著者
赤池 弘次
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.608-614, 1980-07-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
3
被引用文献数
1 or 0

L. Boltzmannによって導入されたエントロピーを統計的分布の確率の対数とする解釈は, 統計と確率との本質的な関係を明らかにする歴史的な貢献である. 数理統計学の発展は, このBoltzmannの業績に対する認識を欠いたままにすすめられたが, 最も著しい成果とみなされるものは常にこの確率論的エントロピーの概念に密接した研究によって得られている. 予測の視点と確率論的エントロピー概念との結合によって, 統計的方法の展開に有効な統一的視点が得られるとするのが筆者の主張である. これによって尤度概念の役割とその重要性に客観的な説明が与えられ, 従来問題視されたベイズ(Bayes)理論の実際的利用への道が開かれる.
著者
上野 豊 浅井 潔 高橋 勝利 佐藤 主税
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.568-574, 2002

単粒子解析は, 単離されたタンパク質などの生体高分子を電子顕微鏡で直接観察し, 3次元像再構成によって立体構造の解析を行う手法である. 膜タンパク質などの結晶化が困難なタンパク質の構造解析だけでなく, 構造変化や分子集合体の構造研究に活用されている. ここでは, 計算機による画像処理を駆使した手法について解説し, 最近の構造解析の紹介と, 解析における課題について議論する.
著者
小竹 悟
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.156-163, 2016-03

調和振動子の量子力学ではエルミート多項式,水素原子の量子力学ではラゲール多項式という具合に,直交多項式は量子力学の問題を扱う際に頻繁に現れる欠かせない存在である.これら直交多項式は数学者によって詳しく調べられてきた.物理学にとって大切な2階微分方程式を満たす直交多項式はエルミート,ラゲール,ヤコビ多項式に限られる事が古くから知られており,2階差分方程式を満たす直交多項式も(q-)超幾何直交多項式のアスキースキームとして1980年代にまとめられている.このように書くともう何も研究する事が無いように思われるかもしれないが,中々どうして最近もまだ進展があり,その内の2つ,生成消滅演算子の自然な構成と,新しい種類の直交多項式について解説する.この発見の原動力となったのが解ける量子力学模型によるアプローチで,その利点は量子力学の研究で培われた知識・手法を用いる事ができる点である.また,直交多項式の性質に統一的な視点を与える事もできた.例えば,アスキースキームの直交多項式が満たしている前方・後方ずらし関係式は個別に述べられているだけであったが,量子力学の観点からは模型の形状不変性の帰結として統一的に理解できる.解ける量子力学模型の生成消滅演算子に関する研究は色々と行われてきたが,それらは具体的な微分演算子としてではなく形式的な演算子に過ぎなかった.前方・後方ずらし関係式はパラメータをずらしてしまうので,調和振動子以外では生成消滅演算子とは別物である.調和振動子の生成消滅演算子が座標のハイゼンベルク解の負・正振動数部分の係数として得られていたのを真似て,アスキースキームの直交多項式が固有関数に現れる量子力学模型に対して生成消滅演算子を微分演算子(差分演算子)として自然な形で構成する事が2006年にできた.これには,閉関係式と名付けられた性質を用いて,正弦的座標と呼ばれる特別な座標のハイゼンベルク解が厳密に求められる事が利用された.通常の直交多項式は全ての次数が揃っている事から完全系をなしているが,次数に欠落があるにも拘らず完全系をなしているものが新しい種類の直交多項式である.2階微分方程式を満たす(通常の)直交多項式はエルミート,ラゲール,ヤコビ多項式に限られるという定理を逃れる試みとして,微分方程式を差分方程式に変更する事でアスキースキームの直交多項式が得られていたが,多項式の次数を見直すという新しい方向への変更である.0次式が存在せず1次式から始まるが完全系をなす最初の例が2008年に与えられ,例外直交多項式と名付けられた.新しい種類の直交多項式を固有関数として持つ解ける量子力学模型を形状不変性や他の手法を用いて構成する事により,新しい種類の直交多項式が無限に多く得られ,多添字直交多項式と名付けられた.この新しい種類の直交多項式の発見は,多少大げさかもしれないが,エルミート・ラゲール・ヤコビ以来の大きな進展と言えよう.差分方程式を満たす直交多項式に対しても多添字直交多項式を構成する事ができ,これらの構成において量子力学的定式化がおおいに役立った.直交多項式に新たな分野を切り開いたこれらの新しい多項式は現在活発に研究が行われている.
著者
上野 豊 浅井 潔 高橋 勝利 佐藤 主税
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.568-574, 2002-08-05 (Released:2011-02-09)
参考文献数
21

