著者
高山 憲之 白石 浩介
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.6, pp.38-100, 2017

<p>本稿では、給与所得者として20年以上、勤務した実績を有し、2012年度末の年齢が56~69歳の男性1253人を対象として、年金と高齢者就業の関係を分析している。主な使用データは世代間問題研究プロジェクトが2012年に実施したパネルデータ「くらしと仕事に関する中高年インターネット特別調査」である。分析によって得られた主要な知見は以下のとおりである。</p><p>(1)2012年度における法定の年金受給開始年齢は男性の場合、定額部分が64歳、報酬比例部分が60歳であった。本稿で分析の対象とした男性にとっては報酬比例部分だけで月額10万円前後(平均値)の年金を受給することができたので、定額部分64歳受給開始にもかかわらず、60歳から年金を受給しはじめた人が多かった。ただ、60歳時点では失業給付(求職者給付)を、まず受給し、その受給期間が満了した後から年金を受給しはじめた人も少なくなかった。</p><p>(2)2012年12月時点における年金受給率は60~64歳層で64%、65~69歳層では89%であり、総じて高齢になるほど年金受給率は高くなっていた。</p><p>(3)60歳以降、減額なしで老齢年金を受給する人が圧倒的に多かった。2012年12月時点で60~64歳層の場合、在職により老齢年金が減額されていた人は9%、全額支給停止となっていた人は12%にすぎない。65歳以上では、在職者が減る一方、在職による減額がはじまる屈折点も28万円超が65歳から比較的高めの47万円超に変わるので、減額つきの在職老齢年金受給者や全額支給停止者はきわめて少なくなっていた。</p><p>(4)2012年12月時点で56~59歳だった人については正社員または役員の割合が50%超となっていたが、60歳だった人の正社員割合は24%、さらに61~64歳層では11%、65~69歳層では、わずか2%であった。一方、60~64歳層の非正規就業者割合は約4分の1、無職者42%となっていた。なお、60歳であった人の失業者割合は22%となっており、この年齢層だけ失業者割合が異常に高かった。</p><p>(5)2012年4月時点における厚生年金保険加入率は60歳で50%割れとなっていた。さらに、61~64歳では24%弱、65歳11%弱、66~69歳4%弱と、その加入率は高齢になるほど低くなっていた。</p><p>(6)同時点で厚生年金保険に加入していた人の総報酬月額は56~60歳層で平均50万円前後であったが、61~65歳層30万円台、さらに66~69歳層20万円台であった。ただし、60~64歳で厚生年金保険に加入していた在職者の80%前後が「総報酬月額+年金受給月額」の合計額を28万円以下に調整し、減額なしで年金を受給していた。</p><p>(7)次に、コーホート別の加齢効果を調べたところ、まず、56~59歳時点の正社員割合は、かつて80%であった(または80%に近かった)が、1948年度生まれの世代から低下しはじめ、1952年度生まれ(2012年度には60歳)になると60%強になっていた。60歳を超えるとともに、いずれの世代でも正社員割合は30%前後あるいは、それ以下へ急減しており、被用者だけに限定すると、正規の人より非正規の人の方が総じて多かった。そして、64~65歳時点では無職者が過半数を占めるようになっていた。</p><p>(8)総報酬月額の中央値は、いずれの世代においても59歳時点で50万円以上となっていたが、61歳時点では30万円台または、それ以下に低下していた。ただ、その分布のばらつきは比較的大きく、61歳以降においても月額47万円超の人が30%以上いた(ゼロデータは除いている)。</p><p>(9)いずれの世代においても年金受給率は加齢とともに上昇しており、総じて62歳時点で50%を超え、65歳時点で80%超となっていた。とくに、1949~1951年度生まれについては定額部分に係る法定の受給開始年齢が65歳になっていたにもかかわらず、60歳受給開始者が40%台を占め、さらに61歳時点の年金受給率は60%台に上昇していた。これらの年金受給率は、1948年度生まれ以前の世代のそれより10%程度あるいは、それ以上高かった。