著者
髙橋 裕子
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.5-18, 2016

<p>本稿では、2015年12月に開催されたジェンダー史学会年次大会シンポジウム「制度のなかのLGBT- 教育・結婚・軍隊」での報告を纏めるとともに、セブンシスターズの5女子大学が女子大学としての大学アイデンティティを重視しながらも、もはや「女性」という「性別」を一枚岩的に捉えることができなくなってきた現状を紹介する。さらに、とりわけ誰に出願資格があるのかを決定する判断の背景にある、女子大学自体の大学アイデンティティの問題を考察しつつ、2014年から15年にかけて発表された新たなアドミッションポリシーを概観した。この問題は、いわば21世紀に女子大学が直面しているもう一つの「共学」論争とも言える。20世紀後半に経験した「共学」論争との違いはどこにあるのか、その点にも着目しながら、性別二元論が女子大学における入学資格というきわめて現実的な問題としてゆらぎをみせていることとともに、米国における今日の女子大学の特色をあぶり出すことを試みた。</p><p>トランスジェンダーの学生や、ノンバイナリーあるいはジェンダー・ノンコンフォーミングというアイデンティティを選び取る学生が増えていることは、女子大学が、「常に女性として生活し、女性と自認している者を対象とする」高等教育機関であるとあえて明示しなければならなくなったことに反映されている。それにも拘わらず女子大学のミッションが、すなわちその必要性や存在意義がよりいっそう強く再確認されていることに注目した。女性が社会で、そして世界で、多様な分野で参画できる力と自信を、大学時代に身に付ける場として、女性がセンターに位置づく経験をする教育の必要性が、このトランスジェンダーの学生の受け入れを巡ってのディスカッションを通していっそうクリティカルに再確認されたとも言える。</p><p>大学教育という実践の場において、ジェンダー的に周縁に位置するセクシュアルマイノリティの学生をめぐって、アドミッションポリシーを文書化し、具体的に「女子大学」と名乗るのかどうか、さらには「よくある質問(FAQ)」で「女性とは誰のことなのか」という質問に詳細にわたって回答し、ジェンダー的に流動的な(gender fluid) 学生に対応しているこの局面に、21世紀のアメリカにおけるセブンシスターズの女子大学が果たしている新たな先駆的役割を見て取れる。</p>

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