- 著者
-
池田 真利子
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2017, 2017
世界においてナイトライフ研究への注目が2010年代以降高まりつつある.地理学においても,イギリスの学術誌Urban Studiesで「都市の夜間に関する地理」(2014)が特集号として発表されるなど,都市間競争の苛烈化と24時間経済の覚醒を背景に,夜間時間Night timeと夜間経済Night-Time Economiesへの注目が増している.国内ではナイトライフを体系的に論じた従前の研究が少な,ナイトライフ観光がインバウンド・アウトバウンド観光双方において欧米系旅行者に特有のものと認識されてきたが,ナイトライフ空間の地理的特性や観光行動の具体性などは吟味されてこなかった.しかし近年では,日本人の若者の観光行動との関わりも顕著となりつつあり,観光のみならず,社会・経済的側面等からのアプローチも求められつつある.そこで本発表では,国内におけるナイトライフ研究の可能性を模索すべくナイトライフ観光に焦点を当て,それら資源の具体性や研究可能性を探る.こうした世界の都市における夜間経済への動きのなかで,東京では既にプレ・オリンピック,ポスト・オリンピックの文脈において,実社会で変化の兆しが窺える.前者はナイトライフ観光の資源化であり,後者は夜間経済への注目である.例えば東京都は2017年度初頭に発表した『PRIME観光都市・東京-東京都観光産業振興実行プラン』において,ナイトライフ観光推進の必要性を明文化した.後者は世界的な流れでもあるが,例えば2012年のオリンピック開催都市であるロンドンでは,金曜・土曜の夜間地下鉄Night Tubeの就航が2016年以降開始されるなど,特定の大都市においては夜間経済活性化の動きがみられる.日本でもナイトクラブ運営などに適用されていた法律である風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下,風営法)の改正(2016年6月23日施行)が,東京都港区・渋谷区を中心に活性化するなど,夜間経済の合法化への動きもみられる.こうした動きは,ポスト・オリンピックにおける変化の要因と成り得る「特定複合観光施設の整備の推進に関する法律」(2016年12月15日成立)を見据えた動きとしても理解できる.こうした状況において,渋谷区は伊藤園,観光協会および國學院大學との協働で2017年6月より「渋谷ナイトマップ」の配布を開始するなど,都内一部地域では観光資源化の動きが強まっている.同事業は先述した風営法改正1周年記念イベントとして行われた官民協働事業であり,ナイトライフを資源化した動きとしては国内初のものであるという<sup>2)</sup>.こうした動きの中で,夜間時間特有の観光形態や観光資源への注目が今後より一層,求められると推測される.