</p><p>(10)年金受給者に着目すると、報酬比例部分に係る法定の受給開始年齢が60歳に据えおかれていたときに関するかぎり、定額部分に係る法定の受給開始年齢が段階的に65歳へ引き上げられても60歳から年金を受給しはじめた人が最も多かった。ちなみに、定額部分の法定受給開始年齢引き上げにぴったり合わせて実際に年金を受給しはじめた人は受給者の4分の1あるいは、それ以下にとどまっていた。</p><p>(11)他方、報酬比例部分に係る法定の受給開始年齢が60歳から61歳に引き上げられたとき、該当する厚生年金加入歴20年以上の男性は、その過半が60歳時にも厚生年金に加入していた。そして60歳から老齢年金を受給しはじめる人の割合は激減した。報酬比例部分の受給開始年齢引き上げは多大な雇用促進効果と年金受給開始先送り効果の2つをもっていたことになり、定額部分の受給開始年齢を引き上げたときとは明らかに違っていた。</p><p>(12)60歳時点に関するかぎり、在職によって年金給付が減額される、または全額支給停止となる人が、かつては多かった。ちなみに1948年度以前に生まれた世代の場合、その割合は60%台であった(全額支給停止者を含む)。しかし、1949年度以降に生まれた世代の場合、その割合は50%前後あるいは、それ以下になっていた。その割合は61歳以降、加齢にともなって急激に低下し、65歳時点では10%未満までダウンしていた。</p><p>(13)2012年12月時点で年金を受給していた60~69歳の男性について受給開始前後の就業状況等を調べた結果によると、まず、受給開始1年前の時点では正社員ないし役員が48%、非正規就業20%、失業中8%、無職者17%等であったが、受給開始直後には正社員ないし役員が17%となり、30%近いダウンとなる一方、無職者が36%、失業中15%、非正規就業25%へと、それぞれアップしていた。さらに受給開始2年後になると、正社員ないし役員は10%まで減る一方、無職者割合は48%へ上昇していた。受給開始直前に正社員ないし役員であった人に限定すると、受給開始直後も正社員ないし役員にとどまった人は3分の1にすぎず、無職者27%、失業者17%(無職者と合わせると40%超)、非正規就業21%へと就業状況が大きく変わっていた。</p><p>(14)就業状況が変わると週あたり労働時間も変わる。年金受給開始1年前には労働時間40時間以上の人が52%を占めていたが、年金受給開始直後には27%へと、ほぼ半減していた一方、労働時間ゼロが52%となった。年金受給開始とともに労働時間を減らしたり、勤務を辞めてしまったりした人が、それなりに多く、就労を抑制したり、早期引退を促進したりする効果が年金受給にあることが、パネルデータによって計量的に確認された。</p><p>(15)年金受給開始1年前の総報酬月額および「その他の月収」(報酬や週30時間未満の勤務から得られた賃金等)と、年金受給開始1年後の「年金+総報酬月額+その他月収」の合計額を比較すると、年金受給開始後、大幅に収入を減らした人が圧倒的に多かった。ちなみに、後者の前者に対する割合は20%未満の減が6%、20%以上40%未満の減8%、40%以上60%未満の減18%、60%以上80%未満の減25%、80%以上の減19%となっていた。</p><p>(16)実際に年金受給を開始した年齢が60~64歳であり、かつ年金受給開始直後においても総報酬を手にしていた人に限定すると、受給開始1年前の総報酬月額は15万円未満の人が13%、30万円未満40%であったが、受給開始直後になると、総報酬月額15万円未満の人は40%となっていた。そして、受給開始直後における「総報酬月額+年金給付(基本月額)」の合計額は20万円未満が21%、20万円以上28万円以下が31%、28万円超40万円未満29%、40万円以上10%となり、20万円以上28万円以下のところに、それなりの塊りがあった。総報酬月額と年金給付月額の合計額を28万円以下に制御し、年金を減額なしで受給するために総報酬月額を下方に調整した人が30%弱に及んでいた。</p><p>(17)生存時間解析をした結果によると、総じて、老後資金に余裕があったり、就業継続によって稼得が期待される賃金が従前賃金の60%未満であったりすると、早めに就労を停止し、年金を受給し始める傾向がある。さらに、無配偶者の方が有配偶者より就労を早期に停止する確率が高い。</p>

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