著者
小野寺 勇雄 上條 康幸 宮西 孝則
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.1655-1661,017, 2003-11-01 (Released:2010-10-27)
参考文献数
14
被引用文献数
2

スギは国内に豊富に存在する樹種であり, 建築材や家具等, 様々な用途に利用されているが, パルプ原料とした場合, リグニンや樹脂成分を多量に含み, 容積重が低いことからKP原料としては適していないとされている。しかし, 容積重が低いというスギの特徴はKP原料ではなく, 機械パルプの原料として適性があると考えられたことから, 本研究では実験室スケールでスギを原料としたTMP製造技術について検討を行った。ラジアータパインに対するスギの配合率を種々変更した原料チップからCTMP法を用いて機械パルプを調製し, パルプ物性の評価を行った。その結果, スギ配合率の増加に伴って, パルプの比散乱係数が増加した。各パルプにおけるファインの性質について調査を行ったところ, スギ配合率が増加するにつれて, 光学的性質に寄与するフレーク状ファインが多く生成することが明らかとなった。従って, スギを配合することにより比散乱係数が増加したのは, 生成するファインの性質が変化したためであると推定される。また, 過酸化水素を用いた漂白実験において, スギを20%配合した場合は, 配合しないものに比べて到達白色度が約3ポイント高いという結果が得られた。以上の結果から, スギを原料として製造した機械パルプは, 光学的性質に寄与するフレーク状ファインが多く生成することから比散乱係数が高く, 紙の不透明度向上に対して有望な原料であると考えられる。さらに, 今回評価を行ったスギCTMPは白色度が高く, 漂白性にも優れていることがわかった。
著者
宮西 孝則
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.1186-1196, 1999-09-01

埋め立て地が不足するという危機感から, 米国では1990年前後に多くの外販古紙パルプ工場が建設された。しかし, 抄紙機で粘着物トラブルが発生したこと, 消費者が古紙パルプを配合した紙を高い価格で購入しなかったこと, バージルパルプの価格が低下したこと, 外販古紙パルプが過剰になったことなどにより, 古紙パルプの価格が低下し, 工場の倒産が続き, 紙, 板紙への古紙配合率は低迷している。一方, 高品質DIPを生産するためにますます機器の数は増え, DIPプラントは複雑になってきた。デスパージョン, ニーダー, フローテーション, 漂白は多段になり, 設備, 保守, 運転エネルギーの費用が増加している。技術論文の多くは理論ではなく, トライアンドエラーの経験に基づいて書かれており, 機器を増やす傾向がある。そこで機械設備だけでなく, 界面化学の観点から, 白水中のインクと粘着物の挙動についての基礎的な理解が求められている。DIP工程から抄紙機ウエットエンドへのアニオントラッシュのキャリーオーバーを防ぎ, DIP工程とウエットエンドにおいて界面化学の観点から最適な処方を行うことが肝要である。
著者
宮西 孝則
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.414-420, 2016

2015年10月29日~11月1日の4日間にかけてTokyo Paper 2015が東京大学にて開催された。本学会は,第9回国際製紙及び塗工化学シンポジウム(IPCCS)と国際紙物性会議(IPPC)との共同開催である。<br>IPCCSは,スウェーデンとカナダのコロイド化学,界面化学の研究者が中心となって約3年毎にスウェーデンとカナダで交互開催されてきた。IPPCは紙物性に関する国際会議であり,IPCCSとIPPCの共同開催は,2012年に次いで2回目である。参加総数は148名で,そのうち海外からの参加者が60%であった。研究発表の割合は海外の研究者が75%に達し,近年国内で開催された紙パルプ研究に関する国際会議では最大規模であった。主な参加国はスウェーデン,カナダ,フィンランド,中国,フランス,韓国,オーストリア,タイ,ノルウェー,ドイツで,米国,英国,オーストラリア,スイス,ルーマニア,ブラジルからの参加もあり,日本を含めて17か国の国際会議となった。<br>日本からは,東京大学,京都大学,九州大学,筑波大学,東京農工大学,高知大学,東京家政大学,慶應義塾大学,王子ホールディングス,日本製紙,北越紀州製紙,大王製紙,荒川化学工業,栗田工業,星光化学が貴重な研究成果を発表し,活発に質疑応答を行った。開会式では,実行委員長である東京大学大学院磯貝明教授が開会挨拶を述べ,続いて紙パルプ技術協会が日本の紙パルプ産業の現状について特別講演を行った。開会式終了後,参加者は2会場に分かれ,IPCCSは東大キャンパス弥生講堂一条ホールにて,IPPCは中島ホールにて口頭発表を行った。全部で78件の口頭発表と28件のポスター発表があった。IPCCSの発表はナノセルロースが多く,大きな関心を集めた。
著者
宮西 孝則
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.305-311, 2017
被引用文献数
1

