- 著者
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山内 正
- 出版者
- 岡山医学会
- 雑誌
- 岡山醫學會雜誌 (ISSN:00301558)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.11, pp.1789-1803, 1927
余ハ家兎ノ摘出子宮,喇叭管,圓靱帶,腟,膀胱及ビ耳殻血管ニ於テ,「ヨヒンビン」ノ末梢性作用ヲ精査シ,大略次ノ如キ成績ヲ得タリ.<br>之等諸種ノ臟器ニ於テ,「ヨヒンビン」ノ比較的少量ハ,一般ニ興奮的(血管ノ場合ハ収縮的)ニ作用ス.此興奮又ハ収縮ハ大小種々ノ量ノ「アトロピン」(血管ノ場合ハ0.05%)ノ前後處置ニヨリテ,影響セラルルコト無キヨリ,是ハ筋自己ノ刺戟ニ因スルモノナラント思考セラル.<br>又「ヨヒンビン」ハ「アドレナリン」ニ對シ,一定ノ量的關係ノ下ニ於テ,次ノ如キ特殊ノ拮抗作用ヲ營ム.即チ「アドレナリン」ニヨル興奮又ハ収縮ハ「ヨヒンビン」ニヨリテ除去セラレ,反對ニ「ヨヒンビン」ニヨル興奮又ハ収縮ハ「アドレナリン」(何等前處置無キ場合興奮又ハ収縮ヲ起スベキ)ニヨリテ,抑制又ハ緩解セラル,即チ「アドレナリン」ノ逆作用ヲ呈ス.是ハ之等臟器ニ交感神經ノ催進,抑制(血管ノ場合ハ収縮,擴張)ノ兩繊維存在シ,「ヨヒンビン」ニヨリ前者ハ選擇的ニ麻痺セラレ,後者ハ其麻痺作用ヲ蒙ラザル爲メ起ル現象ナラント解説セラル.<br>尚ホ「ヨヒンビン」ハ「ピロカルピン」及ビ「バリウム」ノ興奮ヲ抑制スルコト無ク,「ヨヒンビン」後ニモ之等兩物質ハ其ノ作用ヲ示ス.即チ「ヨヒンビン」ハ少クトモ檢セラレタルガ如キ分量ニ於テ副交感神經及ビ筋ヲ麻痺セシムルコトナシ.<br>而シテ「ヨヒンビン」ハ,上述ノ如キ交感神經性作用ニ關シテハ,「アトロピン」「ヒニーン」又ハ「エルゴトキシン」ニ酷似スレドモ,該作用ノ發現ハ「ヒニーン」又ハ「アトロピン」ヨリ純ナリ.何トナレバ「ヨヒンビン」ノ筋ニ對スル麻痺作用ハ,「ヒニーン」ノ夫レヨリ遙ニ弱ク,且ツ「ヨヒンビン」ハ「アトロピン」ニ反シ副交感神經ニ對スル作用ヲ有セザレバナリ.<br>以上ノ如キ實驗事實ヨリ,「ヨヒンビン」ハ或物質ノ交感神經作用ヲ他ノ神經,筋作用ヨリ容易ニ分析證明シ得ルコト,竝ニ交感神經催進繊維ノ官能ヲ除外シ得ルコトトニヨリ,種々ノ藥物學的又ハ生理學的研究ヲ行フニ當リ頗ル緊要ナル物質ナルヲ知ル.