著者
池田 康弘
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌
巻号頁・発行日
vol.2017, no.636, pp.636_25-636_43, 2017

本論文は,弁護士費用保険をめぐる潜在的被害者(依頼者,被保険者),弁護士,保険者の各当事者の利得構造とインセンティヴ,および当事者間の情報の非対称性に着目し,民事紛争への保険利用の問題と課題を経済分析によって明らかにする。<br />本論文の考察の内容と主な結論は次のとおりである。まず,保険料が保険数理的に公正であれば,弁護士費用保険に加入未加入のどちらにせよ,依頼者の期待利得は同じとなり,弁護士探索の費用がかからない分だけ被保険者の期待利得が高くなる。次に,成果報酬の弁護士報酬は,弁護士のモラルハザードを阻止できるが,契約の不完備性から生じる被保険者と弁護士の暗黙の結託による弁護士費用の過大請求がもたらされ,他方,固定報酬の場合は,弁護士のモラルハザードを回避できないが,社会的に正の外部性をもつ事件にも対処できる可能性がある。さらに,弁護士費用保険は経済的利益をめぐる原告弁護士と被告弁護士間の暗黙の結託の余地を与え,弁護士費用の過大請求を許してしまう可能性をもつ。最後に,依頼者保護基金の制度設計は良質な弁護士を確保するための装置となりうる。保険制度設計者は上記の事柄を認識する必要がある。

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