著者
財津 庸子 中西 雪夫 柳 晶子
出版者
大分大学
雑誌
大分大学教育福祉科学部研究紀要 (ISSN:13450875)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.73-84, 2005-04

本研究は、家庭科カリキュラムの改善に示唆を得ようとする日本家庭科教育学会の一連の研究に属する。我々は、同学会が実施した全国調査の結果について検討し、さらに必要な幾つかの追加調査を行った。本調査は教員志望大学生を対象に、全国及び九州地区で実施した小中高校生対象の調査とほぼ同一内容のアンケートを実施したものである。その結果は家庭科教員養成カリキュラム改善へ反映させていきたい。調査内容は部屋での過ごし方、使い方に関するもので、自由記述による質問紙法を採用した。結果を以下に述べる。1)大学生は、小中高校生と比べて、自分にとって過ごしやすい空間を自分で整えるための具体的行動が増加する傾向がある。2)発達段階や男女による記述内容の傾向の違いが認められた内容については、取り扱いの検討が必要であると考えている。3)所得希望教員免許別では、顕著な差は見出されなかった。以上の結果より、今後の家庭科教員養成カリキュラムにおいては、大学生の住生活についての意識や実態をふまえて、学習内容や学習方法の具体的な検討が必要である。
著者
猪野又 友美 財津 庸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第53回大会・2010例会
巻号頁・発行日
pp.86, 2010 (Released:2011-01-13)

1.研究目的 現代の生活においては、ファッションが楽しみのひとつとして受け入れられ、衣服が自己表現の手段としても発展してきた。一方で、生活環境は個人の衣服に対する意識や行動に、大きく影響を与えている。特に都市部と周辺部の子どもの間では衣服についての意識や行動に差が生じているのではないかと考えられる。都市部と周辺部の子どもの間に「被服行動」に関する意識や行動に差があるとすれば、家庭科の被服分野では、それぞれの実態により適した授業を行う必要性があろう。そこで、本研究の目的は、_丸1_中・高等学校家庭科の被服分野において、都市部と周辺部のそれぞれの子どもの「被服行動」の違いとその要因をアンケート調査により明らかにし、_丸2_その結果を踏まえ、実態に応じた指導を行うための題材や指導方法を具体的に検討するための基礎資料を得ることとする。 2.研究方法 調査対象は、大分県内の都市部及び周辺部の中・高等学校各1校ずつの計4校である。回収数は中学校168部、高等学校542部の計710部である。調査内容は、被服購入時の様子に関する項目が11項目、被服行動に関する項目が31項目である。「被服行動に関する項目」は、先行研究を参考に、次のように設定した。_丸1_最近のファッションへの興味や流行をとりいれるなどの「流行性」、_丸2_店ごとの価格比較やバーゲンセールの利用などの「経済性」、_丸3_学校の制服や雰囲気に応じるなどの「社会規範」、_丸4_品質や取り扱い表示の確認などの「機能性」、_丸5_友人の着ている服が気になるなどの「他者承認期待」、_丸6_人と違うファッションや魅力を引き出すなどの「自己顕示・表現性」という6尺度について5項目前後の質問を設定した。 3.結果及び考察 「被服購入時の様子に関する項目」において、被服購入時の同伴者、移動時間、情報源の3項目で顕著な差が見られた。同伴者では、周辺部では家族、都市部では「友人」や「自分だけ」など家族以外の傾向が高かった。移動手段では、「自動車」と回答した生徒が両地域とも圧倒的に多かったため、自動車での移動時間を比較したところ、周辺部では「30分~1時間」、都市部では「10~20分」と回答した生徒が最も多く、都市部の方がより身近に被服購入の店舗があるということが推察される。情報源では、周辺部は「テレビ」、「インターネット」、「家族」、都市部は「雑誌」、「友人」、「街中で見かける人の服」が多く、都市部の方が、被服に関する情報が、より身近に接しやすい環境であるといえよう。 また、「被服行動に関する項目」をカイ二乗検定によって分析した結果、周辺部と都市部の間で有意差及び有意傾向の見られた項目は、全31項目中、中学生では11項目、高校生では15項目であった。特に有意差の見られた尺度は、中学生では「自己顕示・表現性」、高校生では「経済性」及び「自己顕示・表現性」であった。この結果より、都市部の方が、被服行動に関する意識が高く、中学生より高校生の方が、有意に意識が高い傾向にあることがわかった。 このことから、周辺部では、全体的に意識が低いため、被服行動における全体的な意識の底上げ、都市部では、最も意識の低い「機能性」を意識させながら、目的に応じた被服選択を行う必要があると考える。 以上の点を配慮した指導方法・学習内容、及び教材等を検討していくことで、より有効な生徒の実態に応じた被服行動に関する授業の展開が可能になると考える。
著者
財津 庸子 柳 昌子
出版者
大分大学高等教育開発センター
雑誌
大分大学高等教育開発センター紀要 (ISSN:18842682)
巻号頁・発行日
no.13, pp.19-38, 2021-02