<p>最初の高濃度オゾン漂白設備は1992年にUnion Camp社Franklin工場(バージニア州,米国)で稼働し,C-Free<sup>®</sup>という商標で登録された。パルプはpHを調整してから40%濃度まで脱水され,フラッフィングしてからパドル付の大気圧オゾンリアクターに送られる。現在の高濃度オゾン漂白設備は,C-Free<sup>®</sup>よりも遥かに簡素化されたバルメット社のZeTrac<sup>TM</sup>が採用されている。オゾンとパルプとの接触時間は1分と非常に短く,オゾンリアクターを小型化し滞留時間は5-10分で設計されている。プラグスクリューフィーダー,レファイナー型フラッファー,アルカリ抽出段前の洗浄機は全て不要になり,投資金額,エネルギー消費量,設備保守費用,排水量が著しく減少した。高濃度オゾン漂白に続くアルカリ抽出(パルプ濃度11-12%)の反応時間は5-10分で,通常のアルカリ抽出(60-90分)とほぼ同等の効果が得られる。オゾンリアクター出口で濃度38-42%のオゾン漂白パルプをアルカリで直接希釈する。アルカリは拡散時間を長くとらなくても直ぐに繊維の中心部に到達し,オゾン漂白で酸化された物質を直ちに溶解する。続いてプレス洗浄機でパルプを脱水し,溶解した物質を除去する。このように高濃度オゾン漂白では,アルカリがパルプに素早く浸透して酸化物を溶解し,直ちにプレス洗浄機で除去するのが特徴である。アルカリを繊維内部に拡散させるための長い浸透時間が不要で,新設する場合,アルカリ抽出タワーの建設費を節約できる。高濃度オゾンECF漂白パルプ及び紙製品の品質,抄紙機の操業性は,塩素漂白時と比べて目立った変化はなく,ほぼ同レベルである。ヘキセンウロン酸(HexA)はほぼ完全に除去でき完成パルプ中にHexAが殆どないLBKPが得られ,紙製品の退色については全く問題ない。排水中のAOX並びにクロロホルムは,塩素漂白時と比べて大幅に減少し,環境負荷の削減を図ることができる。1990年代は設備費の安価な中濃度法が主体であったが,その後の技術開発により高濃度法の設備が改良されて投資金額が減少した。また中濃度法に比べてオゾンを多く添加できること,オゾンガスの昇圧コンプレッサーが不要で毒性のあるオゾンガスを高圧化する必要がないこと,オゾン漂白設備を負圧で運転できるためオゾンガス漏洩の危険性が少ないことから2000年代は高濃度法と中濃度法が拮抗している。ZeTrac<sup>TM</sup>は王子製紙日南工場,大王製紙三島工場,モンディ社Ruzomberok工場(スロベキア),ITC社Bhadrachalam工場(インド),王子製紙南通工場(中国)等に導入されている。</p>
著者
宮西 孝則
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.12, pp.1281-1288, 2016
被引用文献数
1

<p>オゾン漂白を組み込んだ漂白シーケンスは一般的にライトECF漂白と呼ばれている。1971年から各国でパイロットプラントを使った研究開発が行われ,1992年に実機が稼動した。現在,オゾン漂白は世界の23工場で運転中であり,約1,000万トン/年のパルプが漂白されている。23工場のうち14工場の設備は2000年以降に稼働し,日本の製紙会社では国内6工場,海外2工場に導入している。すなわち,新しいオゾン漂白設備の50%以上を我が国の紙パルプ産業が保有している。ライトECF漂白は,環境負荷を著しく低減するだけでなく,晒し薬品コストを削減し,蒸気使用量を減らすことができる。パルプ強度を損なうことなく,到達白色度を高め,ピッチトラブルを減少し,叩解エネルギーを減少するなど多くの経済的メリットをもたらす。オゾン漂白は,中濃度又は高濃度で行われ,1990年代は既存設備を利用した改造工事で設備費が安価で工事が容易な中濃度が優勢だったが,2000年以降は高濃度設備が改良されて,中濃度と高濃度が拮抗している。二酸化塩素ECFとオゾンECFのどちらを選択するか,中濃度と高濃度のどちらが有利かなど,漂白シーケンスは,それぞれの工場の条件を検討して選択する。オゾン漂白基礎講座第1回ではオゾンの性質,オゾンの発生技術,オゾン漂白の操業条件などオゾン漂白の基礎について述べる。</p>