著者
櫻井 義秀
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.80-96, 2017

<p> 本稿では,近年の宗教研究とウェル・ビーイング研究のレビューを通して「宗教」と「幸せ」の関連を問う適切な問題設定を行うことを目的とする.この研究の難しさは,被説明変数としての「幸せ」のみならず,説明変数としての「宗教」も多様な側面を持つために,幸せのどの側面と宗教のどの側面との関連を考察の対象としているのか十分に自覚することなく,宗教は人を幸せにするかという高度に抽象的で哲学的な命題が議論されてきたことにある.したがって,本研究ではまず,宗教を宗教意識,宗教行為,宗教集団と制度の次元に分節化する社会学的方法論を示し,次いで,ウェル・ビーイングの多面的性質を論じたルート・ヴェーンホヴェンの研究を参照して,生活の機会と結果,生活の内的質と外的質の二軸から,生活の環境,生活満足感,生きる力と幸福感と類型化された「幸せ」の諸側面と宗教との関わりを検討する.そして,最後にヴォルフガング・ツァップフの考察を参考にして,「幸せ」の客観的指標と主観的評価が乖離する不協和と適応,および剥奪の状態においてこそ,宗教が「幸せ」を再構築する独特の機序があることを示そうと考えている.</p>

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