本研究は小学校教員養成における家庭科教育の課題を追究するために実施した日本家庭科教育学会九州地区会の共同研究の成果を、大学の授業に反映させようと試みたものである。研究方法は、共同研究の結果から家庭科リーダーに「問題の授業」として最も多く指摘された「実習を伴う授業」の「調理実習」のデータ、及び家庭科教育の受講生対象に実施した、小学校時期に家庭科で学習したことの受け止め方に関する質問紙調査の結果、の分析である。一方、大学の授業改善のためのFDとして、調理実習担当教員から「調理実習」を通してみた学生の知識・技術の実情と共に、それに対する具体的な改善策を提示された。教科教育教員からは新しい授業方法の一つとして、また施設・設備を補う手だてとして、ICT活用の可能性が示された。今回得られたデータを踏まえて、受講生が実習指導の知識と技術を習得できるような授業内容・方法の改善とともに環境整備についても提案したい。
著者
中西 雪夫 柳 昌子 財津 庸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.3, 2003

【目的】 <br>家庭科では住まい方に関心をもったり、室内環境を整えよりよい住まい方.を工夫したりする能力を育成しようとしている。学習主体である児童・生徒は、現実の生活やマスコミなどの情報の影響を受けて様々な住まい観をもつと考えられる。本研究では日本家庭科教育学会の「家庭生活についての全国調査」の結果を踏まえながら、さらに児童・生徒の意識に踏み込んだ調査を 実施し、住生活についての具体的な教育狭題を得ようとするものである。<br>【方法】<br>全国調査の住生活に関する意思決定の10項目それぞれに下位質問項目を作成し、自記式質問紙法で九州地区の小学絞4年生93名、6年生108名、中学.絞2年生115名、高等学校2年生106名、合計422名に実施した。質問は「もしもあなたが一人で使える部屋をもらえるとしたら、どんなことを大切にしたいと思いますか」と尋ねた後、「もう少しくわしく答えてください」と求めた。回答は単語のみ、箇条書き、文章と様々であったが、コード化して整理・分析した。<br>【結果】<br>1 部屋と空間との関わり<br>(1)好きなように部屋をかざること 「何をどんなふうに飾るの?」と尋ねたところ、ポスター等「何かを貼る」という回答と、好きな物など「何かを置く」という回答が多かった。「貼る」では小4、小6女子が、「置く」では小6男子、中2女子が高かった。高学年になるにつれて家具の配置、部屋の色使いなどと回答は多様化している。<br>(2)片づけて整理・せいとんすること 「片づいた部屋ってどんな部屋?」に対し、きれい、整理された等、肯定的記述と、ゴミが無い、ごちゃごちゃしてない等、否定的記述に分かれた。肯定の中では「きれい」が全体として25%前後と高く、とくに中2男子、高2男子が高かった。否定の中では「散らかってない」が20%前後と高く、小6女子、中2女子が高かった。<br>(3)そうじをして、清潔にすること 「清潔か清潔じゃないかってどうやったらわかるの?」に対し、ごみやほこりが無いことという記述が多く、とくに小5男子が高かった。「わからない」の回答は男女とも小4に多かった。<br>(4)風通しをよくすること 「なんのために風通しをよくするの?」に対し、換気や温度調節の記述が多く、気分転換などの回答もあった。<br>(5)部屋の位置および部屋の佐用期限についての希望 これは地区独自の設定項目である。「家の中のどのあたりがいい?」に対し回答は多様であり、配置は「2階」が多かった。また「その部屋はいつまで使いたい?」に対し、「自立するまで」は学年進行とともに高くなった。<br>2 部屋と人間関係<br> (1)ひとりでのんびりすること「ひとりでのんびりするってどういうことをするの?」に対し、「寝ること」と答えたものは学年進行とともに増え、男子、とくに小4男子に多かった。読書など「動きが少ない活動」は小6が最も多く、どの学年でも女子が圧倒的に多かった。「動きが多い活動」を答えたものは少数であったが、低学年、男子に多い傾向があった。(2)静かに勉強すること 「静かでないってどんなこと?」に対し、「うるさいこと」というように反対語に言い換えた答えが最も多く、男子に多く見られた。「テレビの音」は、高杖を除くと女子の方が多く、学年では小6と中2が高かった。「人の話し声」はどの学年でも女子に多く、とくに小4女子が飛び抜けていた。(3)友だちをよんで楽しくすごす 「楽しくすごすために何をしたいの?」に対し、「ゲーム」は低学年、男子が多く、とくに小4男子が飛び抜けていた。「おしやべり」と答えたのは逆に高学年、女子で多かった。ゲームと限定せずに「遊ぶ」と答えたのは低学年女子に多かった。(4)部屋にいても家族のようすがわかる 「どうして家族のようすが知りたいの?」に対し、「知りたいとは思わない」は高学年ほど多かった。「何をしているのか知りたい」は小学生と高2女子に多かった。「安心する」など情緒面の答えは小学生に多く、中2女子にも多かった。「わからない」と答えたのは、小4男女に多かった。(5)パソコンやテレビなどをひとりで使う 「みんなでテレビを見るのとどうちがうの?」に対し、「好きな番組を見られる」という回答が最も多く、小6を除いて女子の方が多かった。ひとりで見ると「寂しい」という答えは小4男女にみられたが、他の学年ではほとんど見られなかった。(6)ドアにカギをつけて家族が入らないようにする 「どうしてそう思ようになったの?」に対し、全体では「カギをつけようと思わない」が多かったが、中学生には少なかった。カギをつけたい理由で「家族が勝手に入ってくるから」は中2が飛び抜けていた。「見られたくない物・事がある」はどの学年でも女子が圧倒的に多かった。
著者
風岡 百穂 財津 庸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.71, 2010

