著者
寄本 恵輔 有明 陽佑 早乙女 貴子 小林 庸子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【背景】</p><p></p><p>進行性神経筋疾患の呼吸筋力低下による呼吸障害に対して,気道クリアランスの維持のため最大強制的吸気量(MIC)の維持は重要であり,また,MICを測定することは胸郭柔軟性の把握に役に立つ。しかし,筋萎縮性側索硬化症患者(ALS)では球麻痺や気管切開などにより息溜めができない場合,MICの測定が困難となり,胸郭柔軟性の把握が困難となる。</p><p></p><p>【目的】</p><p></p><p>ALS患者に息溜め機能を有する機器を用いた最大強制吸気流量(LIC)測定について検討する。</p><p></p><p>【対象】</p><p></p><p>当院にて2013年4月から2016年7月までに呼吸理学療法を実施したALS患者20名。また,長期評価対象者として,5名を抽出した。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>簡易流量計と簡易マスクを使用し肺活量(VC)を測定,気管切開の場合はflection tubeを用いた。MIC,LICの測定はバックバルブマスク(BVM)を用い,LICにおいては当院で作成したLIC機器を付け加えた。MIC,LICはBVMで送気を1~3回行い,マノメーターで安全管理し,本人が我慢できる最大限界圧時の吸気量として測定した。MIC,LICにおいて,VC以上の換気量が得られたとする基準は,VCより10%以上増加することとした。また,呼吸理学療法開始時のLICとMICの換気量を比較し,統計学的有意差の有無を確認するため換気量に正規性を確認した後に対応のあるT検定を行い,平均値の差は0.05水準で有意とした。さらに,経時的に評価が確認できた症例に対し,VC,MIC,LICの値を抽出した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>20名中MICの測定が可能であった症例は9名であり,VC以上の換気量が得られた症例は2名であった。その一方でLICは全例測定が可能であり,全例ともVC以上の換気量が得られた。また,MICと比較しLICは有意に換気量が増加した(t値-7.006,p<0.01)。経時的評価ではVC,MICは測定困難となったがLICは球麻痺の症状の悪化や気管切開後においても評価が可能であった。</p><p></p><p>【考察】</p><p></p><p>ALSの呼吸障害は呼吸筋麻痺に伴う換気障害であり,胸郭柔軟性が低下し,肺実質の柔軟性が低下することで排痰ケアを難渋にする。本研究よりLICは,ALSの全病期において胸郭柔軟性の評価が可能であることが示された。つまり,これまで球麻痺症状や気管切開後における人工呼吸器装着期による胸郭柔軟性低下に対する評価は困難であったが,LICの測定が可能となることでALSの呼吸障害の病態像を胸郭柔軟性という視点で捉えることが可能となった。LIC測定は誰もが同じ水準で実践できる呼吸理学療法になるものと考えている。</p><p></p><p>【展望】</p><p></p><p>ALS患者個人がLICを在宅で実施出来るようにするために2014年より機器開発委託メーカーと共同し,LIC TRAINERを作成した。本製品の特徴は,LIC測定機能に加え,機密性が向上し,患者自身でエアリークをコントロールできる呼気弁があること,高圧がかかった際に除圧する安全装置が内蔵されている。2016年3月PMDAより医療機器として受理,同年5月に特許出願(共同出願),同年9月に商標登録申請,販売が開始された。</p>

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