著者
田邉 裕
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

1 地名問題の現状<br><br>1967年以来、国連は国連地名標準化会議(UNCSGN)を開催し、国境領土の変動、少数民族文化の尊重、旧植民地の解放に伴って内生地名の外来地名に優先する原則を主導し、各国に地名標準化の行政機関の設置を勧告し、国連地名専門家会合(UNGEGN)を設置し、研究・勧告を続けている。世界の主要国は地名標準化委員会を持っているものの、日本には地名標準化の行政機関は存在しないため、日本学術会議ではその設置の提案を検討している。<br><br>国内の地名は国土地理院および海上保安庁が現地調査あるいは地方公共団体の申請を受けて、調整決定し、地図・海図に記載するものもあるが、事実上各地方自治体が歴史的地名として継承し、住居表示に関する法律、行政区画の変動、地域計画・開発によって、変更し決定する。各省庁は地名問題に独自に対応し、国家的な標準化を図る機関は存在しない。地名は国民全体の文化的歴史的共有財産であるにもかかわらず、地方自治体や私企業がその所有者のように振る舞い、命名権を行使する場合の地名表記に関わるガイドラインはない。<br><br>地名表記には漢字・ひらがな・カタカナ・Romajiなど、方式は多様であり、表記の標準化を図る機関の存在が欠如して、教育現場や観光への影響も大きい。加えて確立した唯一の呼称に別称を国際的に要求されることもあり、地名呼称の総合的管理が必要である。<br><br>外国の地名は慣例を除き現地読みが原則であるが、英語読みもあり、現語が当該国の公用語と異なる少数民族への対応は標準化されていない。漢字使用国以外はカタカナあるいはラテン文字表記であるが、中国地名は漢字・英語読みや広東語読みやピンインの仮名書きが不統一である。外国地名は、外務省の読みを多くの部局が採用しているが、標準化されているわけではなく、諸外国との交易に携わる私企業・出版界や教育界などが用いるものも統一されているとは言い難い。<br><br>2 具体的提案<br><br>(1)地名委員会(Japan Committee on Geographical Names)の設置<br><br>地名委員会を行政府内に設置することを提言する。同委員会は、国内地名と日本で用いる外国地名を統合管理(命名・改名・呼名・表記を含む)し、諸省庁・地方公共団体・民間などで地名を使用するガイドラインを作成し、地名表記と呼称とを標準化する行政の責任機関とする。また外国に対して日本の地名を周知し、外国語表記の標準化を進め、外国語を用いた国内地名の評価・指導、場合によっては廃止などの許認可を行い、対外的には地名ブランドの保護、日本海呼称問題など外国との地名呼称問題などに総合的に対応する。<br><br>(2) 地名専門家会議の設置<br><br>地名委員会の下に地名専門家会議を設置し、地理学・地図学・言語学・歴史学などの専門家や総務省(統計局を含む)・外務省・国土交通省(国土地理院・海上保安庁を含む)・文部科学省・防衛省などの関係省庁の協力を得て、ガイドラインの作成、国内外における地名収集を進め、その呼称と表記を研究し、学術的技術的分野を支援して、地名の教育・使用・標準化に関して国家として地名の最終的承認・廃止・改正を地名委員会に勧告する。<br><br>(3) 国際的対応の強化<br><br>国連地名標準化会議関連の諸会議及びIGU/ICA共同地名研究委員会など地名に関わる国際的諸会議に、関係機関と協力して多くの国々と同程度の数名の地名専門家を派遣し、世界の地名問題に対応する。特にUNGEGNへの専門家の派遣は必須である。<br><br>(4) 地名集(Gazetteer)の作成<br><br>諸外国ですでに出版されている地名集や歴史地名を含めたデータベースを日本でも作成し、国内では教育やジャーナリズムの分野で使用する地名を標準化し、国外には日本の地名の呼称・表記のガイドラインを提示して、地名の統合管理を行う。<br><br>(5) 地名委員会並びに地名専門家会議設置のための研究会の設置<br><br>以上の(1)〜(4)の実現のための準備作業を行う地名問題研究会を行政府内に設置し、喫緊の課題を処理する。

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