1.目的<BR> 高校生の多くは、まだ家庭を創ることを遠い将来のように捉えている。そのような生徒たちに家族についての学習をより主体的に取り組ませたいと考え、本研究では「家族シミュレーションゲーム」を用いた授業実践を試みた。班をひとつの家族とみなし、生徒たちを親の立場に立たせて考えさせることを通して、家族の一員として話し合うこと、助け合うことを擬似的に体験させた。その際に、将来の家族について理想モデルを描くのではなく、少子化や家庭内暴力が社会問題・病理現象となっている現状を踏まえ、危機予測もしくは危機回避の力をつけさせることも意図した展開を考えた。擬似体験とはいえ予想外の出来事に対して対処でき得るという自信と、具体的な対応策を検討することにより、前向きに家庭を築こうとする態度を培いたい。以上のような、危機的状況を含む「家族シミュレーションゲーム」による体験的家族学習の効果を検討することを本研究の目的とする。<BR>2.方法<BR> 研究対象は大分県内の私立高校2クラス(A,B)、県立高校1クラス(C)である。「家族シミュレーションゲーム」の方法としては、班ごとに1~6のポジティブな特徴を記した赤色のカードを渡し、自分の家族に特に望む特徴3つを選ばせる。これら6枚のカードの内容は、1.家族形態・2.育児不安・3.親の性質・4.性別役割分業及び夫婦不和・5.子どもの性格的特徴・6.孤立状況といった実際の家庭の中で起こり得る状況を文章化したものである。同様にこれら6項目にそれぞれ対応するネガティブな特徴を記し、青色の1~6のカードとする。各班で選択されなかった数字の赤色カードを回収し、代わりに同じ数字の青色カードを渡す。これが「予想外の問題」が起こる、このゲームにおける家族にとっての危機的状況とする。それら3つの「予想外の問題」に対して対処法を考えさせる。<BR>3.結果<BR> 事前と事後のアンケート調査を比較したところ、育児の社会的支援についての項目でA・B・Cの3クラスとも同傾向の結果が得られた。「子どもを育てるとき、育児支援サービスや制度を利用することができる」という質問項目において、事前と事後の結果をt検定にかけたところ、全てのクラスで有意に意識が高まっていることがわかった(A:p<0.05、B:p<0.001、C:p<0.1)。 自由記述をみると、事前・事後共に「将来どんな家族・家庭を築きたいですか。」という質問項目において、「明るい」「楽しい」という表現は多くみられ、ポジティブな家族イメージをもつ者が多数であった。また事前では、「金銭面」の安定を挙げた生徒も少なくなかった。しかし、事後では、金銭面に関わる記述がほぼ無くなり、「助け合う」「話し合う」の記述が増え、更には「問題が起こっても解決できる」という回答が顕著に増加し、特にクラスBとCにおいては上位になっていた。収入の安定だけではなく、家庭内の人間関係の重要性も意識できるようになったためと考えられる。<BR> 以上より、危機的状況を含む「家族シミュレーションゲーム」を取り入れることで、家庭内で予想外の問題が起こっても家族で協力して乗り越えようとする積極的態度が意識できるようになると考えられる。また、状況に応じて社会的支援を利用することの必要性も理解できていた。6場面という高校生にとって少なくはない、また簡単ではない危機的状況を提示したにもかかわらず、家庭を創ることに後ろ向きになる生徒も見られず、どんな状況でも家族で協力して解決したいという前向きな姿勢が多く見られたことは成果と考える。