著者
湯浅 資之 上野 里美 谷山 洋三 吉武 尚美 岡部 大祐 アウン ミョーニエン
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

脳の電気化学反応で生じるメンタルヘルスと異なり、生きる意味や人生の目的を質的に認知するスピリチュアルヘルス(SH)は、WHOも健康の定義へ加えることを討議しているが、SHに関する国民の共通理解も無い日本など慎重な国の棄権により追加は見送られている。独自の死生観を持つ日本人に適合したSHとは如何なるものか。本研究者らはその問いに対し「生き方を自己選択すること」との仮説を立て、本研究でこれを実証する。海外の文献を検討してSHの定義と分類、測定法を整理し、アジアや日本でSHに対する意識調査を行い、科学的かつ学際的見地から日本人に適合するSHの定義仮説を検証し、結果を普及するための書籍化を目指す。
著者
湯浅 資之 白山 芳久
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.146-152, 2014 (Released:2015-01-13)
参考文献数
2

目的:人々の健康は経済・社会・政治・環境など様々な社会的決定要因(Social Determinants of Health)に影響を受けることから,健康問題の解決や健康格差の解消には保健医療以外の分野との幅広い協働が必要とされる.IUHPE世界大会2013において社会的決定要因について発表された演題を紹介し,研究の最新動向を紹介することを目的とする.方法:同大会において配布された演題抄録集から,「社会的決定要因(Social Determinants)」を主題に含む27の演題を分析の対象とし,英文抄録をもとにその研究内容を紹介した.結果:演題はエリア別で見るとアジア5ヵ国(17題),北中南米3ヵ国(5題),欧州4ヵ国(4題),そしてオーストラリア1題と計13ヵ国から報告があった.例えば,タイでは,社会的決定要因に対処するために,病院・行政・コミュニティから成る組織を形成し取り組んだ.カナダでは公衆衛生関係者,医師,疫学者,研究者らを全国から集めワークショップを積み重ね,対処の方法を模索した.フランスやオランダの事例では,公共政策を健康の社会的決定要因に配慮した政策へと転換するために,行政への継続的な働きかけや代替オプションの具体的提示が重要だと報告された.結論:健康の社会的決定要因介入の具体策として,立場が異なる人々による話し合いの積み重ねや,行政への継続的な働きかけ,エビデンスの蓄積の必要性が強調された.
著者
湯浅 資之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.123-132, 2017 (Released:2017-03-30)
参考文献数
46
被引用文献数
1

目的 1945年第二次世界大戦に敗戦した日本では,終戦直後から1960年代半ばまでの20年間に,乳児死亡の激減や平均寿命の延伸など特筆すべき健康改善がみられた。まだ経済的に貧困状況にあった日本とりわけ郡部では,なぜ短期間の内に国民の健康水準を劇的に高めることに成功したのであろうか。その理由としてこれまで政府主導の公衆衛生政策の寄与が強調されてきたが,その他の政策介入による検討は極めて限られてきた。そこで本稿では,地域保健医療政策に加え,非保健医療領域の政策介入が健康改善に寄与したと考えられる仮説を文献考証により検討した。仮説の検討 戦後日本の劇的健康改善は,さまざまな省庁による多様な政策が相乗的に広範な健康決定要因に介入した結果によってもたらされたと考えられる。厚生省は地域保健医療事業を実施し,母子死亡や結核死亡の低減に直結する保健医療サービスを提供した。農林省は生活改善普及事業を実施して個人や家族のライフスタイルの変容,生活・住環境の改善,社会連帯の強化を促した。また農業改良普及事業により農家の安定経営を促進し,健康的な生活の保障に必要な家計の確保を図った。文部省は社会教育事業を実施して民主主義や合理的精神の普及に努め,人々の迷信や前近代的風習を打破して健康的生活を促すヘルスリテラシーの醸成に寄与した。結論 公衆衛生政策だけではなく,生活,経済や教育など広範囲な健康決定要因を網羅した各種政策が実践されたことではじめて,戦後日本の健康改善が短期間に達成できたと考えられた。この過程をより詳細に検討することは,まだ貧困にあえぐ開発途上国支援の方策を検討することに寄与し,また財源縮小に直面する今日の日本においても人口減少・高齢化対策に対して社会保障の充実以外の選択肢を検討するうえで貴重な示唆を提供してくれると思われる。
著者
湯浅 資之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.123-132, 2017

