまな省庁による多様な政策が相乗的に広範な健康決定要因に介入した結果によってもたらされたと考えられる。厚生省は地域保健医療事業を実施し,母子死亡や結核死亡の低減に直結する保健医療サービスを提供した。農林省は生活改善普及事業を実施して個人や家族のライフスタイルの変容,生活・住環境の改善,社会連帯の強化を促した。また農業改良普及事業により農家の安定経営を促進し,健康的な生活の保障に必要な家計の確保を図った。文部省は社会教育事業を実施して民主主義や合理的精神の普及に努め,人々の迷信や前近代的風習を打破して健康的生活を促すヘルスリテラシーの醸成に寄与した。</p><p><b>結論</b> 公衆衛生政策だけではなく,生活,経済や教育など広範囲な健康決定要因を網羅した各種政策が実践されたことではじめて,戦後日本の健康改善が短期間に達成できたと考えられた。この過程をより詳細に検討することは,まだ貧困にあえぐ開発途上国支援の方策を検討することに寄与し,また財源縮小に直面する今日の日本においても人口減少・高齢化対策に対して社会保障の充実以外の選択肢を検討するうえで貴重な示唆を提供してくれると思われる。</p>

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