著者
風岡 百穂 財津 庸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.71, 2010

1.目的<BR> 高校生の多くは、まだ家庭を創ることを遠い将来のように捉えている。そのような生徒たちに家族についての学習をより主体的に取り組ませたいと考え、本研究では「家族シミュレーションゲーム」を用いた授業実践を試みた。班をひとつの家族とみなし、生徒たちを親の立場に立たせて考えさせることを通して、家族の一員として話し合うこと、助け合うことを擬似的に体験させた。その際に、将来の家族について理想モデルを描くのではなく、少子化や家庭内暴力が社会問題・病理現象となっている現状を踏まえ、危機予測もしくは危機回避の力をつけさせることも意図した展開を考えた。擬似体験とはいえ予想外の出来事に対して対処でき得るという自信と、具体的な対応策を検討することにより、前向きに家庭を築こうとする態度を培いたい。以上のような、危機的状況を含む「家族シミュレーションゲーム」による体験的家族学習の効果を検討することを本研究の目的とする。<BR>2.方法<BR> 研究対象は大分県内の私立高校2クラス(A,B)、県立高校1クラス(C)である。「家族シミュレーションゲーム」の方法としては、班ごとに1~6のポジティブな特徴を記した赤色のカードを渡し、自分の家族に特に望む特徴3つを選ばせる。これら6枚のカードの内容は、1.家族形態・2.育児不安・3.親の性質・4.性別役割分業及び夫婦不和・5.子どもの性格的特徴・6.孤立状況といった実際の家庭の中で起こり得る状況を文章化したものである。同様にこれら6項目にそれぞれ対応するネガティブな特徴を記し、青色の1~6のカードとする。各班で選択されなかった数字の赤色カードを回収し、代わりに同じ数字の青色カードを渡す。これが「予想外の問題」が起こる、このゲームにおける家族にとっての危機的状況とする。それら3つの「予想外の問題」に対して対処法を考えさせる。<BR>3.結果<BR> 事前と事後のアンケート調査を比較したところ、育児の社会的支援についての項目でA・B・Cの3クラスとも同傾向の結果が得られた。「子どもを育てるとき、育児支援サービスや制度を利用することができる」という質問項目において、事前と事後の結果をt検定にかけたところ、全てのクラスで有意に意識が高まっていることがわかった(A:p<0.05、B:p<0.001、C:p<0.1)。 自由記述をみると、事前・事後共に「将来どんな家族・家庭を築きたいですか。」という質問項目において、「明るい」「楽しい」という表現は多くみられ、ポジティブな家族イメージをもつ者が多数であった。また事前では、「金銭面」の安定を挙げた生徒も少なくなかった。しかし、事後では、金銭面に関わる記述がほぼ無くなり、「助け合う」「話し合う」の記述が増え、更には「問題が起こっても解決できる」という回答が顕著に増加し、特にクラスBとCにおいては上位になっていた。収入の安定だけではなく、家庭内の人間関係の重要性も意識できるようになったためと考えられる。<BR> 以上より、危機的状況を含む「家族シミュレーションゲーム」を取り入れることで、家庭内で予想外の問題が起こっても家族で協力して乗り越えようとする積極的態度が意識できるようになると考えられる。また、状況に応じて社会的支援を利用することの必要性も理解できていた。6場面という高校生にとって少なくはない、また簡単ではない危機的状況を提示したにもかかわらず、家庭を創ることに後ろ向きになる生徒も見られず、どんな状況でも家族で協力して解決したいという前向きな姿勢が多く見られたことは成果と考える。

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