<p><b>目的</b> 1945年第二次世界大戦に敗戦した日本では,終戦直後から1960年代半ばまでの20年間に,乳児死亡の激減や平均寿命の延伸など特筆すべき健康改善がみられた。まだ経済的に貧困状況にあった日本とりわけ郡部では,なぜ短期間の内に国民の健康水準を劇的に高めることに成功したのであろうか。その理由としてこれまで政府主導の公衆衛生政策の寄与が強調されてきたが,その他の政策介入による検討は極めて限られてきた。そこで本稿では,地域保健医療政策に加え,非保健医療領域の政策介入が健康改善に寄与したと考えられる仮説を文献考証により検討した。</p><p><b>仮説の検討</b> 戦後日本の劇的健康改善は,さまざまな省庁による多様な政策が相乗的に広範な健康決定要因に介入した結果によってもたらされたと考えられる。厚生省は地域保健医療事業を実施し,母子死亡や結核死亡の低減に直結する保健医療サービスを提供した。農林省は生活改善普及事業を実施して個人や家族のライフスタイルの変容,生活・住環境の改善,社会連帯の強化を促した。また農業改良普及事業により農家の安定経営を促進し,健康的な生活の保障に必要な家計の確保を図った。文部省は社会教育事業を実施して民主主義や合理的精神の普及に努め,人々の迷信や前近代的風習を打破して健康的生活を促すヘルスリテラシーの醸成に寄与した。</p><p><b>結論</b> 公衆衛生政策だけではなく,生活,経済や教育など広範囲な健康決定要因を網羅した各種政策が実践されたことではじめて,戦後日本の健康改善が短期間に達成できたと考えられた。この過程をより詳細に検討することは,まだ貧困にあえぐ開発途上国支援の方策を検討することに寄与し,また財源縮小に直面する今日の日本においても人口減少・高齢化対策に対して社会保障の充実以外の選択肢を検討するうえで貴重な示唆を提供してくれると思われる。</p>
著者
岸 玲子 吉岡 英治 湯浅 資之 佐田 文宏 西條 泰明 神 和夫 小林 智
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

いわゆる化学物質過敏症を疑って札幌市内1医院を受診した患者全員(30人)に基本調査票の記入を依頼し、男性2名を含む26名から回答を得た。平均年齢は44.5歳、発症からの経過年数は2-5年が10人、発症時と比べて症状が悪化した11名、症状頻度が増加した13名だった。ドイツのBeilerらが開発した化学物質過敏症尺度(IEI尺度)を用いた結果、主訴は「においを強く感じる、頭痛、集中力の低下、疲労感、眠気」であり、原因物質は「ある種の香水、塗料または希釈液、タバコや葉巻、ガソリンのにおい、整髪料、マニキュア」だった。化学物質曝露による「健康状態、職場や学校での能力、余暇、家庭生活、身体的能力」への影響の有訴が高かった。この結果、先行研究同様に本研究対象者にとってもいわゆる化学物質過敏症は複数の身体症状が長く続く状態であるといえた。このうち同意が得られた18名(内男性1名)に芳香療法(アロマセラピー)の介入を、無作為化クロスオーバー比較試験として実施した。IEI尺度、および不安尺度については、介入期間前後と対照期間前後の得点差には統計学的有意差は見られなかったが(p>0.05)、各回のアロマセラピー前後では気分尺度の6つ全ての下位尺度に有意な改善が認められた(p<0.05)。化学物質過敏症は臨床的な疾病概念が定義されていない。しかし患者にとって身体症状は事実であり、症状コントロールが必要であるにもかかわらず、現在までに有効性が示された療法はない。本研究は化学物質過敏症へのアロマセラピーの効果を初めて検討した。対象者数が少なく、アロマセラピー介入による症状改善効果は本研究では明らかにならなかったものの短期には気分の改善が認められ、対象者の多くは機会があればこれからもアロマセラピーを受けたいと答えたことから、本研究の課題を改善することでさらなる研究の可能性が示唆された。