- 著者
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福田 典子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.47, pp.15, 2004
<目的>生活用水の使用量は年々増加傾向にある。この用水は排水として、下水に流されるが、わが国の約半数といわれる下水道の完備されていない地域においては、直接河川に排出されている。一般に河川には微生物等の力で、汚濁物質を分解する能力があるが、短期間に多量の物質が流入し、水中の汚濁物質が高濃度になり、微生物の分解能力を超えると、水棲生物などへの影響が生じる場合も予想される。生活用水は様々な生活場面で不可欠であり、その家族構成やライフスタイルにより異なるが、使用量の多いものから、調理・入浴洗面・洗濯となることが知られる。これまでに、洗濯排水に関しては界面活性剤やリン酸塩などが問題視され、生産者サイドでは様々な対策が講じられてきた。行政サイドには、下水道の充実や汚水処理施設の充実を一層望む。生活者サイドの役割について日常生活での行動から考えると、生活における用水の使用状況を見直し、節水やカスケード利用の方法を実践的に指導し、定着を図ることが何よりも優先されよう。第ニに、汚れと基質(汚れが付着しているもの)の性質に応じた洗剤の種類や濃度の選択についての正しい知識を有し、実践力を身につけさせることが不可欠であろう。そこで、家庭科教育において家庭や学校における指導を徹底し、生活者一人一人の行動変容を期待したい。そこで、本研究では、日常生活において最も身近であり、実践し易い行動の1つである「衣料用洗剤を適正量使用すること」に注目した。洗剤の使用量と汚れ落ちの関係を実物の観察によって実感させ、児童・生徒が洗剤濃度に関心を持ち、自らの洗剤の使い方に意識を高め、正しい利用ができることをねらいとした実験教材を開発した。大学生を対象とした授業実践を通して、その教材の有用性と課題等について指導方法を含めて考察することを目的とした。<br><方法>研究授業は2003年1月、国立大学構内調理実習室において、45分の1回で実施した。授業対象は大学生女子20名であった。当日の水温は11℃、天気は雪のち晴れであった。実験教材の試料は綿スムース(綿100%白ニット)10cm角、モデル汚染物質は希釈用コーヒー飲料、モデル洗剤は市販洗濯用合成洗剤であった。汚染布は室温にて、授業日の1日から3日前に直接浸漬処理して作成し、風乾させて用いた。同一濃度に均一に汚染させるよう配慮した。実験教材の洗浄方法は、1リットルのペットボトル内に1リットルの水道水を入れ、キャップをして、50回手で上下に振ったのち、水道水で軽くすすいだ。授業の流れを以下に示した。まず導入部では、コンサートに出掛けるために服を選ぼうとして、洋服に染みがついていたという劇を見せ、着用後の手入れの重要性を意識化させた。展開部で着用後の衣類は実際にどのようにしているか学習者自身の日常生活を振り返らせ、手入れの中でも主要な洗濯という日常の衣類管理上不可欠な行為に目を向けるように配慮した。次に、10cm角のTシャツ生地にコーヒーの染みがついてしまったら、1リットルの水で洗うとしたら、洗剤はどのくらいの量が必要だろうか。という発問を投げかけ、洗剤量を予想させた。そこで、8条件の実験で用いる洗剤グラム数を提示し、予想させた。実験は4班に分かれて、班ごとに、2つの濃度の違う洗剤液を作成させ、それを用いて洗濯を行い、汚れ落ちの具合を観察比較させた。実際に洗浄後の汚染布の状態は師範台の上に並べた8枚の様子を洗剤濃度とともに示した。洗浄後の布をビデオカメラで接写し、プロジェクターで投影し、拡大して、8枚の汚れ落ちの程度を並べて学習者に観察しやすいように工夫した。終結部では、洗濯機の中に洗剤を多く入れても、汚れ落ちは変わらず、排水中の洗剤濃度を高めるだけであることを知らせ、洗剤の適正量を守ることの重要性を伝えた。<br>【結果】実験後記述された学習カードの分析より、学習者が洗剤は多く入れれば入れるほど、汚れが良く落ちるわけではないことを実感し、洗剤には水の量(洗濯物の量)に応じて、適正量があることに気付いている様子が伺えた。また、環境に負荷の少ない洗濯方法を実践しようとする態度が形成されることが期待できた。衣服を着用すると、手入れが必要であり、適切な手入れをすることは、環境に負荷が少ないだけでなく、経済的であることにも気付かせることが可能であることがわかった。実験の際には、予想をさせる段階で、どのような内容(情報)をどのような方法で学習者に対して与えるかについて、一層検討すべきであることがわかった。また、本実験教材では、汚れ落ちの観察方法の説明において、汚染布と洗浄布を比べて、洗剤濃度によって、どのくらい汚れ落ちの程度が違うのかを比較するということをしっかりと明瞭に指示する必要があることがわかった。