- 著者
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宮西 孝則
- 出版者
- 紙パルプ技術協会
- 雑誌
- 紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.3, pp.305-311, 2017
- 被引用文献数
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<p>最初の高濃度オゾン漂白設備は1992年にUnion Camp社Franklin工場(バージニア州,米国)で稼働し,C-Free<sup>®</sup>という商標で登録された。パルプはpHを調整してから40%濃度まで脱水され,フラッフィングしてからパドル付の大気圧オゾンリアクターに送られる。現在の高濃度オゾン漂白設備は,C-Free<sup>®</sup>よりも遥かに簡素化されたバルメット社のZeTrac<sup>TM</sup>が採用されている。オゾンとパルプとの接触時間は1分と非常に短く,オゾンリアクターを小型化し滞留時間は5-10分で設計されている。プラグスクリューフィーダー,レファイナー型フラッファー,アルカリ抽出段前の洗浄機は全て不要になり,投資金額,エネルギー消費量,設備保守費用,排水量が著しく減少した。高濃度オゾン漂白に続くアルカリ抽出(パルプ濃度11-12%)の反応時間は5-10分で,通常のアルカリ抽出(60-90分)とほぼ同等の効果が得られる。オゾンリアクター出口で濃度38-42%のオゾン漂白パルプをアルカリで直接希釈する。アルカリは拡散時間を長くとらなくても直ぐに繊維の中心部に到達し,オゾン漂白で酸化された物質を直ちに溶解する。続いてプレス洗浄機でパルプを脱水し,溶解した物質を除去する。このように高濃度オゾン漂白では,アルカリがパルプに素早く浸透して酸化物を溶解し,直ちにプレス洗浄機で除去するのが特徴である。アルカリを繊維内部に拡散させるための長い浸透時間が不要で,新設する場合,アルカリ抽出タワーの建設費を節約できる。高濃度オゾンECF漂白パルプ及び紙製品の品質,抄紙機の操業性は,塩素漂白時と比べて目立った変化はなく,ほぼ同レベルである。ヘキセンウロン酸(HexA)はほぼ完全に除去でき完成パルプ中にHexAが殆どないLBKPが得られ,紙製品の退色については全く問題ない。排水中のAOX並びにクロロホルムは,塩素漂白時と比べて大幅に減少し,環境負荷の削減を図ることができる。1990年代は設備費の安価な中濃度法が主体であったが,その後の技術開発により高濃度法の設備が改良されて投資金額が減少した。また中濃度法に比べてオゾンを多く添加できること,オゾンガスの昇圧コンプレッサーが不要で毒性のあるオゾンガスを高圧化する必要がないこと,オゾン漂白設備を負圧で運転できるためオゾンガス漏洩の危険性が少ないことから2000年代は高濃度法と中濃度法が拮抗している。ZeTrac<sup>TM</sup>は王子製紙日南工場,大王製紙三島工場,モンディ社Ruzomberok工場(スロベキア),ITC社Bhadrachalam工場(インド),王子製紙南通工場(中国)等に導入されている。</p>