単粒子解析は, 単離されたタンパク質などの生体高分子を電子顕微鏡で直接観察し, 3次元像再構成によって立体構造の解析を行う手法である. 膜タンパク質などの結晶化が困難なタンパク質の構造解析だけでなく, 構造変化や分子集合体の構造研究に活用されている. ここでは, 計算機による画像処理を駆使した手法について解説し, 最近の構造解析の紹介と, 解析における課題について議論する.
著者
瀧 雅人
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.6-15, 2016-01-05 (Released:2017-04-22)
参考文献数
18

遠い未来の論文誌が手に入り,問いの数々への解答が垣間見れたならば,と夢想された事のある方は少なくないのではないだろうか?もちろんこのような事は不可能だが,双対性という不思議な性質は,しばしば「未来の知識を垣間見る」ような感覚を引き起こす.二つの異なる理論が同じ物理を記述しているとき,それらの間には「双対性」(duality)がある,という.ひとたび非自明な双対性が発見されれば,伝統的な手法の射程を大きくこえて理論を理解する事ができる.実際AdS/CFTに代表されるような様々な双対性の発見が,近年の弦理論の発展を牽引してきた.そして2009年,Alday,Gaiottoおよび立川は,超対称ゲージ理論に関する,全く新しいタイプの双対性を発見する.それが本稿の主題「AGT予想(AGT対応)」である.この予想における主役は4次元時空中のN=2超対称理論と,それに付随して定まる2次元の共形場理論であり,それらの分配関数と相関関数が厳密に一致するというのが,彼らの予想である.この数十年の研究により,どちらの理論も,量子効果と対称性による拘束が競合した結果,とても非自明な形で解けてしまう理論である事がわかっている.その両者が実は密接に関係しているという事実は,その物理の重要な「何か」がいまだに理解されていない事を示唆する.これまでにAGT予想に対する数多くの拡張やチェックがなされ,この予想は広汎な理論たちの間に対して成立している一般的な性質だと考えられている.特にGaiottoの発見したクラスSというグループに属した4次元理論であれば,AGT予想が成立している証拠がある.そこで次に理解すべきは,このような現象の起こる物理的なメカニズムである.完全では無いものの,有望なシナリオがいくつかある.その一つは,超弦理論の親玉であるM理論に起源を求める考え方である.M理論には,M5ブレインという6次元的な広がりを持つ高次元の膜的な物体が存在する.このブレインの広がりを2次元と4次元時空に分け,一方をつぶしてしまうと,残された空間にのみ住む理論が得られる.これによりゲージ理論と共形場理論が結びつくという説明法がそれである.M5ブレイン上に励起する物理的自由度に関してはよくわかっていない事が多く,この「導出」は完全ではないが,いくつもの傍証が見つかっている.また興味深い事に,AGT予想を理解する事でM5ブレインに関する理解が進展する可能性もある.AGT予想に関する数学的な理解にも進展がみられる.特にMaulikとOkounkovは,ゲージ理論側を記述するインスタントン解のモジュライ空間のコホモロジーに,2次元共形対称性の表現空間としての構造が入る事を示し,予想の一部の証明に成功した.また逆にAlbaらは,2次元共形対称性の表現の上に,インスタントンモジュライ空間と類似の組み合わせ論的な構造が隠れている事を示す事で,予想の一部を証明した.
著者
藤井 賢一 大苗 敦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.239-246, 2002-04-05 (Released:2011-02-09)
参考文献数
26
被引用文献数
3 or 0

基礎物理定数が1999年末に十数年ぶりに大幅改訂され公表された. 実験と理論の進歩により多くの基礎物理定数が高精度化された. 得られたデータの比較・検討から, 我々は自然現象を理解するための手段として頼りにしているモデルの妥当性を検証することができる. 最近では, より高精度化された基礎物理定数が, 質量の単位キログラムの再定義を実現するための鍵として注目されている. 本稿ではミクロな世界とマクロな世界を結びつけるアボガドロ定数と, ミクロな世界を記述するプランク定数の測定方法について紹介し, これらの定数を使ったキログラム再定義の実現可能性について述べる.
著者
石村 多門
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.636-644, 1999-08-05 (Released:2008-04-14)

