著者
山本 明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.167-177, 2017

<p>超伝導技術は高エネルギー粒子加速器・素粒子物理実験フロンティアを支える基盤技術の役割を担っている.高性能・高精度な電磁場を,限りあるエネルギー資源・環境のもとで提供し,エネルギーフロンティア粒子加速器,物理実験の実現に本質的な役割を果たしている.粒子加速器における磁場利用では,超伝導技術によってコイルの電流密度を高め,高磁場磁石を実現する.高周波電場による加速では,電力効率を高めつつ高輝度化を実現する.物理実験における磁場利用では,超伝導化によりコイルの電流密度を高め,少ない物質量(壁)で大規模・磁場空間を実現する.</p><p>質量の起源を紐解くヒッグス粒子の発見をもたらした欧州原子核機構(CERN)・ラージハドロンコライダー(LHC)では,超伝導磁石技術が陽子・陽子衝突型加速器でのビーム軌道の制御,超伝導加速空洞がビーム加速の基盤技術となり,粒子検出器での二次粒子運動量分析の基盤技術となっている.</p><p>宇宙における物質 /反物質非対称性を検証したKEKB電子・陽電子コライダーにおいては,ビーム加速および高輝度化に超伝導技術が本質的な役割を果たしている.</p><p>国際協力計画として実現が期待されているエネルギーフロンティア電子・陽電子コライダー「国際リニアコライダー(ILC)」計画では,超伝導加速空洞技術が直線連続ビーム加速を支える基盤技術となる.</p><p>ニュートリノ振動の発見・検証をもたらしたSuper-Kamiokande実験は,粒子加速器と連携したT2K実験へと発展し,J-PARC加速器・陽子ビームによって生成されたニュートリノによって,ニュートリノ振動のさらなる精密観測・探索を推進している.超伝導磁石技術は,J-PARC加速器から取り出された陽子ビームを90度偏向し,神岡方向に照準を合わせニュートリノを打ち出すためのビームライン基盤技術となっている.J-PARCでは,さらにミューオンをプローブとし,「標準理論」を超える物理を探る実験が進行中であり,ミューオン生成,ビームトランスポート,崩壊過程観測用精密磁場空間のいずれにおいても,超伝導磁石が不可欠な基盤技術となっている.</p><p>衝突型加速器実験・粒子検出器における磁場利用では,超伝導コイルの外側に配置される測定器で観測される粒子は,超伝導コイルの壁を通り抜けなければならず,その際の相互作用によりエネルギー損失,散乱等を引き起こす.超伝導技術は物質を低減(薄肉化)し,コイル物質と通過粒子の相互作用を最小化することに大きく貢献する.このように,薄肉超伝導磁石技術は,「透明な磁場空間」という物理実験からの究極的な目標・要請に応える基盤技術となる.この技術は,飛翔体を用いた宇宙線観測にも新たな磁場利用の道を拓いた.さらに,これらの過程で必然的に培われた,少ない物質での効率的な伝導冷却技術は,必須な基盤技術として重力波探索・低温重力波望遠鏡(KAGRA)計画を支えている.</p><p>これら超伝導技術の発展を支える超伝導材料は,加速器超伝導磁石応用においては,NbTi合金による8 Tレベルでの実用実績を踏まえ,Nb<sub>3</sub>Sn化合物による12~16 T領域を実用視野に入れた技術開発へと発展している.超伝導加速空洞応用では,高周波応用に適した純Nb材料およびその表面技術が成熟し,30 MV/mレベルでの高電場応用が飛躍的に発展している.物理実験・粒子検出器用超伝導磁石応用においては,NbTi超伝導線を高強度・軽金属(アルミニウム)によって安定化する技術が発展し,物質的に透明な大規模磁場空間生成技術の進展を支えている.</p>

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こんな論文どうですか? 超伝導技術が切り拓く粒子加速器・素粒子物理実験のフロンティア(山本 明),2017 https://t.co/nxNSMkR7Cw
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