著者
多田 泰之
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.11-28, 2009
被引用文献数
1

2004年は、多くの台風が日本列島を襲い各地に甚大な災害をもたらした。これは2004年6月から10月にかけて、日本列島に台風が接近しやすい太平洋高気圧の配置が続いたことが原因である。図1は、1951〜2008年の台風の発生件数と上陸件数を示したものである。2004年の台風の発生件数は例年と同じ程度の件数であるが、太平洋高気圧の縁に沿って台風が次々と日本列島に上陸し、上陸件数は観測史上最多の10件を記録している。その結果、2004年は近年で最も多い64名の死亡者が生じている。2004年の主要な土砂災害による被害を表1にまとめたが、台風の進路に位置した太平洋岸の地域で多数の被害が生じている。特に台風21号では、三重県・愛媛県を中心に大きな被害が生じた。中でも三重県多気郡宮川村(現大台町)では1時間に100mmを超える豪雨によって多くの崩壊や土石流が発生し、死者・行方不明者7名、全壊家屋14棟と甚大な被害が生じた。砂防学会をはじめ、地すべり学会・土木学会などでは災害調査団を組織し、災害の発生原因について調査・報告がなされている。これらの調査報告では、(1)災害発生位置とその被害状況、(2)降水量などの気象条件、(3)崩壊斜面の地形・地質の特徴についての見解が示され、災害の発生原因を考察している。また、近藤らは住民の避難行動について分析し、山間地域では避難経路となる本川沿いの道路が、土砂・流木等によって通行不能になることを念頭に置いた防災対策の重要性を指摘している。このように宮川村で発生した土砂災害については、災害が発生した(1)誘因、(2)素因、(3)対策についての問題点・留意点が明らかにされている。ところで、このような災害調査の多くは災害発生後に実施されるため、災害発生前や災害発生直後の状況の情報が不足する傾向にある。崩壊発生前あるいは直後の状況には、災害発生場所の特定や警戒・避難に関する有益な情報があると考えられるが、災害の発生する場所を知る術がないため、その情報は極めて少ないのが現状であるといえる。筆者らは土砂災害の実態を知るために様々な調査を実施しているが、偶然にも、宮川村で災害が発生する前に湧水などの調査を実施しており、わずかではあるが災害発生前の宮川流域の状況を知る機会を得た。本稿では、従来不足している災害発生前あるいは直後の状況には資料的な価値があるとの考えから、三重県宮川村の周辺で見られた災害前後の状況について報告する。

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こんな論文どうですか? シリーズ「近年の土砂災害」:──2004年三重県宮川村で発生した土砂災害──(多田 泰之),2009 https://t.co/RbxwsndmbL 2004年は、多くの台風が日本列島を襲い各地に甚大な災害をもたらした。これ…

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