いわゆる「構造主義」の思想的核心として, 「構造的因果性」なる概念を取り出すことができよう. それは, フランスの哲学者アルチュセールが提起した, 全く新しい因果概念である. 「因果性」という言葉で, 我々がまず真っ先に思いつくのは, 時間的先後関係によって因果性を捉える「継起的因果性」の観念であろうし, 少数の人は, 全体が部分を規定するという「全体的因果性」を思い浮かべるかもしれない. しかし, そうした因果観念は「非科学的」なものにすぎず, これらの観念に依拠して思索を進めている限り, 科学的認識を構築することはできない, というのがアルチュセールの主張であった. 本稿では, こうした挑戦的な企図に立った「構造的因果性」概念の意義について, これまで余り論じられてこなかった視角から敷延することに努めたい.
著者
中西 秀 市川 正敏
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.480-483, 2016-07-05 (Released:2016-10-04)
参考文献数
5

話題―身近な現象の物理―コーヒーの湯気:水面に浮遊する微小水滴のダイナミクス
著者
梶田 隆章
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.326-331, 2003

Cosmic ray particles entering the atmosphere interact with the air nuclei and produce neutrinos. These neutrinos are called atmospheric neutrinos. The atmospheric neutrino anomaly observed in Kamiokande is now understood as due to neutrino oscillations by high statistics measurements of the atmospheric neutrinos in Super-Kamiokande. The studies of the atmospheric neutrinos have matured into detailed studies of neutrino masses and mixings.
著者
宮川 博義 青西 亨
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.352-361, 2016-06-05 (Released:2016-08-10)
参考文献数
23

脳機能を探る目的で神経組織から磁気共鳴機能画像法(fMRI: functional magnetic resonance imaging),陽電子放射断層撮影(PET: positron emission tomography),脳波(EEG: electro-encephalogram),脳磁図(MEG: magneto-encephalogram)など様々な巨視的信号が記録されている.これらを用いた脳科学の研究成果が日常的にメディアに登場し,一見脳機能の理解が進んでいるようであるが,現実には脳科学はまだまだ未熟な段階にある.窮屈になってきた社会状況のためか,精神疾患の患者が増えているが,疾患の原因の解明あるいは治療法の開発に脳科学はまだしっかりとした貢献ができていない.問題の一端は,細胞・分子レベルの微視的な知見と,脳・個体レベルの巨視的な知見との乖離にあるように思われる.知覚・認知・意図・意識等の高次脳機能を支えているのは,脳を構成するニューロンのミリ秒レベルの速い電気的活動であろう.ところがf MRI,PET等はニューロンの速い活動を捕らえているわけではなく,脳活動にともなうエネルギー代謝に関わる信号を検出しているに過ぎず,充分な時間的精度を持たない.それに対し,EEGおよびMEGはニューロンの速い電気的活動に由来する信号を検出・記録することができる.しかし,得られる信号はやはり巨視的であり,微視的なニューロン活動との関係は不明である.例えば総合失調症の原因解明や診断のために,発症にともなう脳波の異常を見つけようとする試みがなされていて,P300やミスマッチ陰性電位(mismatch negativity)といった脳電位が検討されている.残念ながらこれらの電位が,脳のどの部位の活動に起因するものであるかは明瞭でなく,ニューロンレベルのどのような異常と関連しているかもはっきりしない.脳波あるいは細胞外電位から電流源を求め,その部位のニューロン活動との関係が明確になれば研究が大きく進むのだが,それができないでいる現状にある.通常,神経組織の電流と電位との関係にはオームの法則が成り立ち,誘電率を考慮する必要はないと仮定して脳波の逆問題を解いている.ところが,生体組織が数Hz程度の低周波領域において極めて大きな誘電率(比誘電率106以上)を示すことが古くから知られている.巨視的な脳波信号と微視的なニューロン活動との関係が不明確なのは脳組織の誘電率を考慮していないことに一因があるのかもしれない.我々は,ある程度の長さの突起を持った細胞が生体組織中に存在すると,細胞膜の特性とケーブル特性により低周波において大きな誘電率を示しうることを理論的研究により見出した.さらに,その研究過程において,電気的な意味での「細胞外スペース」の描像を明確にし,脳波の解析の際に誘電率をあらわに考慮して細胞外電位と電流源との関係を示す一般的記述を得た.
著者
津田 俊輔 横谷 尚睦 木須 孝幸 辛 埴
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.258-262, 2002

光電子分光のエネルギー分解能はここ20年で2桁向上し, 最近では1meVに迫る分解能も得られるようになった. その結果, 光電子分光測定からも固体物性を支配するフェルミ準位極近傍の数meVという微細なエネルギースケールを持った電子構造を直接的に観測できるようになった. 本稿では超高分解能化および測定試料温度の低温化により拓かれた微細な電子構造に関する光電子分光研究を, 最近発見されたMgB<SUB>2</SUB>超伝導体を例に紹介する.