- 著者
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堀内 かおる
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.53, pp.8, 2010
〈目的〉2006年に実施された「家族の法制に関する世論調査」(内閣府)によると、家族の役割として最も大事だと考えられることとして、「心の安らぎを得るという情緒面」と回答した者が最も多く44.4%を占め、「子どもをもうけ,育てるという出産・養育面」と回答した者は29.2%である。家族の役割として情緒面の充実が求められる今日、「心の拠り所としての家族」という認識は多くの人々の共感を得ていると考えられる。本研究者は、2009年度より、多様な家族の姿を描いた絵本に着目し、家庭科教材としての有効性を検討してきた。日本家庭科教育学会2009年度例会では、父親と子どもとの関わりが描かれている絵本を分析した結果を報告した。今回は、アメリカで出版されている同性カップルと子どもによる「家族」を取り上げている絵本に着目した。日本人の作家による同性カップルを描いた絵本はいまだ見られないことを鑑み、先行するアメリカの状況において、これらの絵本がどのように評価されているのかを調査するとともに、絵本の構造を分析し、絵本の中に込められたメッセージを明らかにするとともに、家族の在り方を問う家庭科教材としての可能性について検討することを本研究の目的とする。<BR>〈方法〉1.アメリカで出版された同性カップルとその家族を描いた児童書・絵本の変遷について、インターネットや文献資料から明らかにする。2.日本では無名であるが45冊を超える絵本を刊行しているアメリカ在住の著名な絵本作家であるパトリシア・ポロッコによる絵本<I>"In Our Mothers' House"</I>, Philomel Books, New York, 2009を取り上げ、登場人物の描かれ方と内容のメッセージについて考察する。3.家庭科教材として「多様な家族」を取り上げる際の着眼点について検討する。<BR>〈結果及び考察〉1.同性カップルとその家族を描いた児童書・絵本としては、1981年にデンマークで出版され1983年に英語で翻訳出版されたスザンヌ・ボッシュによる<I>"Jenny lives with Eric and Martin"</I> が最初である。その後、1989年にアリソン・ワンダーランド社より<I>"Heather has two mommies"</I>が出版され、続いて同社から1990年に<I>"Daddy's Roommate"</I>、1996年には続編となる<I>"Daddy's Wedding"</I>が出版された。これらの図書は、論争的テーマの作品として話題になり、政治論争にまで発展した。<BR>2.パトリシア・ポロッコによる作品<I>"In Our Mothers'House"</I> は、23のシーンから構成されており、女性の同性カップルが生後間もない3人の養子を次々に迎え、子どもたちとともに様々なイベントを楽しみ、地域の中で近隣の人たちと親しく暮らしている様子が描かれている。地域の人々の中には一人だけ、彼女たちを敵視する女性がいるが、この女性は例外的存在となっている。年月を経てカップルの女性たちが年老いて亡くなってからも、子どもたちの拠り所として、「母さんたちの家」はいつまでも位置づいている。子どもたちが成長しそれぞれの配偶者を得てからの姿までも描いているところに、本書の特色がみられ、「家族」は時とともに形を変えながら次世代に継承されていくという暗喩が示唆される。<BR>ストーリーは、「同性カップルによる家族」というテーマのみならず、人種や民族がそれぞれ異なる3人の子どもたち、インターナショナルな文化的背景を持った地域の人々との共生という「多様性」が主題となっている。「多様性」を前提とした「共生」について、示唆を与えうる絵本であることが確認された。同時に、「家族」が成立する必要十分条件として不可欠なのが「愛情」であるというメッセージが込められていた。<BR>3.絵本を「教材」として取り上げようとすると、教師には、その絵本に内在するメッセージ(イデオロギー)に対する解釈が問われることになる。特に、論争的なテーマに関しては、その教材を使用することによって「何を伝えたいのか」ということをめぐり、慎重な検討を要する。一つの家族形態のみを提示するのではなく、「多様な家族」の形を示す複数の絵本を提示し、それらの「家族」の共通性に焦点を当てるという方法が考えられる。