- 著者
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秋山 吉則
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2017, 2017
通信制高校は勤労青年の教育機関として、あるいは生涯学習機関として発足したが、現在では様々な事情から全日制高校への就学が困難になった子どもたちのオルタナティブな高校教育として姿を変えている。現在、通信制高校に入学する子どもたちの6割以上は高校中退後の編入学であったり、年度途中の転入学であったりしている。従来であれば高校中退で社会に出ていたのが、通信制に転編入学することにより高校への就学・高卒資格を保障することができるようになった。これを可能にしたのは、1980年代後半からの単位制高校や定通制の3年卒業などの高校教育への規制緩和と都市内部に開設された学習センターの存在である。通信制高校の本来の学習スタイルは自宅での自学自習である。学習習慣が身についていない生徒が卒業までこぎつけることはむつかしい。1990年代以降に日常的な登校を生徒に求める通学型の通信制高校が出現するようになっていった。この新しい通信制高校では今まで行えなかった日常的な生活・学習指導が可能となった。この日常的な指導を行う場が学習センターと呼ばれている都市内部に開設された施設である。学習センターは1990年前半以降に多数開設されるようになった。学習センターは都市内部の商業・雑居ビルを活用して開設されている。学校が土地・建物を所自己有する場合は少なく、ビル1棟や数フロアーから1室を借用して開設される場合が多い都市内部の新たな土地利用。通信制高校が多数開設され始めた時期はいわゆる平成不況の時期と一致する。多数生まれた空きビル・空室の存在が学習センターの開設を可能にした。放課後の予備校・塾としてではなく正規の高校教育を受けるために都市内部のビルに登校するという子どもたちを生み出している。<br>学習センターは県庁所在都市や地域中心都市の市街地に立地している。県内外から広く子どもたちが通学するので交通ターミナル近くに立地する。大阪市では梅田から難波にいたる地下鉄御堂筋線、東京では池袋から渋谷にいたる山手線西側と秋葉原から新宿にいたる中央総武線沿線に集中している。この分布は一般的なオフィスの分布とは異なり、若者が多く集まる場所を指向した立地となっている。学習センター開設は大阪市内で始まった。これは教育行政が主導したものではなく、通信制高校を経営する学校法人の試行であった。教育環境としてふさわしくない商業・雑居ビルへの公教育としての高校の進出を教育行政は規制することができず、逆にこれが全国に広がった。皮肉にも最初に入学した高校で不適応を起こした子どもたちに高校への就学機会を提供し、高卒資格の付与につながるようになっていった。しかし、弊害や課題も多い。発表では、都市内部での学習センターの開設の経緯、現在の分布と立地条件、学校地理学としての調査研究の意義などについて報告したい。